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天井からトラックが降ってきたので、100円ショップスキルで異世界を生き延びます  作者: 月神世一


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EP 13

パパは心配性 ~名前と字画と狩りの時間~

エルフの里、ツリーハウスのリビング。

そこで、奇妙な振動が起きていた。

ズズズッ……ズズズッ……。

フローリングの床が摩擦で焦げるのではないかというほどの猛スピードで、太郎が行ったり来たりを繰り返している足音だった。

サリーとライザからの「妊娠」の報告を受けてから数ヶ月。出産予定日が近づくにつれ、太郎の精神状態は「喜び」を通り越して「極度のパパ・パニック」に陥っていたのだ。

「名前はどうしよう……。長男なら『一郎』、次男なら『二郎』、三郎……いや、安直すぎるか?」

太郎はブツブツと独り言を呟きながら、空中に展開したスキルウィンドウの電卓機能で、猛烈な勢いで何かを計算している。

「いや、字画じかくとか絶対に考えないと……! 総画数が大凶だったら子供の人生が大変だ。やっぱり『大吉』になる縁起が良いものが良い……。待てよ、女の子かも知れない!? その場合は……『花子』? いや、二人の顔立ちならもっとハイカラな『キャサリン』とか? いやいや、この世界の文化に合わせて……ブツブツブツ……」

「……あの、太郎様」

部屋の隅で白銀の槍の手入れをしていたヒブネが、呆れ顔で声をかけた。

「さっきから床が擦り減りそうです。今からそんなに気にしていたら、生まれる前に貴方の気が持ちませんよ?」

「ヒブネぇ……」

太郎は泣きそうな顔で振り返った。

「だって、一生モノなんだよ!? 名前でその子の人生が決まるかもしれないんだ! 役所に提出した時に『変な名前!』って笑われたらどうするのさ!」

「役所? ……よく分かりませんが、サリ―さんもライザさんも、今は奥の部屋でぐっすり眠っています。貴方がそんなに騒いでは、お腹の赤ちゃんに障りますよ」

「はっ! そうだね……静かにしないと……」

太郎はハッとして両手で口を強く押さえたが、手足の震え(超高速の貧乏ゆすり)は止まらない。

魔神王の極大魔法を前にした時ですらあくびをしていた男が、今はただの「プレッシャーに弱い小心者の父親」に成り下がっていた。何もしていないと、不安と期待で爆発しそうになるのだ。

ヒブネは小さく溜息をつき、手入れを終えた槍を立ち上げた。

「……じっとしているのが辛いのなら、狩りにでも行って気分転換しましょう。妊婦には栄養が必要です。滋養強壮に良い、大物の獲物を狩りに行きませんか?」

「! 狩り……!」

その提案に、太郎の目がカッと輝いた。

ここで悩んでいても仕方ない。体を動かして、愛する家族のために美味しいご飯の材料を調達する。今の太郎に必要なのは、明確な「タスク」だった。

「そうだね、ヒブネの言う通りだ! じっとしてても始まらない! 最高に美味しいお肉をゲットして、二人を喜ばせるんだ!」

「えぇ、その意気です。行きましょう」

こうして、太郎とヒブネはエルフの里周辺の森へと狩りに出かけた。

森は深い静寂に包まれていたが、太郎の頭の中は相変わらず騒がしいままだった。

「ねぇヒブネ。もし男の子だったら、君の槍の使い方を教えてやってくれる?」

「気が早いですね……。まあ、素質があれば」

「もし女の子だったら、変な悪い虫がつかないように僕が全力で守らないと……。そうだ、100円ショップのスキルで『防犯ブザー(ランドセル用)』と『催涙スプレー』を大量に取り寄せて……」

「過保護すぎますし、物騒です」

そんな漫才のような会話をしながら森の奥へ進むと、突如として茂みの奥からガサガサという重い音がした。

「しっ。……獲物です」

ヒブネがスッと身を沈め、鋭い視線を向ける。

木々をなぎ倒して現れたのは、巨大な刃のような角を持つBランク魔獣『グレート・ボア(大猪)』だった。

その肉は極上の脂が乗っており、煮込めば疲労回復と滋養強壮に効く「森の宝」とも呼ばれる代物だ。

「ブモオオオオオッ!!」

ボアがこちらに気づき、地面を蹴り立てて猛突進してきた。

「来ますよ、太郎様!」

ヒブネが槍を構える。

しかし、太郎は迫り来る巨大な猪を見ても、まだ上の空だった。

「(猪……猪か……。干支で言うといのしし年生まれになるのかな? いや、この世界に干支はないか……でも猪突猛進な元気な子に……)」

「太郎様! 避けて!」

「うわっ!?」

ドガァァッ!!

ボアの突進をギリギリで回避する太郎。彼が直前まで立っていた背後の大木が、飴細工のようにへし折れる。

その凄まじい衝撃と粉塵で、ようやく太郎のスイッチが入った。

「危ないなぁ! ……でも、あの立派な太もも……」

太郎の脳裏に、ぐつぐつと煮込まれる『猪鍋(ぼたん鍋)』のビジョンが鮮明に浮かび上がった。

特製の合わせ味噌仕立てのスープに、100均で買った新鮮なゴボウや大根などの根菜をたっぷりと入れて。栄養満点で、体が温まり、出産を控えた妻たちに体力をつけさせるにはこれ以上ない極上メニューだ!

「よし……! 狩るぞ! 愛する妻と、生まれてくる子供のために!!」

太郎の顔が、ようやく「パパ」から「勇者」へと切り替わった。

神話級の弓『雷霆』を構え、弦を限界まで引き絞る。

「ヒブネ、足止めを頼む!」

「任せてください!」

ヒブネが疾風のごとく駆け出し、槍の石突きでボアの前足を的確に払う。

バランスを崩した巨体が、ズズザァァッと前のめりによろめいた。

その完璧な隙を逃さず、太郎は矢を放った。

「食らえ! 必殺・『安産祈願ショット』!!」

「ネーミング……!」

ヒブネが思わずツッコミを入れる間もなく、黄金の光を纏った矢は、正確無比にボアの眉間を貫通した。

ドサリ……。

地響きを立てて、巨体が倒れ伏す。

「ふぅ……やった」

太郎は弓を下ろし、額の汗を拭った。

体を動かし、明確な目的を達成したことで、先程までのそわそわとした得体の知れない不安は綺麗に霧散していた。

「お見事です。これで当分、お肉には困りませんね。最高のぼたん鍋が食べられそうです」

「うん! ありがとう、ヒブネ。おかげで頭がスッキリしたよ。……名前は、二人が起きてから、三人で一緒に考えることにするよ。それが一番だ」

「それが良いでしょう。父親がドンと構えて笑顔でいることが、家族にとって一番の安心ですから」

ヒブネは優しく微笑んだ。

二人は巨大な猪を引きずりながら、愛する家族が待つツリーハウスへの帰路につく。

プレッシャーに弱い最強の勇者は、美味しいご飯という最高の武器を手に入れ、父親になる覚悟を少しずつ固めていくのだった。

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