EP 18
英雄の凱旋、そして最強の妻たちのお説教
デーモンロードを完全粉砕し、地下要塞を壊滅させた太郎とヒブネは、捕らえられていたエルフたちを連れて無事に地上へと脱出した。
清々しい朝日が昇る中、一行は結界を抜け、エルフの里へと帰還を果たした。
「みんな! 帰ってきたぞー!」
「ああ……! とーちゃん! かーちゃん!」
里は、瞬く間に涙と歓喜の声に包まれた。
行方不明になっていた家族との再会。抱き合う親子、涙を流す恋人たち。
その温かい光景を見て、太郎とヒブネは静かに安堵の息をついた。
その夜。
エルフの里では、太郎たちを称える盛大な宴が開かれた。
太郎が100円ショップスキルで提供した大量の酒と極上食材(高級焼肉セットやオードブル)により、普段は静かで質素な里が、かつてないほどのお祭り騒ぎとなっていた。
「勇者太郎様! 本当に、本当にありがとう!」
「ヒブネ! お前は里の誇りだ!」
エルフたちが次々と口々に感謝を述べ、太郎に酒を注ぎ、楽しげに踊り明かす。
そんな賑やかな宴の片隅で、太郎は一人、静かな切り株に座り、夜空の月を見上げながら杯を傾けていた。
「ふぅ……。これで一件落着だね。明日からまた、陽奈と月丸と遊ぶ平和な日々だ」
肩の荷が下りた。
そう思って気を抜いた瞬間。
背後に二つの影が落ち、周囲の気温が急激に、スゥッと氷点下まで下がった気がした。
精霊たちが悲鳴を上げて逃げ出していくのが見える。
「……太郎様?」
「ッ!?」
背筋が凍りつくような、甘く、しかしとてつもない圧力を含んだ声。
太郎が恐る恐る振り返ると、そこには満面の笑み(目は全く笑っていない)を浮かべたサリーと、無言で腕を組んで仁王立ちするライザがいた。
「サ、サリー? ライザ? 起きてたの? ほら、陽奈と月丸は……」
「子供たちは長老様が見てくれていますわ。……それより、太郎様」
サリーが一歩近づく。その足元から、空間が歪むほどの魔力が漏れ出している。
「何故、私達に黙って行かれたのですか?」
「本当です。置き手紙一つで姿を消すなんて……。もし太郎様の身に何かあったら、どうするおつもりだったのですか?」
ライザも詰め寄り、チャキッ、と長剣の柄に手をかけた。
先ほどのデーモンロードなど比にならないほどの、絶対的な死の気配。太郎は滝のような脂汗を流しながら後ずさった。
「い、いや! 違うんだ! 君達を仲間外れにしたわけじゃなくて……!」
太郎は必死に両手を振って弁明した。
「君達には月丸や陽奈の事があったし……それに、今回の敵は『奴隷』とか『生贄』とか、そういう非道な連中だったんだ。君達みたいな優しい『お母さん』に、そんな胸糞の悪いものを絶対に見せたく無かったんだよ!」
太郎なりの、精一杯の気遣いと愛情だった。
それを聞いた二人は、顔を見合わせた。
そして、大きなため息をついた後、ふっと表情を緩めた。
「もー! 太郎様ったら!」
サリーが太郎の頬をむにゅっとつねった。
「水臭いですよ! 私達は家族です! どんな時も一緒ですし、私は『無敵の奥様』です! そんな悪党ども、へっちゃらです! ……というか、抜け駆けはずるいですわ!!」
「えっ?」
「私だって! 最近の育児のストレスを、極大魔法で山の一つや二つ吹き飛ばして発散したかったですのに!」
サリーが腰に手を当ててプクッと頬を膨らませた。
「私だってそうです」
ライザが太郎の手をギュッと握りしめた。
「私は『最強の奥様』として、太郎様の護衛と、子供達の面倒くらい完璧に両立してみせますわ。……それに、剣が鈍らないように、私もデーモンロードくらい三枚おろしにしてスカッとしたかったですわ!」
ライザも悔しそうに唇を噛む。
彼女たちにとって、魔物退治は「危険な任務」ではなく、最高のリフレッシュ(ストレス発散)の娯楽なのだ。それを自分たちだけ置いていかれたことが、何よりも許せなかったらしい。
「えぇ……そっち!?」
太郎は完全に拍子抜けしたが、すぐに居住まいを正した。
「わ、分かった! 僕が悪かった! 心配かけて本当にごめん! 次からは絶対に連れて行くから!」
「はい、約束ですよ?」
「破ったら、次は本当にお仕置きですからね?」
三人は身を寄せ合い、仲直りのハグをした。
恐ろしくも愛おしい妻たちに挟まれ、太郎は(つねられた頬をさすりながら)ホッと息をついた。
その様子を、少し離れた場所からヒブネとゼフィル長老が微笑ましそうに見守っていた。
「……やはり、あの方々には誰も敵いませんね」
「うむ。魔王だか何だか知らんが、このサバラー大陸の平和も、あの規格外な家族がいれば当分は安泰じゃろうて」
宴の焚き火がパチパチと爆ぜる音と共に、エルフの里の夜は賑やかに更けていく。
家族の絆と、妻たちの「圧倒的武闘派」な本質を再確認した太郎たちの旅路は、まだまだ波乱万丈に続いていくのだった。




