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天井からトラックが降ってきたので、100円ショップスキルで異世界を生き延びます  作者: 月神世一


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17/30

EP 17

銀貨5枚の現実と、聖域を作る「消臭スプレー」

夕暮れ時。

アルクス郊外の森から戻った太郎たちは、達成感と心地よい疲労感に包まれながら、冒険者ギルドの扉を開いた。

「お疲れ様です。ゴブリン討伐の報告ですね」

受付カウンターで、太郎は討伐証明部位であるゴブリンの右耳が入った袋を提出した。受付嬢は慣れた手つきで中身を確認し、依頼書に完了のスタンプをバンッと押す。

「はい、確かに。こちらが今回の報酬になります」

チャリン、と革のトレイに置かれたのは、鈍く光る銀貨が5枚。

「ありがとうございます!」

太郎はその銀貨を震える手で受け取った。日本円にして約5000円。

現代のコンビニバイトの日当にも満たない金額かもしれないが、これは太郎が異世界で、自分の作戦と仲間の協力で稼ぎ出した、記念すべき「初めての給料」だ。

「やった……報酬だ……!」

太郎は銀貨の冷たい感触と重みを、しっかりと掌で噛み締めた。

「おめでとうございます、リーダー」

ライザが横から優しく声をかける。しかし、続く彼女の視線は、騎士として、そしてパーティーの現実を見る冷静なものだった。

「ただ、収支としてはトントン……いえ、少し赤字かもしれませんね。私たちが泊まっている『銀の月亭』の宿泊費が、三人部屋で一泊・銀貨2枚。今夜の食事代、そして戦闘で使った私の剣の研ぎ代や、太郎さんの矢の補充費を考えると、ゴブリン退治だけではカツカツの生活です」

「うっ……そ、そうだね」

太郎は一気に現実に引き戻された。

命がけで戦って、報酬は宿代と飯代で綺麗に消える。冒険者稼業の世知辛さを痛感する。

「もう! ライザったら、すぐに真面目な計算ばっかり!」

サリーがぷくっと頬を膨らませて、二人の間に割って入った。

「お金のことは明日から考えればいいの! 大事なのは、私たちが誰も怪我せずに勝って、こうして笑って帰ってこれたこと! 私たち新米パーティーの、記念すべき初勝利なんだよ!」

「ふふ、そうね。サリーの言う通りだわ。ごめんなさい、水を差すようなことを言ってしまって」

ライザも表情を緩め、太郎に向き直った。

「リーダー、初勝利を祝いましょう」

「……そうだね! 今日はパーッと……と言いたいところだけど、予算の範囲内でレストランで祝おう!」

「賛成ー!」

三人は昼間訪れた『大樹の梢亭』へと向かった。

夜の店内は、仕事終わりの商人や冒険者たちでさらに賑わっていた。

「かんぱーい!」

木製のジョッキをぶつけ合う。太郎とサリーは甘い果実水、ライザはよく冷えたエール(麦酒)だ。

テーブルには、温かい肉と野菜のシチュー、焼きたての黒パン、そして奮発して頼んだローストチキンが並んでいる。

「ん~っ! 生きて帰ってきて食べるご飯は最高ね!」

サリーがパンをシチューに浸して頬張る。

「ええ。それに、今日の勝利は太郎さんの作戦勝ちです。あの画鋲という罠……単純ですが、理にかなった素晴らしい戦術でした」

ライザがエールの泡を拭いながら、太郎を真っ直ぐに見つめて称賛する。

「いやぁ、二人がいてくれたからだよ。僕一人じゃ、罠にかける前にやられてた」

太郎は照れくさそうに頭をかいた。

「そんなことないわ! 太郎さんがしっかり指示を出してくれたから、私も魔法を当てるタイミングが分かったんだもん!」

「ええ。太郎殿は、立派に私たちのリーダーです」

二人の偽りない笑顔と感謝の言葉に、太郎の胸が熱くなる。

(銀貨5枚は安いかもしれない。でも、この信頼関係は……お金じゃ買えないな)

三人の笑い声が、賑やかな酒場に溶けていく。微々たる報酬と、確かな絆を深め合った祝勝会だった。

――しかし。

冒険者の「現実」は、食事を終えて宿屋に戻った瞬間に再び牙を剥いた。

「うぅ……やっぱり、ちょっと臭うわね……」

サリーが鼻をつまんで顔をしかめる。

『銀の月亭』の三人部屋。

一泊・銀貨2枚という安宿の部屋は、お世辞にも清潔とは言えなかった。

万年床のシーツからは「カビ」と「ホコリ」の匂いがし、壁や床には、前に泊まっていた荒くれ者の冒険者たちが染み込ませた「汗」や「獣の脂」のえた悪臭がこびりついているのだ。

「仕方ありません。安宿とはこういうものです。我慢して寝ましょう」

ライザが努めて冷静に言うが、彼女の顔も少し引きつっている。美しい金髪から香る(昨日太郎が貸した)シャンプーの匂いが、部屋の悪臭と混ざって台無しになりそうだった。

「せっかくお風呂セットで綺麗になったのにぃ……この布団で寝たら、また獣臭くなっちゃうよぉ」

サリーがベッドの端で涙目になっている。

(……これはキツい。女の子二人には可哀想すぎる)

現代日本の清潔な環境で育った太郎にとっても、この部屋の匂いは中々にハードだった。

「二人とも、ちょっと待ってて。窓を開けるね」

太郎は部屋の小窓を開けて換気をすると、こっそりと空中のウィンドウを開いた。

『日用品・掃除グッズ』カテゴリ。

(確か、アレがあったはずだ……!)

【 空間・布用 消臭除菌スプレー(ピュアソープの香り・300ml):100P 】

[購入しますか? YES]

光の粒子と共に、太郎の手にプラスチック製のスプレーボトルが現れた。

現代の化学が生み出した、悪臭成分を元から分解し、銀イオン(Ag+)の力で除菌までやってのける、生活の必須アイテムである。

「よし」

シュッ! シュッ! シュッシュッ!

太郎は部屋の四隅、カビ臭いベッドのシーツ、そして空中に向けて、透明な液体を勢いよく噴霧した。

「た、太郎さん? 何を撒いているんですか……?」

怪訝な顔をするライザ。しかし、次の瞬間。

「えっ……? 匂いが……消えた?」

サリーが目を丸くして鼻をヒクヒクさせた。

先程まで部屋に充満していた、カビと汗と獣の入り混じったドブのような悪臭が、文字通り「一瞬」にして消え去ったのだ。

それだけではない。

悪臭が消えた後の空間には、洗い立ての真っ白なシーツを思わせる、清潔で爽やかな「石鹸ソープの香り」が優しく漂い始めていた。

「な、なんという事でしょう……! まるで、高位の神官が『最上級の浄化魔法ホーリー・クレンズ』を部屋全体に掛けたような……! 息をするのが、こんなに心地よいなんて!」

ライザが驚愕に打ち震え、胸の前で両手を組んだ。

「すごいすごい! 太郎さん、このお部屋が一瞬で高級宿屋の特別室みたいになっちゃった! ベッドからもすっごく良い匂いがする!」

サリーが歓喜の声を上げ、先程まで嫌がっていたベッドにダイブして、シーツに頬ずりしている。

「あはは。これは『消臭スプレー』って言って、臭いの元になる悪い菌をやっつけて、良い匂いにしてくれる道具なんだ」

太郎がスプレーボトルを揺らして微笑むと、二人の視線が「尊敬」を通り越して「崇拝」に近い熱を帯びた。

「……太郎殿。貴方という人は、戦場では軍師として我々を導き、日常では癒やしと清浄を与えてくださるのですね」

ライザがうっとりとしたため息をつく。

「太郎さん、大好き! これでぐっすり眠れるよー!」

サリーがベッドの上から満面の笑みを向けた。

(たった100円の消臭スプレーで、こんなに感謝されるとは……)

銀貨5枚の現実は厳しい。だが、100円ショップのアイテムがもたらす「圧倒的な快適さ」は、確実に彼女たちの心をガッチリと掴んでいた。

爽やかな石鹸の香りに包まれた清潔な部屋で、三人は心地よい眠りにつく。

佐藤太郎の新米パーティーは、戦いの絆と、現代の化学の力によって、さらに強固なものになりつつあった。

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