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天井からトラックが降ってきたので、100円ショップスキルで異世界を生き延びます  作者: 月神世一


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EP 3

国王の晩餐と、光の妖精ピカリ

壮麗な大理石の柱と、ピカピカに磨き上げられた巨大な調理器具が並ぶ、デルン王宮のメインキッチン。

普段は国を代表する数十人の宮廷料理人たちが腕を振るうその神聖な場所に、場違いなパーカー姿の青年――僕、佐藤太郎が立っていた。

周囲には、腕組みをして疑いの目を向ける料理長や、プライドの高そうな三ツ星シェフたちがズラリと取り囲んでいる。

「ふぅ……やるしかない」

僕は緊張をほぐすように大きく息を吐き、手慣れた手順で調理を開始した。

王宮の地下倉庫からマルスが持ってきた最高級の「ワイバーンの霜降り肉」と「王室御用達の有機野菜」。そして、僕のリュックから取り出した100円ショップの『カレールー(中辛)』。

異世界の最高級食材と、現代日本のジャンクな大衆食の奇跡の融合である。

野菜と肉を炒め、水を加えてじっくりと煮込む。

そして仕上げに、例の「茶色いブロック」を割り入れた瞬間だった。

ブワァァァン!!

爆発的なスパイスの香りが、広大な王宮のキッチンを完全に支配した。

それまで「冒険者の作る素人料理など」と鼻で笑っていた宮廷料理人たちの顔色が、一瞬にして変わる。

「な、なんだこの香りは……!」

「刺激的で暴力的な匂いだが、猛烈に食欲をそそる……! クミン、コリアンダー、ターメリック……いや、それだけじゃない。我々の知らない数十種類の香辛料が完璧な比率で調合されているぞ!?」

「くっ……王がご執心なのも頷ける……!」

料理長が悔しそうに唸りながら、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

現代の食品メーカーの叡智の結晶は、王宮のシェフたちのプライドすらも粉砕したのだ。

――そして、謁見の間兼、大食堂。

信じられないほど長いマホガニーのテーブルの奥に、立派な髭を蓄えた筋骨隆々の巨漢――デルン王国の君主、バゴール王が鎮座していた。

その目の前に、湯気を立てる一皿の「カレーライス」が恭しく置かれる。

「ほう……これが噂の料理か。見た目は泥のようだが、香りは極上だな」

バゴール王は重厚なスプーンを手に取り、カレーと白いライスをすくって、ゆっくりと口へ運んだ。

パクッ。

王の動きがピタリと止まった。

僕とマルス、そして背後に控えるサリーとライザが、固唾を呑んで見守る。もし王が怒り出せば、不敬罪で僕たちは地下牢行きだ。マルスのキャバクラ通いも永遠に終わる。

「…………」

バゴール王の瞳孔が限界まで開き、額に玉のような汗がブワッと浮かんだ。

次の瞬間。

「な、何という旨さだァァァッ!!」

王の腹の底からの咆哮が、広間のステンドグラスをビリビリと震わせた。

「辛い! だが旨い! 複雑怪奇なスパイスの奔流ほんりゅうが余の舌を容赦なく蹂躙し、その後から極上の肉と野菜の甘みが優しく包み込む! そしてこの、甘くモチモチとした白き穀物との相性の良さよ!!」

バゴール王はスプーンを猛烈な速度で動かし始めた。

ガツガツ、ムシャムシャ。

王としての威厳も作法も完全に忘れ、ただひたすらにカレーを貪る。それはまさに、食欲という本能を剥き出しにした猛獣のようだった。

「お代わりだ! あるだけ持ってこい!!」

「は、はいっ! ただいま!」

結局、バゴール王は僕が大鍋に作った十数人前のカレーを一人で平らげ、最後の一滴までパンで綺麗に拭って完食してしまった。

「ふぅ……」

バゴール王は椅子に深くもたれかかり、恍惚の表情で天井を見上げた。

「余をこんなに幸せな気持ちにさせるとは……なんと天晴あっぱれな事か。宮廷料理人たちの繊細な料理でも、ここまでの魂を揺さぶる感動は作れまい」

王は満足げに丸く膨らんだ腹をさすり、僕を真っ直ぐに見据えた。

「礼を言うぞ、異界の英雄よ。見事な働きだ、褒美を取らせる! 白金貨100枚でどうだ!?」

「は、はくきんか……!?」

僕は思わず目を剥いた。

白金貨は金貨のさらに上の価値を持つ硬貨。1枚で金貨100枚分(約100万円)とも言われる。それが100枚ともなれば、日本円にしておよそ『1億円』。ちょっとした国家予算レベルの金額だ。

「そ、そんな!? カレーライスを作っただけで、貰えませんよ!?」

僕は慌てて両手を振った。

原価たったの数ポイント(数百円)の100均カレールーで、国が傾くほどの大金をもらうわけにはいかない。そんな大金を持っていれば、盗賊や暗殺者に狙われて厄介事に巻き込まれるのがオチだ。

「ふむ……」

バゴール王は僕の激しい拒絶を見て、少し驚いた後、深く感心したように何度も頷いた。

「これほどの大金を前にしても、少しも目が眩まないか。金銀財宝に興味が無いと申すか……無欲。いや、そなたは国を守る冒険者であったな。ならば、ただの金塊よりも冒険の役に立つ『力』の方が望みか。良かろう!」

王はパンッ、と手を叩いた。

「これを持て」

一人のメイドが、恭しくベルベットの布に包まれた小さな「鳥籠」のようなものを運んできた。

籠の中では、温かな光の玉がふわふわと漂っている。

「これを授けよう。我が王家に代々伝わる『守護精霊』の一種だ。極めて珍しい存在だが、きっとそなたの冒険の役に立とう」

王が籠の扉を開けると、光の玉がポーンと外へと飛び出し、僕の目の前でパチンと弾けた。

光が収束し、現れたのは手のひらサイズの小さな女の子の姿だった。

背中には蜻蛉トンボのような薄い羽が生え、全身から淡く神聖な光を放つ、愛らしい妖精だ。

「わぁっ……!」

妖精はクルクルと空中で回ると、僕の鼻先にピタッと止まって、満面の笑みを浮かべた。

『私、ピカリ! 光の妖精だよ! 君たちの名は?』

鈴を転がすような、元気で可愛い声が響く。

「ぼ、僕は太郎……(うわぁ、めっちゃ可愛い女の子だ)」

あまりの愛らしさに、僕はドギマギしながら自己紹介した。

「私はサリーよ。よろしくね、ピカリちゃん」

「私はライザよ。小さくて可愛らしいわね」

サリーとライザも、新しい小さな仲間に興味津々で顔を近づける。

『タロウ、サリー、ライザね! 覚えた!』

ピカリは元気に飛び回り、僕の肩にちょこんと着地した。そして、僕の首元をクンクンと嗅ぐ。

『王様のご飯、すっごく美味しそうな匂いがしてたもん! タロウから、あの美味しい匂いがする! タロウについていけば、毎日美味しいものが見れそう! よろしくね!』

「あはは、匂いにつられたのか。よろしく、ピカリ」

こうして、伝説のカレーライスは無事に王の胃袋を大満足させ、マルスのキャバクラ代(と首)は守られた。

そして僕たち「チーム・タロウ」は、「白金貨」以上のプライスレスな仲間――光の妖精ピカリを迎え入れることになったのだった。

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