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天井からトラックが降ってきたので、100円ショップスキルで異世界を生き延びます  作者: 月神世一


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EP 7

凱旋の牛鍋、禁断の生卵

ソウルワイバーンを討ち取り、アルクスの街に平和を取り戻した僕たち「チーム・タロウ」は、英雄として冒険者ギルドに凱旋した。

ギルドの重厚な扉を開けると、生還した冒険者たちの安堵の息と、勝利の祝杯を挙げる熱気でむせ返るようだった。

「良くやった! お前達!」

僕たちの姿を見つけるなり、ギルド長のヴォルフが満面の笑みで駆け寄ってきた。その太い腕で、僕の背中をバンバンと勢いよく叩く。

「あの絶望的な状況を、たった一撃で覆すとはな。やはりお前達は、この街の希望だ!」

「ありがとうございます、ヴォルフさん。……でも、本当にギリギリでしたよ」

僕は照れくさそうに頭をかいた。

その瞬間、張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れたのか、ドッと鉛のような疲れが押し寄せてきた。

「あぁ~、疲れたぁ……。もう魔力すっからかんよぉ」

「私もです……。剣を振る気力はおろか、お腹が空きすぎて立っているのもやっとですわ」

サリーが近くのテーブルにペタンと突っ伏し、ライザも恥ずかしそうにお腹を押さえて苦笑いしている。

『おなかぺこぺこー! タロウ、ごはんー!』

僕の頭の上では、光の妖精ピカリもパタパタと羽ばたきながら抗議の声を上げていた。

「そっか。みんな限界まで戦ってくれたもんね」

僕は仲間たちの顔を見て、ポンと手を叩いた。

今なら、あの絶望を乗り越えた今なら、少し奮発してもバチは当たらないだろう。

「よっし! 今夜は僕が最高のご馳走を作っちゃうよ! 特別な肉料理だ!」

「えぇ!? 何々! 何作るの!?」

「楽しみですわ。太郎さんの料理には外れがありませんから」

僕は女将さんに頼み込んで、再びギルドの厨房を借りた。

誰もいない厨房の隅で、空中のウィンドウを開く。『食品』カテゴリの価格上限フィルタを外し、高ポイントの極上食材を次々とタップしていく。

【 特選黒毛和牛(すき焼き用):3000P 】

【 すき焼きのたれ(老舗の味):200P 】

【 新鮮こだわり卵(10個入り):300P 】

【 白菜・長ネギ・焼き豆腐・しらたきセット:400P 】

「まずは牛脂を溶かして……」

熱した浅めの鉄鍋に牛脂を引くと、ジュワッと香ばしい煙が立つ。

そこに、見事なサシが入った霜降りの黒毛和牛を広げて並べ、軽く焼き目をつける。そして、醤油と砂糖、みりんが絶妙に調合された市販の「すき焼きのたれ(割り下)」を一気に流し込んだ。

ジュワァァァァァ……!!

砂糖の焦げる甘い香りと、醤油の芳醇で香ばしい匂いが混ざり合い、厨房からギルドのホールへと爆発的に広がった。

日本人のDNAを強烈に揺さぶる、「すき焼き」の完成された香りだ。

「なんだそれは……この暴力的に旨そうな匂いは……エールが無限に進みそうな香りだぞ!」

匂いに釣られて、執務室から降りてきたヴォルフが鼻をヒクヒクさせながら厨房を覗き込んだ。

「へっへっ、ヴォルフさんも一緒にどうですか? 僕の故郷の『スキヤキ』っていう鍋料理ですよ」

僕はカセットコンロごと、グツグツと煮える鍋をテーブルに運んだ。

甘辛いタレをたっぷりと吸った霜降り肉やネギ、焼き豆腐が、湯気を立てて踊っている。

「では、頂きます!」

「い、いただきます!」

まずはそのまま、熱々の肉を食べる。

「お、美味いいぃぃ!! 何これぇ!?」

サリーが目を丸くして身悶えした。

「お砂糖とお醤油の甘辛い味が、柔らかいお肉にジュワッと染み込んで……噛むたびに肉汁が溢れてくるわ!」

「本当に美味しい……! いつも酒場で食べる硬い干し肉やシチューとは全く違う、濃厚で繊細な味付けですわ!」

ライザも熱々の肉を頬張り、恍惚の表情を浮かべている。

「くぅぅっ! この濃い味付けがたまらん! エールに最高に合うぞ!」

ヴォルフもジョッキ片手に、不器用な手つきでフォークを動かして肉を貪っている。

「あ、そうそう。これがないとすき焼きは始まらないんだった」

僕は一度食べるのを止め、手元の小鉢に殻を割った「生卵」をポトッと落とした。

「……生卵?」

サリーが不思議そうに小首を傾げる。

「うん。こうやってお箸でよく溶いて……」

僕は熱々の黒毛和牛を鍋から引き上げ、溶き卵にたっぷりとくぐらせ、そのまま口へと運んだ。

「う~ん、美味しい! やっぱりすき焼きはこれだよ!」

濃厚すぎるタレの味を、生卵がマイルドに優しく包み込み、肉の熱さを程よく冷ましてくれる。これぞ日本の完全食だ。

しかし、僕が至福の吐息を漏らした瞬間、異世界人たちの反応は劇的に変わった。

「そ、そんな!? 生卵をそのまま食べるなんて!?」

サリーが顔面を蒼白にして悲鳴を上げた。

衛生管理の概念が未発達なこの異世界において、卵は完全に火を通すか、固茹でにして食べるのが絶対の常識だ。生で食べるなど、強烈な腹痛や病気を引き起こす「自殺行為」に等しいのだ。

「た、太郎さん! 生臭くないんですか? それに、絶対にお腹を壊しますわ!」

ライザも血相を変えて立ち上がろうとする。

「大丈夫大丈夫! これは僕のスキルで出した『新鮮で徹底的に殺菌された安全な卵』だから。絶対に当たらないし、臭みもないよ」

僕は自信満々に胸を張った。

「良いから、騙されたと思って食べて見てよ。味が劇的に変わるから!」

「うぅ……太郎さんがそこまで仰るなら……」

「信じますわ、リーダー!」

二人は意を決したように、自分の小鉢に卵を割り入れ、恐る恐る熱々の牛肉をくぐらせた。

黄金色の卵液を纏った肉を、覚悟を決めて口に入れる。

トゥルン。

「…………!!」

二人の表情が、劇的に一変した。

「美味しい! 本当だ! 全然生臭くないし、むしろ甘いわ!」

サリーが声を弾ませ、パァァッと顔を輝かせる。

「タレの味が凄く濃いから、卵と混ざると丁度いいまろやかさになるのね! それにトロトロしてて、すごく喉越しが良いわ!」

「美味とは、まさにこの事ですね……」

ライザも感嘆の深い溜息を漏らし、うっとりと目を閉じた。

「卵のコクが加わって、味がより一層深くなりました。熱々のお肉も適度に冷めて食べやすいですし……これは、完璧に計算され尽くした究極の食べ方ですわ」

「だろ~?」

僕はニヤリと得意げに笑った。

「ガハハハ! こりゃいい! 生卵なんて初めて食ったが、精力が爆発しそうだわい!」

ヴォルフも豪快に卵を絡めて、巨大な肉を次々と口へ運んでいる。

『ピカリもー! ピカリもたべるー!』

「はいはい、ピカリには味が染みた白菜とお豆腐ね。火傷しないようにね」

熱々の鍋を囲んで、同じ釜の飯(牛鍋)を食う。

死闘を共に乗り越えた仲間たちとの宴は、甘辛く、そしてたまらなく温かい味がした。

こうして、アルクスの街にまた一つ、現代日本が生んだ新たな「食文化」が深く刻み込まれたのだった。

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