EP 12
ドラゴンスレイヤーの宴、百円の美酒
夕闇がアルクスの街を包み込む頃。
僕たち「チーム・タロウ」は、冒険者ギルドへと帰還した。
後ろに引いている荷車には、エンシェント・ドラゴンの討伐証明部位――鋼鉄よりも硬いエメラルドグリーンの巨大な鱗と、大人の背丈ほどもある立派な角が積まれている。
ギルドの重厚な扉を開けた瞬間、中にいた冒険者たちの喧騒がピタリと止まった。
「……帰ってきたぞ」
「おいおい、嘘だろ……? 本当にドラゴンを倒したのか!?」
ざわつく冒険者たち。彼らは半信半疑だった。だが、荷車に積まれた紛れもない古竜の素材を見た瞬間、そのどよめきはギルドを揺るがすほどの爆発的な大歓声へと変わった。
「うぉぉぉぉぉッ!! 帰ってきたぞぉぉぉ!!」
「よくやった! お前達!!」
奥の執務室から、ギルド長のヴォルフが弾かれたように飛び出してきた。その厳つい顔には、隠しきれない安堵と極度の興奮が入り混じっている。
「まさか本当に、五体満足で帰ってくるとはな。お前たちはアルクスの、いや、人類の誇りだ!!」
「へへっ、なんとかなりましたよ。……本当に、ギリギリでしたけど」
僕は照れ隠しに鼻の下をこすった。
包帯を巻いたライザも、疲労困憊のサリーも、その顔は煤と泥だらけだが、最高に誇らしげな笑顔を浮かべている。
「よし! ドラゴン討伐なんて、数百年ぶりの大快挙だ! ギルドとしても最大の敬意を表する!」
ヴォルフはホールの中央に立ち、高らかに宣言した。
「特別報酬として……金貨1000枚だ! 持ってけ泥棒!!」
「せ、せんまいッ!?」
僕の声が盛大にひっくり返った。
日本円にして約1000万円。冒険者として一生遊んで暮らせるどころか、小さなお城でも建ちそうな金額だ。
「やりましたね、太郎さん! これでしばらくは活動資金に困りませんわ!」
ライザが僕の手をギュッと握って喜ぶ。
「あ、あぁ……(ヤバい、金銭感覚がバグりすぎて震えが止まらないよ)」
「よォし! 野郎共! 今日は無礼講だ! 宴だ、宴ェ!!」
ヴォルフが空の酒樽に足を乗せて吼えた。
「我らが英雄、『ドラゴンスレイヤー』の誕生を祝して、ギルドの酒が尽きるまで朝まで飲み明かすぞ!!」
おおおおおおッッ!!
ギルド中が割れるほどの雄叫びが上がり、たちまち食堂は巨大な宴会場へと早変わりした。
次々と料理が運ばれてくるが、興奮の坩堝と化した荒くれ者たちの消費ペースに、ギルドの酒蔵の在庫が全く追いつかない。
「おい! お酒が足りないぞー!」
「もっとエールを持っこーい!」
そんな声を聞いて、僕はスッと立ち上がった。
今日ばかりはケチケチしている場合ではない。命を懸けて街を守ったんだ、最高の祝杯をあげよう。
「任せてくれ! 足りない分は僕がじゃんじゃん出すよ!」
僕はテーブルの上に陣取り、スキルウィンドウを全開にした。
「まずは、喉越し爽快! 『缶ビール(発泡酒)』だ!」
プシュッ! プシュッ!
小気味よい金属音と共に、キンキンに冷えた350mlのアルミ缶がテーブルの上に次々と山積みになっていく。
「次は、ガツンと来る『紙パック焼酎(甲類)』!」
ドサッ!
「さらに、色とりどりのラベルが貼られた『ワンコイン・ワイン(赤・白)』も大盤振る舞いだ!」
次々と現れる見たこともない酒の山に、冒険者たちが目を丸くした。
「うおおおお! なんだこの『鉄の酒器(缶)』は!?」
「プシュッて言ったぞ! 中から黄金色の泡立つ酒が!」
「すげぇぇ! 魔法の酒だ!!」
冒険者たちは先を争って缶ビール(第3のビール)を手に取り、喉をゴクゴクと鳴らして一気に飲み干した。
「ぷはぁっ! なんだこの苦味と、シュワシュワ弾ける炭酸は! 最高だ!」
「こっちの透明な水(焼酎)もすげぇぞ! カーッと喉が熱くなる!」
「この葡萄の酒、異様に澄んでて渋みが全くない! まるで極上のジュースみたいにスルスル飲めるぞ!」
異世界の濁ったエールや、酸味の強いワインしか知らない彼らにとって、現代の徹底的に味を調整された酒は、未知の美酒だった。
「ガハハハ! 太郎、太っ腹だな! こんな高級そうな酒を樽ごと、いや山ごと出すなんて!」
ヴォルフも缶ビールを片手に、すっかり上機嫌で僕の肩を叩く。
「へへっ、今日は僕のおごりです! どんどん飲んでください!」
僕は満面の笑顔で答えつつ、心の中でペロッと舌を出した。
(……まぁ、全部100円ショップや『ロー○ンストア100』的な激安スーパーで買える、値切り品やプライベートブランドの安酒なんだけどな!)
原価100円の第3のビールに、大容量の安焼酎、そしてワンコインのテーブルワイン。
でも、そんなことはどうでもいい。こんなにみんなが最高の笑顔で喜んでくれているなら、それで十分だ。金貨1000枚の報酬に比べれば、何百本出したって安いものだ。
「カンパーイ!!」
「「「カンパーイ!!」」」
『ピカリもカンパーイ!』
ピカリも、僕が出した『100%果汁のリンゴジュース(ミニ缶)』を両手で抱えて、嬉しそうに宙を舞っている。
英雄たちの笑い声と、現代のプシュッという炭酸の音が入り混じりながら、最高に熱くてハッピーな宴の夜は、アルクスの街でいつまでもいつまでも響き渡るのだった。




