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天井からトラックが降ってきたので、100円ショップスキルで異世界を生き延びます  作者: 月神世一


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EP 21

男たちの頭皮戦線、異状アリ

エルフの移住も無事に落ち着き、太郎国に再びのどかで平和な日々が訪れていた。

ある日の午後。国王である太郎は、執務室のソファでくつろぎながら、書類の山と格闘する宰相マルスの背中を眺めていた。

(……あれ?)

太郎は目をこすった。

窓から差し込む午後の日差しが、マルスの頭頂部で「ピカーッ!」と鋭く反射した気がしたのだ。

(マルス……お前、頭の毛、かなり減ってきてないか?)

建国以来、マルスには苦労をかけ通しだ。

最初はおっちょこちょいな家令だった彼も、今や一国の宰相として、太郎が丸投げした膨大な政務を一手に引き受けている。

そのストレスは計り知れない。生え際が後退し、頭頂部が寂しくなるのも無理はない。完全に太郎のせいである。

(しかし……如何に王と言えど、「君、最近ハゲてきたね?」なんて真正面から言えるわけが無い!)

それは立派なパワハラだ。デリケートすぎる問題なのだ。

だが、このまま放置すれば、マルスの頭皮は不毛の大地(サバラー砂漠)と化してしまう。

(どうしたものか……。傷つけずに、自然にケアさせる方法は……)

太郎は知恵を絞り、ある一つの答えに辿り着いた。

「マルス、ちょっといいかな?」

「はっ! 如何なさいましたか? 太郎様」

マルスは羽ペンを置き、恭しく頭を下げた。その動きに合わせて、心なしか頭頂部の頼りない毛が、寂しげにフワリと揺れる。

「いや、いつも頑張ってくれているからね。これ、日頃の労いの品だよ」

太郎は空中にウィンドウを開き、一本の青いスプレーボトルを取り出した。

100円ショップのコスメ・衛生用品コーナーの隠れたロングセラー商品、『薬用育毛トニック【男達の頭皮戦線】(エクストラクール)』だ。

「そ、それは?」

「ポーションの一種……みたいなものさ」

太郎は真剣な眼差しで、マルスの肩に手を置いた。

「マルス……諦めるなよ。男だろ?」

「は、はい?(何の事でしょう?)」

「これを頭皮に直接当ててスプレーしたら、すっごく気持ち良いんだ。疲れた頭のリフレッシュになるから、試してみなよ」

「は、はぁ。太郎様がそう仰るなら……」

マルスは不思議そうにボトルを受け取った。

キャップを開けると、鼻にツンとくる爽快なミントとハーブの香りが漂う。

「逆さにして、頭頂部にトントンと押し当てるんだ」

「こう、ですか?」

マルスがおずおずと、トニックのノズルを薄くなった頭頂部に押し当てた。

シュワァァァァァ……!!

「おぉッ!?」

マルスが驚きの声を上げた。

「冷たい! いや、熱い!? 何ですかこの、頭皮の細胞が強制的に目覚めるような強烈な刺激は!」

「炭酸ガスと有効成分が浸透している証拠だよ。そこで、指の腹を使って頭皮マッサージをするのを忘れずにな。こう、頭皮を動かして揉みほぐすように……」

「こ、こうですか……? おぉ……おおぉぉ……」

マルスが入念に頭皮をマッサージし始める。

血行が急激に促進され、日々の激務でガチガチに凝り固まった頭皮が解れていく。

「……気持ちいいですなぁ。脳の疲れが、スゥッと消えていくようです」

マルスの顔が完全にトロンととろけた。

「気に入って貰えて良かった。あげるよそれ。毎日風呂上がりに使うといい」

「ありがとうございます! 太郎様! このご恩は一生忘れません!」

マルスは大事そうにトニックを抱え、スキップしそうな足取りで執務室を出て行った。

「うむ。これで効果が出るといいな……」

太郎は罪悪感が少し減り、安堵の息をついた。

――それから数週間後。

城の練兵場や騎士の詰所で、男たちがヒソヒソと噂話をしていた。

「おい、見たか? マルス様の髪」

「あぁ! 最近、明らかにボリュームが増えたよな!?」

「前はこう、ペタリと元気がなかったのが、今は根元からフワッと立ち上がっているというか……」

「肌艶もいいし、5歳は若返ったみたいだぞ」

その噂は、瞬く間に城中の「頭皮に悩める男たち」の間で広がった。

特に、毎日重くて蒸れる鉄兜を被り続けている騎士たちにとって、「抜け毛」と「薄毛」は職業病とも言える深刻な悩みだったのだ。

「何でも、太郎様から直々に賜った『青い魔法の瓶』に秘密が有るとか……」

「太郎様直々の秘薬か!」

「俺たちも欲しい……! 蒸れて息絶えそうなこの頭皮を、どうか救ってほしい!」

彼らの悩みは切実だった。

ある日の午後、太郎が庭を散歩していると、騎士団長を筆頭に、数百名の騎士たちがズラリと整列し、片膝をついて待ち構えていた。

「た、太郎様!」

「どうしたんだ皆? 敵襲か!?」

太郎が身構えると、騎士たちは一斉に鉄兜を脱ぎ捨てた。

そこには、寂しい頭頂部や、後退した生え際が露わになった男たちの、悲痛な叫びがあった。

「私達にも! どうか、マルス様が使っている『髪が元気を取り戻す魔法の液』をお恵みください!!」

「この通りです! 最近、妻や娘の視線が冷たくて……!」

「守りたいんです! 国だけでなく、自分の毛根も!」

屈強な騎士たちが、涙ながらに訴えかける。

その光景は、魔王軍との決戦前夜よりも遥かに悲壮感が漂っていた。

「お前達……」

太郎は胸を打たれた。

男たちは皆、戦っていたのだ。誰にも言えない見えない敵(薄毛)と。

「分かった! 僕は君達の味方だ! 恥じることはない!」

太郎は高らかに宣言し、100均スキルを全開で発動させた。

『薬用育毛トニック【男達の頭皮戦線】』×1000本 購入。

ピピッ!という音と共に、青いボトルの山が庭に出現する。

「持っていけぇぇぇ!!」

「「「太郎様あああああ!!!」」」

歓喜の雄叫びが城中に響き渡る。

こうして、太郎国で「育毛トニック」の大量配布が始まった。

その日の夜から、城内の騎士宿舎では「シュワァァァ」という炭酸音と、「おおぉぉ……」というおっさん達の恍惚とした声が響き渡るようになったという。

この頭皮への熱意が、後に迫り来る未曾有の国難を救う「最強の盾」になることを、この時の太郎はまだ知る由もなかった。

太郎国の『頭皮戦線』は、見事に勝利を収めたのであった。

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