EP 23
帰還の瞬間、そして伝説の称号
夕刻。アルクスの冒険者ギルドの重厚な扉が、ギィィと音を立てて開かれた。
中に入ってきたのは、泥と埃に塗れながらも、圧倒的な覇気を纏った四つの影――僕たち「チーム・タロウ」だ。
僕の背中には新しく手に入れた白銀の弓『雷霆』が青白く輝き、その後ろには、荷車に乗せられた巨大な「ベヒーモスのねじれ角」が鎮座している。
「おい、あれ見ろよ……」
「あの巨大な角、まさかベヒーモスか……?」
「嘘だろ……あんな怪物、おとぎ話の中だけの存在じゃなかったのかよ」
喧騒に包まれていたギルドが、一瞬にして水を打ったように静まり返った。
次いで、畏敬と羨望の眼差しが僕たち一行に降り注ぐ。もはや誰も、僕を「ちょっと変わった武器を使う兄ちゃん」とは見ていない。生きる伝説を見る目だ。
「……帰ったか、太郎」
執務室から飛んできたギルドマスターのヴォルフが、荷車に積まれた巨大な角を見て絶句した。
「ま、まさか……あの未踏のダンジョンを完全に制覇して、最奥のベヒーモスまで討伐したというのか……?」
歴戦の戦士であるヴォルフの声が、微かに震えている。
無理もない。ダンジョンの出現からわずか数日。本来なら攻略には数ヶ月、あるいは年単位の時間がかかると予想されていた難攻不落の迷宮を、僕たちは(100均グッズの力で超快適に)ピクニックのような速度で踏破してしまったのだから。
「へへっ、ギリギリでしたけどね。でも、新しい武器のおかげもあって、なんとか倒せましたよ」
僕は背中の雷霆をポンと叩いて笑った。
「報酬が楽しみね! 苦労した甲斐があったわ!」
サリーが期待に満ちた目でヴォルフを見る。
「えぇ! 今回ばかりは、大いに期待してもよろしいのではなくて? お父様」
ライザも誇らしげに胸を張り、父親であるヴォルフに微笑みかけた。
ヴォルフは一度大きく深呼吸をして、心を落ち着かせた。
そして、表情をギルドマスターのそれに引き締めると、ギルド全体に響き渡る大声で高らかに宣言した。
「うむ! 未踏の巨大ダンジョンを制覇し、伝説の魔獣ベヒーモスを討伐した偉業……これは人類史に残る歴史的快挙だ! もはやA級の枠には到底収まらん!」
ヴォルフは僕の肩に、その重厚な手形を力強く貼り付けた。
「今から貴様らは、冒険者ギルド最高ランクの『S級冒険者』だ! 国家戦力に匹敵する、最高位の称号を与える!!」
「僕たちが……S級……!」
僕はゴクリと喉を鳴らした。
右も左も分からないFランクの底辺から始まり、最強の仲間と100円ショップのスキルを武器に、ついにこの世界の冒険者の頂点まで登り詰めたのだ。
「そしてこれが、国とギルドからの特別報奨金だ。……金貨5000枚を与えよう!」
ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!
職員たちが、金貨がパンパンに詰まった巨大な革袋を5つ、テーブルの上に積み上げた。
その凄まじい重みで、頑丈なオーク材のテーブルがミシミシと悲鳴を上げる。
5000枚。
日本円にして、およそ5000万円。
もはや一生遊んで暮らすどころか、小さなお城なら現金一括で買えてしまうほどの莫大な富だ。
「やったぁぁぁ!! 金貨5000枚だって!!」
サリーが目を回しながら、金貨の袋にガバッと抱きついた。
「凄いですわ……。これだけの富があれば、私たちの拠点もさらに改築できますね」
ライザも震える手で口元を覆っている。
『ピカリ、きんぴかのお金でおうち作るー!』
ピカリも金貨の袋の周りを嬉しそうに飛び回る。
「今日はパーティーね! 豪勢に行きましょう!」
サリーの言葉に、ヴォルフが拳を天高く突き上げた。
「その通りだ! 野郎共、聞けぇ!!」
ヴォルフの咆哮に、呆然としていた冒険者たちがビクッと肩を揺らす。
「今ここに、アルクスが誇る大英雄、S級冒険者・佐藤太郎とそのパーティーが爆誕した! 今夜はギルドの奢りだ! 街中の酒を飲み干す勢いで盛り上げろ!!」
「「「うおおおおおおおおおっっ!!!」」」
ギルドの屋根が吹き飛ぶのではないかと思うほどの大歓声が爆発した。
「飲むぞおおお!!」
「S級英雄に乾杯だァァァ!!」
歓喜の渦の中心で、僕は二人の愛する妻と顔を見合わせ、最高の笑顔で頷き合った。
伝説の称号と、莫大な富。
アルクスの街は、ドラゴンの時を遥かに超える、熱狂の宴へと包まれていくのだった。




