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天井からトラックが降ってきたので、100円ショップスキルで異世界を生き延びます  作者: 月神世一


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EP 19

紅蓮の魔狼クリムゾン・ウルフ

ルルカの森の奥深く。

風上から慎重に接近した太郎たちは、太い木の幹に身を隠しながら、ついにターゲットを捕捉した。

木々の間の少し開けた場所に、5匹のウルフの群れがたむろしている。

ポポロ村の森で太郎が遭遇した個体よりも一回り大きく、灰色の毛並みには歴戦の傷跡が刻まれていた。鋭い牙の間からは、飢えた獣特有の粘ついた涎が垂れている。

「数は5……。聞いていた通りですね」

ライザが声を潜めて報告する。

「よし、行くぞ……僕が最初の一発を」

太郎は深呼吸をして、短弓に矢をつがえようとした。しかし、その手は微かに震えている。あの夜のトラウマが完全に消えたわけではないのだ。

「いいえ、リーダー。お下がりください」

ライザがスッと太郎の前に立ち、それを制した。

「約束したはずです。私が、真正面から全て斬り伏せると」

彼女は腰の長剣をゆっくりと引き抜いた。チャキッ、と澄んだ金属音が森に響く。

その音に反応し、5匹のウルフが一斉にこちらを振り向いた。

侵入者を見つけた獣たちの瞳が、血走った赤色に染まる。

「グルルルルッ……!」

「ハァァァッ!!」

殺気に満ちたウルフたちが飛びかかってくるのと同時に、ライザも地面を蹴った。

彼女の身体から、青白い光――『闘気オド』が立ち上る。身体能力を極限まで引き上げる獣人や戦士特有の力だ。

「シッ! ハッ!」

凄まじい剣技だった。

ライザは先頭の一匹の牙を紙一重でかわすと、すれ違いざまにその首を的確に刎ね飛ばした。流れるようなステップで背後に回った二匹目の胴体を両断し、三匹目を蹴り飛ばして牽制する。

「すごい……! 本当に一人で……!」

太郎は息を呑んだ。画鋲の罠に頼っていた時には分からなかったが、ギルド長が「トップクラス」と評する彼女の純粋な戦闘力は、まさに一騎当千だった。

ものの数分。

ライザが最後の一匹の眉間を突き刺し、剣を引き抜くと、5匹のウルフは全て物言わぬ死骸となって地面に転がっていた。

「ふぅ……こんなものです。ウルフ程度、私の敵ではありません」

ライザは剣についた血を振り払い、涼しい顔で振り返った。乱れた金髪をかき上げる仕草が、木漏れ日に照らされて絵画のように美しい。

「凄い! やっぱり、ライザは強いわ!」

サリーが歓声を上げて駆け寄る。

「あ、あぁ……すごかったよ。お疲れ様、ライザ」

太郎もホッと胸を撫で下ろした。

(結局、僕は何もできなかったな……。でも、これで金貨5枚。怪我もなく終わって本当に良かった)

太郎がそう思い、弓を下ろそうとした、その時だった。

ボコッ……グチャッ……。

異様な音が、静寂の森に響いた。

「……何?」

ライザが眉をひそめて振り返る。

信じがたい光景だった。

首を斬り落とされたはずの一匹のウルフが、ゆらりと立ち上がったのだ。

いや、「立ち上がった」という表現は正しくない。首の断面から、赤黒い触手のような不気味な肉片がウネウネと伸び、地面に落ちた自分の頭部を無理やり引き寄せて「接着」させたのだ。

「な、何故!? 確かに急所を絶ったはず……!」

ライザが再び剣を構える。

異変はそれだけでは終わらない。

立ち上がったウルフからさらに無数の触手が伸び、周囲に転がる他の4匹の死体にズブズブと突き刺さった。

ズズズズズ……! グチャ、バキバキバキッ!!

「死体を……吸収してる!?」

太郎が悲鳴のような声を上げた。

他の死体はみるみるうちに干からび、その肉と血、骨、そして魔力が、中央の一匹へと濁流のように流れ込んでいく。

骨が異常に膨張し、皮膚が裂けては新たな筋肉が再生する嫌な音が響く。灰色だった毛並みは、返り血を浴びたかのように鮮やかな紅蓮ぐれん色へと染まり、体躯は元の三倍――巨大なヒグマすら凌駕するサイズへと膨れ上がった。

それはもはや、ウルフなどという低級モンスターではない。

何らかの要因で変異したのか、あるいは魔族の実験体か。

『――グォォォォォォォォンッッ!!!』

変貌した異形の魔獣が、天に向かって咆哮した。

その衝撃波だけで周囲の木々が激しく揺れ、太郎たちの鼓膜が破れそうになる。圧倒的な「死」と「暴力」の気配。Dランク依頼の枠を完全に超えた、Bランク(災害級)のプレッシャーが森を支配した。

【 紅蓮の魔狼クリムゾン・ウルフ

「ひっ……! あ、あぁ……」

サリーが恐怖で腰を抜かし、へたり込んだ。太郎も足がガクガクと震え、一歩も動けない。

「くっ! おのれ、死に損ないのバケモノが……!」

ライザが前に出る。だが、剣を握る彼女の手も、そして額に浮かぶ冷や汗も、彼女の本能が「勝てない」と警鐘を鳴らしている証拠だった。

「来ます! 太郎殿、サリー! 下がって!!」

ドンッ!! と地面が爆発したかのように抉れた。

紅蓮の魔狼が、その巨体からは信じられない速度でライザへと突進してきたのだ。

「ハァァァッ!!」

ライザはありったけの闘気を剣に込め、迎撃の斬撃を放つ。

銀の刃が、魔狼の太い前足に直撃した。

ガギィィィンッ!!

「なっ……!?」

鉄と鉄がぶつかり合うような火花が散った。

ウルフの肉を容易く裂いたはずのライザの一撃は、魔狼の異常に硬化した筋肉と毛皮に弾かれ、ほんの僅かな傷しかつけることができなかったのだ。

『ガァッ!!』

「きゃあっ!?」

魔狼が鬱陶しそうに前足を振り払う。

ただそれだけの一撃で、ライザの身体は木の葉のように吹き飛ばされ、背中の大木に激しく叩きつけられた。

「ガハッ……! ぁ……」

ライザの口から鮮血が吐き出され、長剣が手から滑り落ちる。

「ライザ!!」

太郎が叫ぶ。

彼女の『騎士としての誇り』は、理不尽な圧倒的暴力の前に、たった一撃で粉砕されてしまった。

『グルルル……』

魔狼は地面に倒れ伏したライザを見下ろし、ゆっくりと、その凶悪なあぎとを開く。喉の奥で、チロチロと赤い炎のような魔力が収束していくのが見えた。

ブレスだ。あれを食らえば、ライザは炭の塊になってしまう。

「どうする……どうすれば……! 僕の弓じゃ通じない! サリーも動けない!」

絶望が太郎の心を黒く塗りつぶしていく。

剣も魔法も通じない。このままでは、仲間が目の前で食い殺される。

何もできない。自分はただの、100円ショップの雑貨を出せるだけの無力な人間だ。

(……いや、待て)

太郎の震える手が、空中のウィンドウに触れた。

(真っ向勝負がダメなら。僕には、僕の戦い方があるはずだ……!)

圧倒的絶望の中、現代知識を持つ青年の頭脳が、逆転の一手を求めてフル回転を始めた。

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