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天井からトラックが降ってきたので、100円ショップスキルで異世界を生き延びます  作者: 月神世一


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EP 9

ギルド長を黙らせる「ビニール傘」の衝撃

アルクスの中央にそびえ立つ、堅牢な石造りの巨大建築物。

そこが、荒くれ者たちの吹き溜まりであり、同時に街の防衛と経済を回す中枢――『冒険者ギルド』の本部だった。

「うわぁ、凄いな……」

中に入ると、昼間からエールをあおる戦士や、依頼掲示板を血眼で睨む魔法使いたちで溢れかえり、熱気と酒の匂いがむせ返るようだった。ポポロ村の穏やかな空気とは別次元の「殺火」の匂いに、太郎は気圧されて一歩後ずさる。

「こんにちはー!」

しかし、サリーはそんな物騒な空気を全く気にせず、慣れた足取りで受付カウンターへと向かった。

「あら、サリーちゃん? 久しぶりね。村長さんは元気?」

受付の武装した女性職員が、事務的な作り笑いを崩して親しげに手を振った。

「うん! ヴォルフさん、居ますか? ちょっと大事な相談があって」

「ギルド長にね? 分かったわ。今は会議も入っていないから大丈夫よ。2階の奥の執務室に通すわね」

「ありがとう!」

完全に「顔パス」である。

村長の娘という肩書に加え、ギルド長一家と家族ぐるみの付き合いがあるサリーのコネクションは、太郎が思っていた以上に強力だった。

太郎はサリーの背中を追いかけ、軋む木製の階段を上がっていった。

2階の最奥、重厚な鉄張りの扉の前で、サリーがノックをする。

コンコン。

「……入れ」

中から響いたのは、岩が擦れ合うような低い声だった。

扉を開けると、そこには書類の山に埋もれた巨大なマホガニーのデスクがあり、一人の男が座っていた。

「ひっ……」

太郎は思わず息を呑んだ。

隻眼せきがんに眼帯。顔には猛獣に引き裂かれたような古傷。禿げ上がった頭部から首筋にかけては、呪術的な刺青が刻まれている。どう見てもカタギではない、裏社会のボスのようないかつい風貌だ。

しかし、その男――ギルド長のヴォルフは、サリーの姿を認めると、強面をふっと和らげた。

「おぉ、サリーか。久しぶりだな。ずいぶん大人びたじゃないか」

「おじさん、お久しぶり! 今日はね、この太郎さんのことで相談があって来たの」

サリーは太郎を前に押し出し、ここまでの経緯――太郎が異世界から来たこと、無限に未知の物資を出せる不思議なスキルを持っていること、そして先ほど大通りで『ライター』を出したせいで貴族に目をつけられそうになったこと――を包み隠さず説明した。

ヴォルフは腕を組み、黙って話を聞いていたが、やがて太郎に向き直ると、その隻眼で太郎の全身を値踏みするように睨みつけた。

「……なるほどな。百聞は一見にしかずだ。その『未知の品』とやらを見せてみろ。話はそれからだ」

「は、はい……」

太郎は緊張で喉を鳴らしながら、空中のウィンドウを開いた。

ライターのような小間物ではなく、はっきりと現代の「素材技術の異常さ」が伝わるもの。それでいて、武器ではないもの。

太郎は『雨具』カテゴリから、ある商品を選択した。

【 透明ビニール傘(60cm・ジャンプ式):100P 】

[購入しますか? YES]

ポチッ。

「お見せします。これは、僕の世界の雨除けの道具です」

光の粒子と共に、太郎の手に細長い透明な筒状のものが現れる。

太郎は手元のボタンをカチッと押し込んだ。

バサァッ!!

勢いよく傘が開く。

半透明のビニール生地がピンと張り、見事なドーム状の「盾」が執務室に展開された。

「なっ……!?」

ヴォルフがガタッと音を立てて立ち上がった。

彼はデスクを回り込み、太郎の持っているビニール傘に顔を近づけ、震える指でその表面に触れた。

「こ、これはなんだ……!? ガラスのように透き通っているが、布のように柔らかく、しかし絶対に破れない強靭さを持っている。まるで『水属性の防御結界』をそのまま物質化したような……」

さらにヴォルフの隻眼が、ビニールを支える内部の「骨」に釘付けになる。

「そしてこの金属の骨組み! なんという軽さだ! しかも、錆び一つないステンレスが、寸分の狂いもなく均一に加工されている……。ドワーフの地下帝国の名工が一生をかけて打っても、ここまでの精度のワイヤーは作れんぞ!!」

ヴォルフの額に冷や汗が浮かんでいた。

彼のような歴戦の戦士から見れば、視界を遮らず、軽量で、かつ完璧な精度で作られたこの「傘」は、雨具などではなく**『未知の超技術で作られた、完全透明の防御用シールド』**にしか見えなかったのだ。

「……太郎。お前の懸念は完全に正しい」

ヴォルフの声色が、地の底から響くような真剣なものに変わった。

「これらをそのまま市場に出せば、間違いなく大陸中がひっくり返る。『未知の古代遺産』か『禁忌の技術』として、国軍や闇組織が血眼になってお前を拉致しに来るレベルだ。お前は今、歩く国家機密そのものなんだぞ」

「そんな……。じゃあ、太郎さんは商売なんて……」

サリーが青ざめて机に手をつく。

だが、ヴォルフは顎鬚を撫でながらしばらく沈黙し……やがて、歴戦の商人としてのニヤリとした笑みを浮かべた。

「ふむ……だが、毒も使いようだ。お前さん、この品を冒険者ギルドに卸してくれれば、**『ギルドお抱えの変わり者のドワーフが作った、新作の試作品』**という名目で販売する事は可能だぞ」

「えっ? ドワーフ製……ということに偽装するんですか?」

「ああ。ドワーフの技術力はこの世界でもぶっちぎりでイカれているからな。『ドワーフの変人が作った』と言えば、多少奇妙な素材やオーパーツであっても、人々は『あいつらならやりかねん』と納得する。出所を隠す隠れ蓑にするには丁度いい」

太郎の「経済学部生」としての思考が高速で回転し始めた。

(なるほど……。つまり、僕が「OEM(受託製造)」としてギルドに商品を卸し、ギルドが「ドワーフ・ブランド」として独占販売する。ギルドという強力な組織が間に入ることで、僕の身元は隠蔽され、安全な商流が確保されるわけか!)

「当然、ギルドは仲介料マージンを貰うし、売上の一部は運営費に回させてもらう。だが、お前は『ギルド専属の特別納入業者』という立場を得られる。ギルドの名と力において、お前の身元と安全は完璧に保証してやる。……悪い話じゃ無いだろう?」

ヴォルフが不敵に笑う。

太郎にとっては、これ以上ない最高の提案だった。身元の保証、販売ルートの確保、そしてリスクの分散。

「太郎さん……」

サリーが心配そうにこちらを見ている。

太郎は顔を上げ、ビニール傘を閉じると、ヴォルフの隻眼をしっかりと見返した。

「分かりました。僕の利益から3割……いや、安全保障費として4割をギルドに納めます。その代わり、僕とサリーの身の安全と、不当な干渉の排除をお願いします」

「4割だと? ほう……ただのひ弱な坊主かと思ったら、商人の基本と『命の相場』が分かっている顔をしているな」

ヴォルフが分厚い手を差し出し、太郎はその手をしっかりと握り返した。骨が軋むほど強い、戦士の握手だった。

「交渉成立だ。これより、冒険者ギルドは太郎さんをビジネスパートナーとして歓迎しよう。よろしく頼むよ、異世界の商人殿」

こうして、佐藤太郎は表向きは「冒険者ギルドの平職員」、裏では「謎のドワーフ製アイテムの独占供給元」として、この巨大都市アルクスでの強力な生活基盤と、ランキングを駆け上がるためのチートビジネスの土台を確固たるものにしたのだった。

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