第6話:成人の儀(タクティカル・レボリューション)
「牙無し」と蔑まれたあの日から、さらに五年。
ハヤトは十歳になった。人族としては未だ成長の途上にある細身の少年だが、その瞳に宿る光は、百戦錬磨の老兵のそれであった。
銀狼族の「成人の儀」。それは、階層の深部に棲まう凶暴な魔獣を単独で狩り、その証を持ち帰るという苛烈な試練だ。
「……おい、本当にあんな棒切れ一本で行くのか?」
集落の入り口。かつてハヤトをいたぶっていたバランが、震える声で問いかけた。今のバランは、ハヤトの前では忠実な、あるいは怯えた大型犬に近い。
ハヤトの手には、長さ一メートルほどの、一見するとただの「筒」があった。ドワーフの廃棄場からくすねた魔導金属の端材を、ピピの強力な酸で溶かし、内径を精密に整えて鋳造した、滑腔銃のプロトタイプ。
「棒切れじゃない。これは『合理性』という名の牙だ」
ハヤトは無機質な笑みを浮かべ、闇に包まれた下層への道を歩き出した。
ターゲットは、深部の支配者「双頭の影大蛇」。
戦士団の精鋭でも数人がかりで挑む怪物だ。ハヤトは迷いのない足取りで、前世の偵察術を駆使し、奴の縄張りへと侵入した。
(……風向き、北北西。湿度、高。火薬の燃焼速度に影響あり。偏差修正、プラス二)
背後で気配がした。巨大な影が、音もなく岩肌を滑る。
双頭の大蛇が、獲物を見つけた歓喜に二つの口を開く。
普通の銀狼なら、ここで咆哮を上げ、爪を立てて飛びかかるところだ。
だが、ハヤトはただ片膝をつき、銃を構えた。
「……捕捉」
ハヤトが引き金を引く。
火打ち石が火花を散らし、ピピが精製した高純度の黒色火薬に引火した。
――ドォォォォォォンッ!!
洞窟内に、これまでの歴史に存在しなかった「爆音」が轟いた。
放たれた鉛の弾丸は、音速を超えて大蛇の眉間を正確に貫通した。
「ギ……ッ!?」
何が起きたのか理解する暇もなく、深部の主は地響きを立てて崩れ落ちた。
ハヤトは冷めた手つきで筒から立ち上がる煙を払い、予備の弾薬を装填する。
「爪も牙も必要ない。必要なのは、適切な運動エネルギーを適切な位置に届けることだ」
ハヤトは静かに、大蛇の首を撥ねた。
銀狼族の歴史が、たった一発の「銃声」によって塗り替えられた瞬間だった。
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