EP 39
ビーチの視線と、極上トロピカルデート
抜けるような青空と、どこまでも続くコバルトブルーの海。
ポートセーリの白い砂浜で、僕たちはまさに夢のようなバカンスを満喫していた。
「ジャーン! 海の必須アイテム、『シャチのフロート(大型浮き輪)』と『カラフル・ビーチボール』だ!」
僕がウィンドウから取り出した100均のレジャーグッズに、妻たちは大はしゃぎだった。
「わぁっ! この黒と白の大きなお魚、水に浮くんですか!?」
サリーが嬉しそうにシャチのフロートにまたがり、波に揺られてキャッキャと笑う。白いフリルのビキニ姿で水しぶきを上げる彼女は、まさに海の妖精だ。
「太郎様! いきますよ!」
ライザがビーチボールをトスし、軽やかに砂浜を蹴ってジャンプした。
パァァンッ!!
黒いビキニ姿のライザが放ったスパイクは、空気を切り裂くような鋭い音を立てて海面に突き刺さり、盛大な水柱を上げた。……遊びでも、剣姫の身体能力は健在である。
「ははは、ライザ、ボールが破裂しちゃうよ!」
「ああっ、す、すみません! つい本気になってしまって……」
顔を赤らめるライザに、僕とサリーは顔を見合わせて笑い合った。
そんな僕たちの様子を、周囲の観光客や地元の海の男たちが、目を丸くして見つめていた。
いや、正確には「僕の妻たち」を、だ。
「おい、見ろよあの超絶美女二人……」
「信じられねえ、どこの王国の姫君だ!? あんな布地の少ない、しかも見たこともない美しい泳ぎ着を着て……」
「白い方は可愛らしくて豊満だし、黒い方は引き締まってて最高にイイ女だぜ……」
周囲の男たちは完全に釘付けになっていた。
当然だろう。僕の妻たちは、異世界全土を探しても見つからないレベルの絶世の美女なのだから。
「……ねえ、一緒に泳がない? 良かったら俺たちの船に……」
自信ありげな地元の若い男が、僕が少し離れた隙を突いてライザたちにナンパを仕掛けようとした。
しかし、ライザは振り返りもせず、絶対零度の声で言い放った。
「失せなさい。私達の瞳には、愛する夫以外を映す気はありません」
ピシャリと、そしてほんの少しだけ闘気を乗せた拒絶。男は「ひぃっ!」と情けない声を上げて逃げ出していった。
「太郎様~!」
「ふふっ、太郎様、こちらへ」
そして二人は、僕の姿を見つけるや否や、満面の笑みで駆け寄ってきて、左右から僕の両腕にギュッと抱きついてきた。
柔らかい感触と、潮風に混じる甘い香りが僕を包み込む。
「なんだ、あの冴えない男は……!?」
「あんな美女二人を侍らせてるなんて……くそっ、羨ましすぎるッ!」
周囲の男たちから、血の涙を流さんばかりの嫉妬と羨望の視線が突き刺さる。
(ごめんよ、名も知らぬ男たち。この世界一の女神たちは、僕のお嫁さんなんだ)
僕は少し気恥ずかしく思いつつも、男としての最大級の優越感を噛み締めていた。
「よし、そろそろ休憩しようか」
遊び疲れた僕たちは、砂浜に広げたパラソルの下、ビーチチェアに寝転がった。
僕はスキルで『南国トロピカル・ミックスジュース(紙パック)』と『ロックアイス』、そしてプラカップを取り出し、冷たいジュースを二人に手渡した。
さらに、激安スーパーカテゴリから『カットパイナップル&マンゴーの盛り合わせ』も追加だ。
「ん~! 冷たくて美味しい!」
サリーがストローでジュースを吸い、目を細める。
「波の音を聞きながら、愛する人と冷たい果実を頂く……。これ以上の贅沢はありませんね」
ライザが、僕の肩にコテンと頭を預けてきた。
サリーも負けじと、反対側から僕の腕にすり寄る。
「太郎様、あーん♡」
サリーが、プラスチックのフォークに刺した甘いマンゴーを、僕の口元へと運んできた。
「あ、あーん」
僕が口を開けてパクッと食べると、二人は嬉しそうにクスクスと笑った。
「今度は私です。太郎様、パイナップルをどうぞ」
「美味しいよ、ライザ。ありがとう」
青い空、白い雲、打ち寄せる波の音。
両手には愛する妻たちの温もりと、甘いフルーツ。
周囲の嫉妬の視線など、もはや心地よいBGMでしかない。
(……帰りたくないなぁ)
僕がポツリと呟くと、二人は優しく微笑み、さらに強く僕の腕を抱きしめるのだった。
こうして、バカンスの第一日は、最高に甘く、最高に平和な時間として過ぎていった。
――翌日、この港町で「ある伝説の海魔」と激突することになるなど、今の僕たちには知る由もなかった。




