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天井からトラックが降ってきたので、100円ショップスキルで異世界を生き延びます  作者: 月神世一


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EP 9

無力な必殺兵器と、折れない騎士の剣

アルクスから西へ数日。

岩肌が剥き出しになり、硫黄の匂いと熱気が立ち込める荒涼とした山脈の奥深く。

そこに、ヤツはいた。

【エンシェント・ドラゴン】

全身を鋼鉄よりも硬そうなエメラルドグリーンの鱗に覆われ、山のように巨大な体躯を横たえている。

その存在感だけで空気が重くのしかかり、呼吸をするのさえ苦しくなるほどの、圧倒的なプレッシャーだった。

(……デカい。でも、やるしかない!)

岩陰に隠れながら、僕は背中の矢筒から漆黒の『必殺の矢』を引き抜いた。

ガンダフが精魂込めて打ち直してくれた、僕たちの最強の切り札だ。グリフィンも、ソウルワイバーンも、これで一撃で倒してきた。

「みんな、僕が先制攻撃で頭を吹き飛ばす。もし仕留めきれなかったら、援護をお願い!」

「分かりました!」

「任せて!」

僕は起爆用の安全ピンを弾き飛ばし、弓に矢をつがえた。

狙うはドラゴンの眉間。いくら伝説の竜とはいえ、脳天で現代の爆薬が炸裂すればタダでは済まないはずだ。

「いっけぇぇぇッ!!」

僕は弦から指を離した。

シュッ!!

漆黒の矢が、空気を切り裂いてドラゴンの巨体へと一直線に飛んでいく。

完璧な軌道だ。当たる!

だが。

『……グルル』

僕たちの気配に気づいていたのか、ドラゴンは億劫そうに片目を開け、その巨大な翼を「ほんの一度だけ」羽ばたかせた。

バサァァァァッ!!!

「なっ!?」

たった一振り。それだけで、局地的な台風のような凄まじい暴風が発生した。

空気を裂いて飛んでいたはずの『必殺の矢』は、目に見えない分厚い風圧の壁に激突し、まるで紙切れのようにあっさりと軌道を遥か上空へと逸らされてしまったのだ。

そして、ドラゴンの頭上、空の彼方で。

ドゴォォォォォン……!

虚しい爆発音が響き、花火のように散った。

「う、嘘だろ……!?」

僕は弓を持ったまま、呆然と立ち尽くした。

魔法の防壁バリアを展開されたわけじゃない。ただ羽ばたいただけで生じた「物理的な風の壁」に、音速に迫る質量の矢が完全に弾き飛ばされたのだ。

『グォォォォォォォッ!!』

攻撃を受けたことに苛立ったドラゴンが、岩山を震わせるほどの咆哮を上げた。

周囲に吹き荒れる暴風がさらに強まり、僕たちは立っていることすら困難になる。

「くそっ! 矢が通じない!? 近づこうにも、この風圧じゃまともに動けないぞ!」

僕は完全にパニックに陥った。

最大の武器である遠距離からの大火力攻撃が完全に封じられた。近接戦闘に持ち込もうにも、あの巨体の尻尾や爪の一撃を喰らえば即死だ。

打つ手がない。深い絶望と無力感が僕の心を黒く塗りつぶそうとした。

「……太郎殿、諦めないでください!」

その強風の中、ライザが姿勢を低くして立ち上がった。

彼女の目は死んでいない。蒼き闘気が、その全身から立ち昇っている。

「ライザ!? 駄目だ、近づいたら殺される!」

「太郎殿の矢が届かないというのなら……私が、道を切り開きます!!」

ライザは地面を強く蹴り、台風のような暴風を強引に掻き潜りながら、ドラゴンの足元へと特攻をかけた。

『グルルァァッ!!』

小バエが近づいてきたことに苛立ったドラゴンが、丸太のような巨大な前脚を振り下ろす。

ズドォォン!! と地面が爆発したように抉れる。

「ハァァァァッ!!」

ライザはその破壊の一撃を紙一重で躱し、抉れた岩の破片を足場にして、ドラゴンの巨体へと向かって大きく跳躍した。

「ライザッ!」

空中に身を躍らせたライザの狙いは、硬い鱗に覆われた胴体ではない。

首元にある、ほんの僅かな鱗の重なりの隙間――ドラゴンの唯一の弱点である「逆鱗げきりん」だ。

「私の全身全霊……受けてみよッ!!」

ライザは渾身の闘気を長剣の切っ先に一点集中させ、ドラゴンの首元へ向けて体重を乗せた鋭い刺突を放った。

ザクッッ!!!

「ギャァァァァッ!!?」

ライザの長剣が、硬い鱗の隙間をすり抜け、ドラゴンの肉に深々と突き刺さった。

初めて確かなダメージを受けたドラゴンが、痛みに狂い、鼓膜が破れるほどの絶叫を上げる。

バサバサバサバサッ!!!

怒り狂ったドラゴンがデタラメに翼を羽ばたかせ、先程とは比較にならない暴風の竜巻を巻き起こした。

「きゃあぁぁっ!?」

「ライザ!!」

空中にいたライザは、突き刺した剣の柄から手を離さざるを得なくなり、凄まじい風圧に吹き飛ばされた。

地面を数メートル転がり、岩に背中を激しく打ち付けて倒れ込む。

「ぐっ……、あ……」

「ライザ! 大丈夫か!?」

僕とサリーが慌てて駆け寄る。

幸い命に別状はないようだが、強打した衝撃で立ち上がるのも辛そうだ。

そして、僕たちはさらに絶望的な状況に気づいた。

「け、剣が……」

ライザが悔しげに呻く。

咆哮を上げながら暴れ狂うドラゴンの首元には、ライザの長剣が柄まで深々と刺さったままになっていた。

遠距離の必殺兵器は風で弾かれる。

前衛の要であるライザは武器を失い、負傷した。

残されたのは、魔法使いのサリーと、ただの鉄の矢しか撃てなくなった僕だけ。

「どうすれば……」

エンシェント・ドラゴンの圧倒的な力の前に、僕たちは真の絶望の淵に立たされていた。

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