EP 15
幸福の鐘と、二人の花嫁
アルクスの中央にそびえ立つ、白亜の大聖堂。
この日、街はかつてないほどの華やかな祝賀ムードに包まれていた。
空には雲一つない青空が広がり、英雄たちの門出を祝福するように、教会の鐘が高らかに鳴り響いている。
カラン、カラン、カラン……。
聖堂の中は、冒険者ギルドの仲間たちをはじめ、ルルカ村の人々、世話になったゴルド商会の面々、さらには王宮からの使者(満面の笑みの執事マルス)など、大勢の参列者で埋め尽くされていた。
祭壇の前で、僕は真っ白なタキシードに身を包み、ガチガチに緊張しながら待っていた。
そこへ、一人の素朴な男性が歩み寄ってきた。ルルカ村から駆けつけてくれたサリーの父、サンガさんだ。
「お父さん……!」
最前列近くの席から、サリーの声が聞こえる。
「サリー……本当に綺麗になったな。立派な冒険者だ」
サンガさんは愛娘の姿に目を細め、そして僕に向き直り、深く、深く頭を下げた。
「太郎さん。娘を……どうか、よろしくお願いします。サリーを立派に育ててくれて、本当にありがとう」
「はい。必ず、幸せにします! 僕の命に代えても」
僕は真っ直ぐな瞳で誓った。
サンガさんは安心したように優しく微笑み、自分の席へと戻っていった。
やがて、パイプオルガンの荘厳な音色が聖堂全体に響き渡る。
重厚な木製の扉が、ゆっくりと開かれた。
「わぁ……」
「なんて綺麗なんだ……」
参列者たちから、ほうっと感嘆の溜息が漏れる。
バージンロードを歩いてきたのは、純白のウェディングドレスに身を包んだ、二人の花嫁だった。
サリーは、フリルをふんだんにあしらった可愛らしいミニ丈のドレス。彼女の持ち前の元気さと、妖精のような可憐さを最大限に引き立てている。
ライザは、身体のしなやかなラインを美しく見せるシルクのマーメイドドレス。いつもの無骨な鎧姿とは全く違う、大人の女性の気品と艶やかさに満ち溢れていた。
二人は腕を組み、照れくさそうに、けれど最高に幸せそうな笑顔を浮かべて、僕の元へとゆっくり歩み寄ってくる。
「……綺麗だ」
僕は無意識に呟いていた。
異世界に放り出されて出会った、かけがえのない仲間であり、最愛の女性たち。
祭壇の前に、三人が並ぶ。
白髪の神父が厳かに聖書を開き、優しい声で問いかけた。
「汝、佐藤太郎は、この二人の女性を妻とし、健やかなる時も、病める時も、これを愛し、敬い、生涯守り抜くことを誓いますか?」
「誓います」
「汝、サリー、ライザは、この男性を夫とし、共に支え合い、生涯歩むことを誓いますか?」
「誓います!」
「誓います」
三人の真っ直ぐな声が、ステンドグラスの光に彩られた聖堂に響く。
神父は微笑み、静かに告げた。
「では、誓いの口づけを」
僕はまず、サリーに向き合った。純白のベールをそっと上げ、その桜色の唇に優しくキスをする。
「えへへ……大好きよ、太郎さん」
次に、ライザに向き合う。彼女は少し顔を赤らめながら静かに目を閉じ、僕はその形の良い唇に熱いキスを落とした。
「……愛しています、あなた」
その、幸福が頂点に達した瞬間。
『タロウ! サリー! ライザ! おめでとーーっ!!』
僕たちの頭上から、ピカリが元気いっぱいに飛び出し、まばゆい光の粉を盛大に撒き散らした。
ステンドグラスから差し込む陽光と、妖精の神聖な光が相まって、僕たち三人を幻想的で美しい輝きで包み込む。
「うぅ……うぅぅ……ッ!!」
感動的な静寂を破ったのは、最前列から聞こえる、野獣のような野太い嗚咽だった。
見れば、大男が両手で顔を覆い、肩を震わせて大号泣している。ギルドマスターのヴォルフだ。
「おめでとう! ライザ! 太郎! うぉぉぉぉん! 幸せになれよバカヤロー!!」
強面のギルドマスターが、周りの目も気にせず子供のように泣きじゃくる姿に、会場からドッと温かい笑いが起きた。
「おめでとう! アルクスの英雄!」
「末永くなー!」
「俺たちの誇りだー!」
「お幸せにー!!」
割れんばかりの拍手と、鳴り止まない大喝采。
色とりどりの花びらが祝福の雨のように舞う中、僕は二人の妻の手を、しっかりと強く握りしめた。
(色んなことがあったけど……ここに来て、本当に良かった)
現代日本で、安い時給でコンビニバイトをしていただけの日常。
それが今では、異世界の英雄と呼ばれ、こんなにも愛に溢れた家族に囲まれている。
僕の背中のリュックに詰まった『100円ショップ』のスキルと、絶対に信頼できる頼れる仲間たちと共に歩んだ冒険の旅。
その一つの終着点は、これ以上ないほどの幸福で温かい光景だった。
佐藤太郎とサリー、そしてライザ。
新しい「家族」の物語は、この幸せの鐘の音と共に、ここからまた始まっていく。




