EP 32
完成! 癒やしの楽園と、移民ラッシュの都市計画
魔導カノン砲による絶対防衛網が完成し、アルクス領が文字通りの「鉄壁」となった頃。
城下町の中心部では、もう一つのビッグプロジェクトがついに完成の時を迎えていた。
ガンダフ率いるドワーフの職人集団と、サリーの魔法理論、そして僕の100円グッズ知識(実用書)が結集した、異世界初の大型温浴施設――『スーパー銭湯 アルクスの湯』である。
「どうでぃ! 領主様! 俺の最高傑作だ!」
ガンダフが誇らしげに胸を張り、真新しい木の香りが漂う巨大な館内を案内してくれた。
「地下深くから汲み上げた天然水を、水魔法石と火魔法石のハイブリッド循環システムで沸かした大浴場! 太郎のアイデアを取り入れたミスリル配管のジェットバスに、露天風呂もサウナも完備だ! 湯上がりには畳敷きの休憩スペースもあるぜ!」
「すごいよガンダフ! 日本……いや、僕の故郷の銭湯以上のクオリティだ!」
僕は感動で声を震わせた。ここは紛れもなく、過酷な異世界に誕生した「癒やしの楽園」だ。
「早速入りましょっ! 汗をかいてスッキリしたいわ!」
「えぇ、最新式の『サウナ』というものが楽しみです」
「よし、今日はプレオープンだ。家族みんなで入ろう!」
僕たちが通されたのは、領主一族専用の『VIP家族湯(貸切露天風呂)』だ。
掛け湯をして、たっぷりと湯が満たされた岩造りの湯船に身を沈める。
「はぁ……気持ちいい……」
僕の口から、領地運営の疲れが魂と共に抜け出していく。
「あぁ~……疲れが吹っ飛ぶわぁ……」
サリーも肩までお湯に浸かり、とろけるような甘い声を出す。
「最高の場所ですね……。ただお湯に浸かるだけで、これほど体が軽くなるとは」
ライザも目を閉じ、極楽の表情を浮かべている。
『ピカリふやけちゃう~』と、専用の小さな桶に浸かった妖精も大満足だ。
「さて……次はお楽しみの『サウナ』だぞ」
体を温めた後、僕たちは浴室の奥にある木製の扉を開けた。
ムワッとした熱気が全身を包み込む。中は階段状のベンチになっており、中央には焼けたサウナストーンが積まれている。
「熱っ! でも、嫌な熱さじゃないわ!」
「湿度が保たれているからですね。汗が毛穴から一気に吹き出してきます」
三人並んでベンチに座り、じっと熱さに耐える。
我慢した分だけ後の快楽が大きくなることを、僕は二人に熱弁していた。
12分後。
「よし! 出るぞ!」
僕たちはサウナ室を飛び出し、掛け湯で汗を流す。
そして目の前にあるのは、水魔法石でキンキンに冷やされた『水風呂』だ。
「行くぞ! せーのっ!」
ドボンッ!!
「「「あひゃあああああああ!!!」」」
衝撃的な冷たさが全身を貫く。だが、サウナで極限まで温まった体には、それが愛おしいほどの刺激となる。
「さ、最高だ……皮膚の表面に膜(羽衣)が出来てきた……」
「き、気持ちいい……! 何これ、新感覚!」
「脳が……とろけます……」
水風呂から上がり、露天スペースに設置された『ととのい椅子』に深々と腰掛ける。
夜風が火照った体を優しく撫で、血液が全身を駆け巡り、意識が宇宙と一体化するような浮遊感に包まれる。
(これが……異世界での、ととのう、ということか……)
風呂上がり。
休憩スペースの畳の上で、僕は腰に手を当てた。手には、100均スキルで冷やしておいた『瓶入りフルーツ牛乳』。
「やっぱり風呂上がりはこれだよね」
「私はコーヒー牛乳!」
「私はイチゴ牛乳を」
三人は瓶の蓋を開け、一気に煽った。
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……プハァッ!!
「し、幸せぇ~……!!」
「これは流行るわね……間違いなく」
「えぇ。アルクスどころか、王国の名所になりますわ」
赤ら顔で微笑む妻たちを見ながら、僕はこの「アルクスの湯」が巨万の富をもたらすことを確信した。
だが、その影響力は、僕の想像を遥かに超えていたのだ。
――数週間後。
衣食住が保証され、最強の防衛力を持ち、極上の娯楽施設『アルクスの湯』がある街。
そんな夢のような場所の噂が、広まらないはずがなかった。
「アルクスに行けば、飢えることはないらしいぞ!」
「毎日温かい風呂に入れるんだ! 領主様は英雄だし、税も安いらしい!」
近隣の村々はもちろん、国境を越えた他国や、戦火に追われた難民までもが、雪崩を打ってアルクス領へと押し寄せ始めたのだ。
街道は馬車で大渋滞し、街の外には広大なテント村ができるほどの盛況ぶり(というかパニック状態)だった。
「ふむ……。嬉しい悲鳴だけど、このままじゃパンクするな」
城のテラスから、拡張し続けるテント村を見下ろし、僕は腕を組んだ。
テント暮らしでは衛生状態が悪化するし、冬になれば凍死者が出る。人が増えれば排泄物の処理や、清潔な飲み水の確保も深刻な問題になる。中世レベルの街づくりでは、この人口急増には絶対に対応できない。
「やるしかないか。……『都市計画』を」
僕は城の大広間に、家令のマルス、建設長官ガンダフ、そして領内から集めた建築士や学者たちを招集した。
「急に集まってもらってすまない。議題は、急増する移民への対応だ。今のまま無計画に家を建てさせれば、道は狭くなり、汚水が溢れ、火事になれば街ごと全焼する。だから、街そのものを造り変える」
僕はウィンドウを開き、『書籍・建築/土木』カテゴリから数冊の専門書を取り出した。
『図解・わかる土木工学』『都市計画の基礎知識』『上下水道の仕組み』『ツーバイフォー住宅の作り方』。
「ガンダフ、学者たち。これを読んでくれ」
本を渡されたガンダフたちは、食い入るようにページをめくり――。
「……ッ!?」
ガンダフの目が飛び出さんばかりに見開かれた。
「こりゃあ……すげぇ!! 道路の下に管を通して、汚水を一箇所に集めて浄化するだと!? 『下水道』……これがあれば、街から悪臭が完全に消えるぞ!」
「こっちの『規格住宅』というのも驚きです!」
学者が声を震わせる。「木材を同じ寸法で工場加工し、現場で組み立てるだけ……これなら職人の腕に関わらず、短期間で頑丈な家が大量に建てられます!」
「それを参考に、アルクス領のインフラを根本から作り直す」
僕は地図上の広大な空き地を指差した。
「ここに、数階建ての集合住宅群……いわゆる『団地』を作る。一階部分はレンガで補強して、上は木造でいい。一気に数百世帯を収容できるようにするんだ」
「だんち……! なんと効率的な!」
マルスが感嘆の声を上げた。「これなら土地も節約できますし、家賃収入も見込める……素晴らしい策です!」
「だろ? それと、道路は馬車がすれ違えるように拡張。道沿いに街灯も設置する。移民たちはこの公共事業の労働力として雇用して、給料を払う。……できるかな?」
僕が尋ねると、ガンダフはニヤリと笑い、図面を握りしめた。
「へっ、愚問だねぇ! こんな面白ぇ設計図見せられて、燃えない職人がいるかよ! 俺様の技術がありゃあ、あっという間に『未来都市』を作ってやるぜ!」
「私も、直ちに資材の手配と労働力の確保に当たります!」
マルスも完璧な手際で指示を出し始めた。
こうして、アルクス領の「未来都市化大改造計画」が始動した。
上下水道完備、ガス(魔道具)コンロ付きの集合住宅、そして整備された石畳の道路。
辺境の冒険者の街は、瞬く間に大陸中の王族すら視察に訪れる「奇跡のモデル都市」へと、急激な進化を遂げていくのだった。




