EP 11
百円の銅線と、雷光の逆転劇
「あった……これだ!!」
僕は指が折れんばかりの勢いで、スキルウィンドウの『園芸・工具』カテゴリをタップした。
【 園芸用・純銅ワイヤー(太口・5m):100P 】
【 超強力ネオジム磁石(2個入り):100P 】
光の粒子と共に、僕の手元に一本の重みのある銅線の束と、小さな銀色の円盤が現れた。
現代の物理学において、銅は銀に次いで極めて高い電気伝導率を持つ金属だ。そしてネオジム磁石は、100円ショップで手に入る日用品の中で最強の磁力を持つ。
「太郎さん、何をするつもり!?」
「『道』を作るんだ! サリーの雷を、あの剣まで一瞬で運ぶための『特急券』をね!」
僕は素早く、通常の鉄の矢の先端にネオジム磁石を括り付け、その末端に銅線の端をガッチリと結びつけた。
暴風の中で細かい作業をするのは至難の業だが、極限の集中力が僕の指を動かした。
『グォォォォォォォォォォォ!!』
ドラゴンが大きく口を開ける。その喉奥に、全てを焼き尽くす紅蓮の炎が渦巻き始めた。ブレスが来る。放たれれば、僕たちは一瞬で炭になるだろう。
「お願いだ……逸れないでくれ!」
僕は銅線の束を足元にバラし、抵抗が少ない状態にする。そして、ドラゴンの首元に刺さったままの『ライザの長剣』を一点に見据えた。
風が、僕を拒絶するように吹き荒れる。
だが、この矢には重い銅線と磁石が付いている。風に煽られやすい魔法や軽い矢とは違う!
「いっけえぇぇぇぇぇッ!!」
指を離した。
シュルシュルと音を立てて、銅線を牽引しながら矢が飛んでいく。
風の防壁に接触し、軌道が僅かに右へ逸れる。だが、矢の先端が剣の鍔を通り過ぎようとしたその瞬間、強力な磁力が発動した。
ガチンッ!!
「よしッ!! 繋がった!!」
磁石がライザの長剣に吸い付いた。これで、僕の手元からドラゴンの逆鱗まで、一本の「純銅の道」が完成したのだ。
「サリー!! このワイヤーの端を掴んで、全力で雷を流せ!!」
「えっ!? 太郎さん、そんなの掴んだら私が……!」
「大丈夫だ! 100均の『ラバー張り軍手(絶縁代わり)』をはめろ! 行けッ!!」
僕はサリーの手に軍手をはめさせ、彼女にワイヤーの端を握らせた。
ドラゴンの喉が赤く光り、ブレスが放たれようとした、まさにその刹那。
「……食らいなさい! 『サンダー・シュート・マキシマム』!!」
サリーが叫び、彼女の全魔力が青白い雷光となって爆発した。
本来なら風に散らされるはずの電撃は、物理的な「レール」である銅線へと吸い込まれ、一億総火の如き速度でドラゴンの喉元へ駆け抜けた。
バリバリバリバリィィィィィッ!!!
「ギョォォォォォォォォォォッ!!?」
ドラゴンの内側から、聞いたこともないような絶叫が上がった。
外側の硬い鱗は電気を遮断する絶縁体だったかもしれない。だが、突き刺さった剣と、そこへ直接届けられた雷撃は、ドラゴンの無防備な内臓を直接焼き焦がした。
喉の奥でチャージされていた火炎ブレスが、電気ショックによる筋肉の硬直で暴発する。
――ドグォォォォォォォォォンッ!!
自らのブレスのエネルギーが首の内側で炸裂し、ドラゴンの巨体が大きく跳ね上がった。
エメラルドグリーンの鱗が火花と共に飛び散り、最強の生物の瞳から急速に光が失われていく。
ズズズ……、ドォォォォォォォン……!
大地を揺るがす地響きを立てて、エンシェント・ドラゴンの巨体が完全に沈黙した。
「…………」
静寂が戻った。
吹き荒れていた暴風も、嘘のように消え去っている。
サリーが、握りしめていたワイヤーからパッと手を離した。
信じられないものを見るように目を丸くし……次の瞬間、ありったけの声を天に向かって張り上げた。
「やったあああああああッ!!!」
サリーが涙をボロボロとこぼしながら、僕に向かって全力で飛びついてきた。
「勝った! 太郎さん、私たち、勝ったのよぉぉぉ!!」
「うおわっ!? あ、ああ!! やった! 倒したぞ!!」
僕はサリーを強く抱き止め、二人で泥だらけになりながら、その場で狂ったように飛び跳ねた。
全身の血が沸騰するような、爆発的な歓喜。
「ライザ!」
僕とサリーは、弾かれたように岩陰に倒れていたライザの元へ駆け寄った。
「ライザ、大丈夫か!?」
ライザは全身ボロボロで、一人では立ち上がれない状態だった。でも、僕たちの顔を見た瞬間、その顔に今まで見たこともないくらいに輝く、クシャクシャの笑顔が浮かんだ。
「ええ……! やりましたね、太郎さん!! サリー!! 私たち、本当にあのドラゴンを……!!」
普段は冷静で感情を顔に出さない誇り高き騎士が、大粒の涙をボロボロと流して、僕とサリーの手を強く、痛いほどに強く握りしめてきた。
「ああ! やったな! ライザが命懸けで剣を刺してくれたからだ! サリーが最後まで雷を撃ち続けてくれたからだ!」
僕はもうたまらなくなって、二人をまとめて腕の中に強く抱きしめた。
恐怖も、プレッシャーも、全てが吹き飛んだ。
「みんなのおかげだ! 僕たちの、大勝利だぁぁぁッ!!」
「うわぁぁぁん! 太郎さぁぁん!」
「太郎殿ぉぉ……!」
『やったー! タロウすごいー! みんなすごーい!!』
ピカリも僕たちの頭の上をピュンピュンと飛び回り、光の粉を祝祭の花吹雪のように撒き散らしている。
ただのフリーターだった僕が、最高の仲間と100円のアイテムを駆使して、ついに世界の頂点の一角を塗り替えた。
ドラゴンスレイヤー。
その伝説的な称号が、佐藤太郎という名と共に、歴史に深く刻み込まれた、最高に熱く、幸福な瞬間だった。




