第7話:生きた化学プラント
成人の儀を終え、名実ともに「戦士」として認められたハヤトだったが、彼の関心は名誉にはなかった。
彼は自室の「ラボ」にこもっていた。
「……ピピ、次の配合だ。硫酸(酸性の魔液)の濃度を五パーセント上げろ」
『プルプルッ!』
ハヤトの指示に応え、半透明の緑色の体が波打つ。
スライムの変異種――ピピ。
かつて廃棄場の廃液溜まりで出会ったこの奇妙な生物は、今やハヤトにとって「生きた化学プラント」であり、唯一の「技術士官」であった。
ハヤトはピピの体内に、特定の鉱石の粉末を投入する。
ピピはそれを体内で分解・合成し、自然界には存在しない純度の化学物質を生成していく。
「よし、これで『ニトロセルロース』の基礎ができる。……黒色火薬はもう古い。次は無煙火薬、そして榴弾の製造だ」
ハヤトがペンを走らせる羊皮紙には、複雑な化学式と、近代兵器の設計図が並んでいた。
ライフル、手榴弾、クレイモア地雷。
そこへ、一匹の仔狼が駆け込んできた。相棒のフェンだ。
フェンはハヤトの足を突き、外を指差す。
「……どうした、フェン。帝国軍の偵察隊か?」
ハヤトがラボを出ると、そこには血まみれになった銀狼族の戦士たちが運び込まれていた。
帝国の魔法騎士団による、「ダンジョン掃討作戦」の先遣隊との衝突。
銀狼族の強靭な肉体も、近代的な戦術と魔法の組み合わせの前には、ただの肉塊に過ぎなかった。
運び込まれた戦士の中には、右腕を失ったガザックの姿もあった。
「……ガザック。あんたの言う『牙と爪』の限界が、これだ」
ハヤトは冷徹に言い放ち、ピピを肩に乗せた。
その瞳には、すでに敵軍の殲滅プランがシミュレーションされている。
「ピピ、戦場(現場)へ出るぞ。止血剤と、さっき作った『試作型破砕手榴弾』を全部持ってこい」
『プピッ!!』
「フェン、偵察だ。敵の座標、兵数、装備をマッピングしろ。……教育の時間だ。帝国軍に、本物の『不正規戦』を教えてやる」
牙なき少年と、落ちこぼれの狼、そして緑のスライム。
後に世界を震え上がらせる「独立混成魔導旅団」の、これが事実上の初陣となった。
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