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天井からトラックが降ってきたので、100円ショップスキルで異世界を生き延びます  作者: 月神世一


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EP 37

ラーメン道、開幕! エルフと挑む黄金のスープ

「天ぷら」の成功によって、アルクス城の食卓は劇的な進化を遂げた。サクヤが揚げる天ぷらは絶品で、素材の味を極限まで活かすエルフの感性は、まさに唯一無二。

だからこそ、僕は確信していた。

(サクヤなら作ってくれるはずだ。僕が愛してやまない、あの『国民食』を……!)

それは、深夜に無性に食べたくなる魔性の味。鶏ガラや豚骨、煮干しから取った重厚なスープ。コシのある麺、そしてとろけるチャーシュー。そう、ラーメンである。

「善は急げだ」

僕は執務室を飛び出し、城の巨大な厨房へと向かった。そこでは、新しく料理長に就任したサクヤが、夕食の下準備をしていた。彼女は僕の姿を認めると、包丁を置いて優雅に一礼した。

「如何なさいましたか、太郎様。お夜食をご所望でしょうか?」

「いや、サクヤ。君にぜひ試してもらいたい料理があるんだ」

僕はウィンドウを開き、派手なパッケージの袋を取り出した。

『激ウマ! 本格醤油ラーメン(5食パック):100P』。日本の技術の結晶、インスタントラーメンだ。

「これは……?」

「まぁ、騙されたと思って。この説明書通りに作ってみてよ」

「……はぁ。『沸騰したお湯で3分煮込む』『粉末スープを入れる』……変わった手順ですね」

サクヤは不思議そうな顔をしながらも、手際よく鍋にお湯を沸かした。乾麺を投入し、箸でほぐす。3分後、粉末スープを入れると、厨房に醤油とスパイスのジャンキーで暴力的な香りが充満した。

「出来ました、太郎様」

「よし、まずはサクヤ、君が食べてみて」

サクヤは器に盛られたラーメンを、箸で持ち上げた。縮れた黄色い麺。透き通った茶色のスープ。ふーふー、と冷ましてから、上品に啜る。

ズズッ……。

「……んッ!?」

サクヤの長い耳がピクリと跳ねた。彼女の瞳が大きく見開かれる。

「美味しい……! 初めての食感ですわ! この縮れた麺にスープがこれでもかと絡んで……それに、このスープ! 複雑な旨味が濃縮されていて、舌を支配されるようです!」

化学調味料(旨味成分)の暴力的な美味しさに、繊細なエルフの味覚が衝撃を受けたようだ。サクヤは夢中で麺を啜り、一滴残らずスープを飲み干した。

「気に入ってもらえて何よりだ。……でも、サクヤ。これは『インスタント』といって、手軽さを追求した仮の姿なんだ。本物は、もっと奥が深い」

僕はウィンドウから、分厚い専門書を数冊取り出した。

『究極! ラーメン繁盛店の作り方』『スープの教科書』『製麺の科学』。

「これを君に託す。ここにラーメンの奥義が記されているよ」

「こ、これに……ラーメンの真理が!」

サクヤは震える手で本を受け取った。ページをめくると、鶏ガラ、豚骨、魚介、昆布……あらゆる出汁の取り方と、かんすいを使った製麺技術が網羅されていた。

「私の料理人としての血が騒ぎます……! やらせてください、太郎様。私の手で、究極の一杯を作ってみせますわ!」

それから一週間。サクヤは厨房の一角を完全に占拠し、ラーメン作りに没頭した。城内には毎日、鶏ガラを煮込む匂いや、魚介を炙る香ばしい匂いが漂い、騎士やメイドたちの腹の虫を鳴かせ続けた。

「出汁のバランスが……まだコンマ一ミリ届きません」

「麺のコシを出すには、この粉の配合を変えねば……」

エルフ特有の超集中力と繊細な味覚で、サクヤは狂ったように試行錯誤を繰り返した。そして、約束の日。

「出来ました……太郎様」

目の下に少しだけクマを作ったサクヤが、湯気の立つドンブリを捧げ持ってきた。

「ほう……!」

僕は目を見張った。黄金色に透き通ったスープ。美しく折り畳まれたストレート麺。具材は、低温調理された鶏ムネ肉のチャーシュー、白髪ねぎ、そして完璧な半熟の煮玉子。

シンプルにして至高。『淡麗・黄金塩ラーメン』だ。

「頂きます」

僕はレンゲでスープを一口。

「……ッ!!」

鶏の純粋な旨味が口いっぱいに広がり、その後に魚介の風味がふわりと鼻を抜ける。塩角が全くなく、どこまでもまろやかだ。麺を啜れば、ツルツルとした喉越しと、噛んだ瞬間に弾ける小麦の香り。

「美味い……! インスタントとは次元が違う。素材の味がオーケストラのように調和しているよ!」

僕は箸が止まらず、一気に完食した。スープまで飲み干し、ドンブリを置く。

「塩ラーメンか……。誤魔化しが効かない一番難しい味を、ここまで完成させるとは。流石はサクヤだ」

「お褒めに預かり、光栄ですわ」

サクヤは安堵の表情を浮かべ、深く一礼した。しかし、僕の目は真剣だった。

「だがサクヤ……ラーメン道に終わりはないんだ!」

「えっ!?」

「今回は『塩』だが、世の中には『醤油』『味噌』『濃厚豚骨』『つけ麺』……無限のバリエーションが存在する。……僕と一緒に、その頂きを目指してくれないか?」

「……はい! 何処までも、その『ラーメン道』とやらにお供いたしますわ! まだ見ぬ『濃厚豚骨』の地平へ!」

ガシッ、と熱い握りを取り交わす僕とサクヤ。その様子を、厨房の陰からサリーとライザがジト目で見ていた。

「……また太郎様が、サクヤさんと二人だけの世界に入ってる」

「あんなに情熱的に握手して……。それに、あのラーメン。凄く美味しそうな匂いですわね、ライザ」

「ええ。……食べさせてもらえないなら、夜襲も辞さない覚悟ですわ」

この後、サクヤの作った試作品のラーメンを巡って、城内で熾烈な争奪戦が起きたのは言うまでもない。アルクス名物『エルフの塩ラーメン』が誕生した瞬間であった。

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