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天井からトラックが降ってきたので、100円ショップスキルで異世界を生き延びます  作者: 月神世一


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21/30

EP 21

血の温かさと、無力な100円の玩具おもちゃ

紅蓮の魔狼クリムゾン・ウルフが崩れ落ち、森に静寂が戻った。

だが、その静けさは勝利の安堵などではなく、ひたすらに重く、冷たい緊迫感に満ちていた。

「うぅ……」

ライザが苦悶の声を漏らし、太郎の腕の中でぐったりと力を失う。

肩から脇腹にかけて、頑丈なはずの革鎧が紙切れのように引き裂かれていた。そこから溢れ出す赤黒い血が、太郎の腕と服をみるみるうちに染めていく。

「ライザ! ライザ! お願い、目を開けて!」

サリーが悲鳴のような声を上げ、膝をついてライザの傷口に手をかざす。

「癒やしの光よ、深き傷を塞ぎたまえ! 『ハイ・ヒール』!!」

サリーの必死の詠唱と共に、緑色の光が傷口を包み込む。出血は止まったものの、ライザの顔色は紙のように白く、呼吸は浅い。

「ライザが……僕を庇ったせいで……」

太郎は血に濡れた自分の手と、もう片方の手に握られた小さなプラスチックの『レーザーポインター』を見つめた。

(僕は、何をやっていたんだ……)

100円ショップのスキル。これまでは便利で楽しい「チート」だと思っていた。だが、本物の死線を前にして、自分が差し出したのは「100円の玩具」に過ぎなかった。自分が囮などという甘い考えを持ったせいで、本物の強者であるライザに死ぬほどの重傷を負わせてしまった。

「……んっ」

その時、ライザが微かに眉を寄せ、ゆっくりとまぶたを持ち上げた。

「ライザ! 分かるか!? 僕だ、太郎だ!」

太郎が必死に呼びかけると、ライザは焦点の定まらない瞳で太郎を見つめ、力なく、しかし優しく微笑んだ。

「……すみません、、みっともない所をお見せ致しましたね、、太郎さんのせいでは有りませんよ」

「……っ!!」

太郎は絶句した。

謝らなければならないのは自分の方なのに。彼女は、血の海に沈みかけながらも、真っ先に自分の不甲斐なさを詫び、太郎の罪悪感を拭おうとしたのだ。

その優しさが、今の太郎にはどんな罵倒よりも鋭く胸に突き刺さった。

「何言ってるんだ……! ライザは僕を守ってくれたじゃないか! 僕が弱かったから……僕が、あんなおもちゃで勝てるなんて思っちゃったから……!」

「……いいえ。あの光がなければ、私は今頃焼かれていたでしょう。……貴方の機転に、救われました」

ライザは震える手で太郎の腕をそっと握り、言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

「……少し、休みますね。……勝てて、良かったです……」

再び意識を失うように目を閉じたライザ。

サリーは涙を拭いながら、必死に彼女の体温を保つための魔法をかけ続けている。

太郎は、掌の中にある冷たいプラスチックの感触を、これ以上ないほど忌々しく感じていた。

(雑貨屋の延長じゃない。便利グッズの寄せ集めじゃない……)

目の前で血を流す仲間。自分を許してくれる、誇り高き騎士。

彼女たちの隣に立つために。今度こそ本当の意味で彼女たちを守るために。

太郎の心の中に、今までとは全く違う「力」への渇望が、ドロドロとした黒い炎となって燃え上がり始めていた。

「……次は、絶対に、こんな思いはさせない」

佐藤太郎という「人間」が、異世界の残酷なことわりに、初めて魂を削られた瞬間だった。

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