EP 18
地下1階の瞬殺劇、最強夫婦の力関係
特需による大商売を終え、懐も装備もこれ以上ないほど万全となった僕たち「チーム・タロウ」。
一攫千金を夢見て押し寄せる冒険者たちに紛れ、ついにアルクス北の山脈に出現した未知のダンジョンへと足を踏み入れた。
「じゃあ、僕達も本格的に攻略を始めようか」
地下へと続く冷たい石造りの階段を下りたところで、僕は頭に装着した【 LEDヘッドライト 】のスイッチを入れた。
カチッ。
「明るっ!?」
「凄いですわ……松明とは比べ物にならない光量です」
一直線に放たれた強烈な白い光が、カビの生えた石畳と、奥が見えないじめじめとした地下1階の闇を、まるで真昼のようにパァッと切り裂いた。これなら罠も隠し通路も見落とすことはない。
『ピカリ、たからばこ探すー!』
ピカリも光の道を嬉しそうに飛び回っている。
そのまま警戒しながら進むこと数分。
少し開けた大部屋に出たところで、行く手を阻む巨大な影が現れた。
「グルルルル……!!」
ライトの光に照らし出されたのは、全身が黒曜石のような硬い皮膚で覆われた巨鬼。
通常のオーガよりも遥かに凶暴でタフな上位種、ダークオーガだ。それが3体、丸太のような巨大な棍棒を引きずって待ち構えていた。
「いきなりダークオーガか……。地下1階にしては手応えがあるね」
普通の冒険者パーティーなら、地下1階でいきなりこんな上位種と遭遇したら、悲鳴を上げて一目散に逃げ出す場面だ。
だが、ドラゴンスレイヤーとなった僕たちにとっては、準備運動にもならない。
「いつでも良いですよ」
ライザが静かに腰を落とし、蒼き闘気を長剣の鞘へと極限まで収束させていく。
サリーも既に詠唱を終えているのか、杖の先が聖なる光を帯びてバチバチと弾けていた。
「よし、まずは僕から行くぞ!」
僕は挨拶代わりに、背中の矢筒から漆黒の『必殺の矢』を引き抜いた。
地下1階だろうと、相手が何体いようと、出し惜しみは一切しない。それが100均アイテムでいくらでも弾を補充できる僕の戦い方だ。
「喰らえッ!」
シュッ!!
放たれた矢は、真ん中にいたダークオーガの分厚い胸板に正確に吸い込まれた。
ドゴォォォォォォォォォォォン!!
閉鎖空間であるダンジョン内に、鼓膜が破れんばかりの凄まじい爆音が反響する。
猛烈な爆風が吹き荒れ、直撃を受けたダークオーガは悲鳴を上げる暇もなく、上半身が完全に消し飛んで即死した。
「グオオオォォッ!?」
残った左右の2体のダークオーガが、仲間の無惨な死に激昂した。
怒り狂い、ドシドシと石畳を踏み砕きながらこちらへ突進してくる。
「怒ったところで、隙だらけよ!」
サリーが、煌めく杖をビシッと突き出した。
「聖なる光よ! 邪悪を撃ち貫け! 『ホーリー・レーザー』!!」
ビィィィィッ!!
杖の先端から、極限まで圧縮された高密度の光線が一直線に放たれた。
一直線の光は、向かってきたダークオーガの黒曜石の皮膚も、分厚い筋肉も、硬い骨も完全に無視して、その心臓を正確に貫通した。
巨体が糸の切れた操り人形のように、ドサリと崩れ落ちる。
そして、残る最後の一体に、ライザが疾風のような速度で飛び出した。
「剣技! 『闘牙一閃』!!」
目にも止まらぬ、電光石火の踏み込み。
すれ違いざま、空間そのものを断ち切るような銀色の閃光が走った。
チンッ!
ライザが残心と共に長剣を鞘に納め、鍔が鳴る澄んだ音が響き渡る。
その音が合図だったかのように、振りかぶった姿勢のまま静止していたダークオーガの身体が、斜めにズレて、綺麗に二つに割れた。
ドサッ……。
戦闘開始から、わずか数秒。
凶悪なダークオーガ3体が、僕たちに触れることすらできずに全滅した。
「……強いなぁ、二人とも」
僕は弓を下ろし、呆気にとられて呟いた。
エンシェント・ドラゴンという規格外の怪物との死闘を経て、二人の実力は完全に「チート」の領域にまで達している。
「えへへ~、これくらい余裕よ!」
サリーが無邪気にピースサインを送ってくる。
「この位、造作もありません。私達は、最強のドラゴンスレイヤーの妻なのですから」
ライザも涼しい顔で、乱れた髪をフワリと払った。
その姿は信じられないほど美しく、そして……あまりにも強大だった。
「た、頼もしいな……アハハ」
僕は口ではそう笑いながら、心の中で滝のような冷や汗を流していた。
(こりゃ……万が一にも夫婦喧嘩したら、僕、一瞬で殺されるな……。絶対に逆らうのは辞めよう……)
もし浮気でもしようものなら、一方は聖なるレーザーで容赦なく消し炭にしてくるし、もう一方は神速の剣撃で僕を綺麗に二等分にするだろう。
現代知識や100円ショップのアイテムがどれだけ便利だろうと、怒った妻の圧倒的な暴力の前では無力だ。
「よし! 今夜の夕食は、二人の大好物のハンバーグと、特製プリンにしよう!」
「本当!? 嬉しい!」
「ええ、とても楽しみですわ、あなた」
『ピカリもプリンたべるー!』
僕は二人の機嫌を絶対に損ねないよう、そしてこの温かくて少しだけ恐ろしい「愛の巣」を守り抜くことを固く誓いながら、明るく照らされたダンジョンの奥へと、意気揚々と足を進めるのだった。




