EP 11
特訓!100均の「アルミ保温シート」で夜営も快適
冒険者ギルドでの手続きを終えた三人は、アルクスの城壁を出て、魔物の脅威が少ない近郊の草原地帯へとやって来た。
ギルドから依頼を受ける前に、まずはパーティーとしての連携確認と、太郎の戦闘訓練を行うためだ。
「よし、まずは弓の基本姿勢からです。足は肩幅に開いて……」
ライザの指導のもと、太郎はポポロ村で買った初心者用の短弓を構えた。
「あの、ライザ、太郎さん。私、ちょっと少し離れた場所に行ってますね」
準備運動をしていたサリーが、手を挙げて言った。
「どうしたの? サリー」
「うん。太郎さんも頑張ってるし、私ももっと戦えるようになりたいなって。アルクスに来る途中で買った『初級攻撃魔法の魔導書』を読んで、新しい魔法を練習してくる!」
サリーはやる気に満ちた瞳で拳を握りしめた。回復魔法だけでは太郎を守りきれないと考えたのだろう。
「なるほど。サリーの魔力なら初級の火属性魔法はすぐに習得できるはずよ。使えるようになれば、パーティーの戦略の幅が大きく広がるわね」
ライザも賛同して頷いた。
「でしょ!? じゃあ、行ってくる! 太郎さん、サボっちゃ駄目ですよ!」
サリーは元気よく手を振り、少し離れた岩場の方へと駆けていった。
二人きりになった草原で、特訓が再開された。
「ほら、太郎さん! 腕が下がっていますよ。もっと背中の筋肉を使って引くイメージで!」
「は、はいっ! ……くぅ、結構きついな……」
ライザは太郎の背後に回り込み、直接フォームを矯正する。
彼女の指導は厳しくも的確だった。現代日本では運動不足だった太郎の筋肉が悲鳴を上げるが、少しずつ矢が的に当たるようになっていく。
「ふふ、筋は悪くないですよ。その調子です」
厳しい特訓を終える頃には、すっかり日が落ち、周囲は暗闇に包まれていた。
この世界は昼夜の寒暖差が激しい。太陽が沈むと、急激に冷たい風が吹き荒れ始めた。
「ハックション!」
焚き火の前で、太郎が大きなくしゃみをした。
「冷えますね。アルクスの夜風は肌を刺しますから」
ライザが焚き火に薪をくべながら言う。
「普通、冒険者が夜営をする時は、分厚い熊の毛皮や、ウールを何枚も重ねた外套に包まって寝るんです。でも、あれは重くてかさばるし、雨に濡れると最悪で……」
ライザは少し身を縮こまらせた。彼女の革鎧は防具としては優秀だが、防寒性には乏しい。
岩場で魔法の特訓を終えて戻ってきたサリーも、「さ、寒いぃ……」と肩を震わせて火に近づいてきた。
(毛皮の外套か……。確かにこの世界の防寒具は重労働になりそうだな。でも、僕にはアレがある)
太郎は空中のウィンドウを呼び出した。
『防災・行楽用品』カテゴリを開く。
【 アルミ保温シート(静音タイプ・大判サイズ):100P 】
[購入しますか? YES]
「二人とも、ちょっとこれ被ってみて」
太郎の手に現れたのは、折りたたまれた銀色のペラペラなシートだった。
それを広げて、震えているサリーとライザの肩にそれぞれフワッと掛けた。
「え? なんですかこれ? 銀色の……紙?」
ライザが不思議そうに、肩に掛けられた銀色のシートをつまんだ。
布ではない。金属のような光沢があるが、羽のように軽く、そして薄い。
「これは『アルミ保温シート』っていうんだ。体温を反射して、外の冷気をシャットアウトしてくれる。少し待てば暖かくなるよ」
「こんな薄い布切れで暖かく……えっ!?」
ライザの言葉が途切れた。
シートを羽織って数十秒。彼女の瞳が驚きに見開かれた。
「な、なんですかこれ!? 魔法の炎に当たっているわけでもないのに、内側からポカポカと……いや、熱いくらいに温かくなってきましたわ!?」
「本当だ! すごいすごい! まるでお日様の光をそのまま被ってるみたい!」
サリーも目を丸くして、銀色のシートに頬ずりしている。
現代の宇宙開発技術から生まれたアルミ蒸着フィルムの威力である。人体から放射される体熱を90%以上反射し、風を完全に防ぐこのシートは、冬山の遭難者すら救う究極のサバイバルアイテムだ。
「信じられません……! これほど軽く、薄く、しかも防水性まで備えているなんて! もしやこれは、伝説の『ミスリル銀』を極限まで薄く伸ばして織り上げた、超高級な魔法の外套なのでは!?」
ライザが興奮のあまり立ち上がり、シートをバサバサと翻した。
「しかも、金属のくせに擦れ合う音が全くしません! 普通、こういう特殊素材は動くたびにガサガサと耳障りな音がして魔物を引き寄せてしまうのに……これなら夜襲の警戒にも全く支障がありませんわ!」
100均で売られている「静音タイプ(カサカサ音が少ない加工)」をあえて選んだ太郎のファインプレーだった。
「太郎殿! これがドワーフの新作だと言うのですか!? もしこれを極寒の地で戦う北方騎士団に卸せば、金貨1万枚(約1億円)で飛ぶように売れますよ!!」
「ええっ!? い、1億円!?」
たった100円の防災グッズが、軍の兵站を根本から覆す国家戦略級のアイテムとして評価されてしまった。
「あ、あはは……でもこれは、あくまで僕たち用の特別製だから。売るのはもっと目立たない日用品からにしようね」
太郎は冷や汗をかきながら、慌てて話題を逸らした。
「そ、そうですね。これほど強力なアーティファクト、不用意に見せるべきではありません」
ライザはコクリと頷き、大切そうにアルミシートを胸に抱いた。
焚き火の炎がパチパチとはぜる中、銀色のシートに包まった三人は、驚くほど快適な夜営の時間を過ごしていた。
「……暖かいですわ」
ライザがシートの端を引き寄せ、少しだけ太郎の方に身を寄せた。
クールな女騎士の顔が、焚き火の光のせいか、ほんのりと赤く染まっている。
「太郎さんの出す道具は、いつも優しくて……人を助けるものばかりですね」
「うん。僕の世界じゃ、これくらい普通なんだけどね。でも、二人が風邪をひかなくてよかったよ」
「……ありがとうございます」
ライザが小さく微笑む。その笑顔は、普段の凛々しさとは違う、年相応の女の子の柔らかさを持っていた。
(……この世界に来て、大変なことばっかりだけど。こうして頼ってもらえるのは、悪くないな)
太郎は、100均の恩恵でぬくぬくと眠りについたサリーの寝顔を見ながら、明日の本格的なクエストに向けて、静かに闘志を燃やすのだった。




