表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天井からトラックが降ってきたので、100円ショップスキルで異世界を生き延びます  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
94/103

EP 14

太陽と月、新たな命の輝き

エルフの里、太郎たちの住むツリーハウス。

そのリビングは、かつてないほどの異様な緊張感に包まれていた。

国を滅ぼしかけた魔神王との決戦の時でさえ、これほど張り詰めた空気ではなかっただろう。

「……僕に、出来る事は無いかな? お湯を沸かすとか、タオルを洗うとか……そうだ、100均で『除菌ウェットティッシュ』を大量に出して……」

「お湯もタオルも、もう十分すぎるほど運び込みました。除菌ティッシュも山積みです。太郎様、少々落ち着いて下さい」

ヒブネが静かにハーブティーを淹れながら、呆れたように言った。

太郎はリビングを檻に入れられた熊のように、ウロウロと歩き回っている。

座ったかと思えばすぐに立ち上がり、寝室のドアを食い入るように見つめ、また座る。

「う、うん……。分かってるんだけど……」

じっとしていられない。

奥の部屋では、サリーとライザが今、命がけの戦い(出産)に挑んでいるのだ。

どんな強敵が現れても100円グッズと機転で薙ぎ払ってきた太郎だが、命の誕生という神秘の前では、自分の無力さが歯がゆくてたまらなかった。

「太郎様がここで慌てても仕方ないでしょう? ドッシリ構えて信じて待つのも、父親の最初の仕事ですよ」

「そ、そうだけど……! もし何かあったら……!」

「大丈夫です。里一番のベテラン産婆と、優秀な治癒魔法使いがついています。それに、何よりあの『最強のお二人』ですよ? 負けるはずがありません」

ヒブネの力強い言葉に、太郎は少しだけ肩の力を抜いた。

そうだ、彼女たちは強い。誰よりも強く、そして優しい僕の妻だ。信じて待つしかない。

時計の針の進みが永遠のように遅く感じられた、その時。

「オギャアアアアア!!」

「フギャアッ! オギャアッ!」

力強く、生命力に満ち溢れた産声が、二つ重なって響き渡った。

「ッ!!」

太郎が弾かれたように顔を上げる。

ガチャリとドアが開き、汗を拭いながら年配のエルフの産婆が出てきた。

彼女は、満面の笑みを浮かべていた。

「おめでとうございます、太郎様。無事に……お二人とも、お生まれになりましたよ」

「!!」

太郎は返事も忘れて、寝室へと駆け込んだ。

「サリー! ライザ!」

部屋に入ると、神々しい光景が目に飛び込んできた。

ベッドの上、汗で髪を濡らし、荒い息をつきながらも、聖母のように優しく微笑む二人の妻。

そして、その腕の中に大事に抱かれた、小さな小さな命。

「太郎様……。元気な、女の子ですわ」

サリーが愛おしそうに、小さな包みを抱き寄せる。

その中には、サリーに似た色の薄い栗色の髪をした、愛らしい赤ん坊が目を固く閉じて泣いていた。

「男の子ですわ……。太郎様似の、とても凛々しい子です」

隣のベッドで、ライザももう一つの包みを優しく揺らす。

そこには、元気に手足をバタつかせ、すでに力強さを感じさせる男の子がいた。

「あ……あぁ……」

太郎の目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。

近づいて、ベッドの間に膝をつき、震える両手で二人の妻の頭と、小さな赤ん坊たちの頬をそっと撫でる。

「ありがとう! ありがとう! 本当にありがとう! よく頑張ってくれたね……!」

言葉にならない。

ただひたすらな感謝と、胸が張り裂けそうなほどの愛しさだけが心を埋め尽くす。

ヒブネも静かに部屋に入り、その美しすぎる光景に目を細めていた。

「ふふ、感動の対面ですね。……ですが太郎様、大事な仕事が残っていますよ」

「え?」

「お名前を付けませんと。この子達への、最初のプレゼントです」

「名前……」

太郎は涙をゴシゴシと拭い、二人の子供の顔を交互に見つめた。

数ヶ月間、散々悩み、字画を調べ、画数でパニックになり、考え抜いた名前。

でも、この子達の顔を見た瞬間、そんな迷いは全て綺麗に消え去っていた。

太郎は深呼吸をして、真っ直ぐに妻たちの目を見て告げた。

「女の子は……『陽奈ひな』。男の子は……『月丸つきまる』だ」

「ヒナ……ツキマル……」

サリーとライザが、その響きを口の中で優しく転がす。

「陽奈……。暖かくて、優しい響き……。とっても可愛い名前ですわ」

「月丸……。強くて、神秘的な響き……。ありがとうございます、太郎様。この子も喜んでいます」

ライザの腕の中で、月丸がピタリと泣き止み、キャッキャと小さな声を上げた。

「どういう意味なのですか?」

ヒブネが尋ねると、太郎は窓の外を見上げた。

そこには、昼間の澄み切った青空(太陽)と、うっすらと白く浮かぶ月が同居していた。

「『太陽のように、周りを暖かく照らして笑顔にする子になってほしい』。そして、『月のように、暗闇の中でも人が迷わない道しるべのような子になってほしい』。……そんな願いを込めたんだ」

「太陽と、月……。素敵です」

サリーが陽奈の柔らかい頬にキスをする。

ライザが月丸の小さな手を、そっと自分の指で握る。

「陽奈、月丸。パパがくれた、世界で一番の名前だよ。二人とも、立派に育つのよ」

エルフの里のツリーハウス。

暖かな木漏れ日が差し込む部屋で、新たな家族の物語が産声を上げた。

100円グッズで世界を救った勇者改め、二児のパパとなった太郎の、賑やかで最高に幸せな第二章は、ここからが本番である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ