EP 28
アルクス大改造計画、夢のスーパー銭湯
新米領主としての初仕事である「サツマイモ・ヒヨコ計画」が軌道に乗り始めた頃。
アルクス伯爵となった僕は、家令のマルス、そして護衛のライザとサリーを伴って、領内を巡る視察を行っていた。
ダンジョン特需とS級冒険者が領主になったという安心感から、街はかつてない活気に満ちている。しかし、大通りを歩きながら、僕は鼻をひくつかせてある「切実な問題」に気づいた。
(……やっぱり、ちょっと臭うな)
冒険者たちは汗と泥にまみれ、市民たちも決して清潔とは言えない。この世界の庶民にとって、入浴は「濡れた布で体を拭く」か、夏場に川で行水をする程度。お湯をたっぷりと使って全身を洗う習慣は、ごく一部の貴族にしかないのだ。
「マルス。アルクスの公衆衛生を改善したいんだ。具体的には……街に巨大な『公衆浴場』を作りたい」
「公衆浴場、でございますか? 確かに病の予防には有効かと存じますが……」
マルスが手帳を取り出しながら首を傾げる。
「ただのお風呂じゃないよ。僕が作りたいのは『スーパー銭湯』だ。サウナや岩盤浴、ジェットバス完備の、最高の癒やし空間だよ!」
「すーぱーせんとう……? さうな?」
言葉では伝わらないと感じた僕は、ウィンドウを開いて『書籍・実用書』カテゴリから一冊の本を取り出した。
【 決定版! 癒やしのスーパー銭湯&スパガイド:100P 】
表紙には、湯気が立ち上る壮麗な露天風呂や、楽しそうに寛ぐ人々の写真がフルカラーで載っている。
「これを見て。この構造、この設備……これをアルクスに再現するんだ」
「拝見します……。……ッ! こ、これは!?」
ページをめくるマルスの目が、かつてないほど見開かれた。
ただお湯を溜めるだけでなく、循環させて清潔に保つ仕組み、熱した石に水をかけて蒸気を浴びる『サウナ』、さらには風呂上がりに冷たい飲み物を楽しむ休憩所。
「画期的です! 冒険者の疲労回復はもちろん、他領からの観光客を呼び込む起爆剤になります! 莫大な経済効果……アルクスの税収が跳ね上がりますぞ!」
マルスの経営者としての勘が、この施設の凄まじさを瞬時に理解した。
「ですが旦那様、これほどの複雑な配管や、常に大量のお湯を沸かす熱源の確保は、並の職人では不可能です」
「だよね。だから……あの人を呼ぼう」
数十分後。かつて「必殺の矢」の開発に協力してくれたドワーフの名工、ガンダフが城の執務室に呼び出された。
「なんだい、領主様からの呼び出しだってから来てみりゃあ。俺は今、新作の鎧を打つのに忙しいんだぞ」
ガンダフは不機嫌そうに髭を撫でるが、マルスが黙って『銭湯ガイド』を差し出すと、その顔色が劇的に変わった。
「な、何だこりゃあ!? 湯をただ沸かすんじゃねぇ……循環させて常に清潔に保つだと? それにこの『ジェットバス』ってのは、水圧でマッサージするのか!?」
ドワーフの探究心に火がついた。彼は身を乗り出し、食い入るように図面を読み込んでいく。
「どうかな、ガンダフさん。作れるかな?」
「当たり前だ! 誰だと思っていやがる!」
ガンダフはニヤリと笑い、拳を突き上げた。
「火花鉱と水魔法石を組み合わせれば熱源はいける。配管はミスリル合金を使えば耐久性もバッチリだ。……面白ぇ! やってやろうじゃねぇか、世界一の『スーパー銭湯』をな!!」
「やった! さすがガンダフさんだ」
「建設予定地は、城下町の広場周辺、地下水が豊富なエリアを選定いたします」
マルスも即座に地図を広げ、建設コストとスケジュールの計算を開始した。
領主の奇抜なアイデア、敏腕家令の経営手腕、そして伝説の職人の技術力。
三つの力が合わさり、アルクスに前代未聞の「癒やしの殿堂」が爆誕しようとしていた。
『ピカリも! ピカリもお風呂にアヒルさん浮かべるー!』
ピカリも本に載っていた「黄色いアヒルのおもちゃ」を見て大はしゃぎだ。
サツマイモで腹を満たし、鶏肉で力をつけ、スーパー銭湯で疲れを癒やす。
佐藤太郎による「アルクス大改造計画」は、この世界の常識を次々と塗り替えながら、加速していくのだった。




