第39話:鉄風(てっぷう)の進撃
帝都オーランディアを囲む白磁の壁は、今や巨大な焦熱の円環へと変わり果てていた。
空はレオが強行した「システム全権開放」の影響で、毒々しい紫色の雷雲に覆われ、地上の理が崩壊し始めていることを告げていた。
「……来たか、ハヤト。俺が用意したこの『地獄の完成形』へ」
帝都中央塔の最上階。レオは自身の脳へ直接繋がれた数千の銀色ケーブルを介し、帝都そのものを「自身の肉体」として同期させていた。彼の瞳にはもはや人間らしい情動はなく、ただ冷徹な殺戮の光だけが宿っている。
「いいだろう。貴様の『知略』と、俺の『絶対的な暴力』。どちらがこの世界に相応しいか、ここで白黒つけようじゃないか」
帝都の正門前。そこには、ハヤトが編制した「アビス連邦」の主力、第1機甲連隊が展開していた。
「ザルガス、バラン。予定通り『槌と金床』で行く。正面で敵の注意を固定し、側面から喉元を切り裂け」
ハヤトの号令と共に、十数台の装甲車「鋼鉄狼」が重低音の排気音を響かせ、魔導機関砲を掃射しながら突進を開始した。
「全車、撃て(ファイア)ッ!!」
装甲車の旋回砲塔から放たれる高密度の魔導弾が、帝都の自動防衛ゴーレムを次々と粉砕していく。対する帝国軍も、レオの直接制御を受けた歩兵たちが、物理法則を無視した統率力でハヤトたちの動きを先読みするように動く。だが、ハヤトはその「先読み」すら利用した。
「サキ、今だ。敵の演算回路に偽装情報を流し込め。レオに『俺たちが右から来る』と確信させろ」
『了解……! レオがシステムと繋がっているなら、その信頼性を逆手に取るわ!』
サキが迷宮の深層から送り込んだ「偽の熱源データ」により、帝国軍の砲火が一瞬だけ虚空へ向けられた。そのわずかな隙を突き、エルフの精鋭狙撃隊が城壁の重要拠点を次々と無力化していく。
「リッカ、第3区画の障壁を強制排除しろ!」
「任せて! ドワーフ特製の『徹甲爆薬』、特盛りで用意したよ!」
リッカが遠隔操作するドローンが、帝都の強固な魔導障壁に接触。目も眩むような閃光と共に、物理的な「孔」が穿たれた。障壁が霧散した瞬間、ザルガスが駆る先行車両が瓦礫を乗り越え、帝都内部へと侵入を果たす。
「ハヤト様! 敵の本体、中央塔へ続く一本道に集結。……これはレオ自身の意志による、真っ向からの誘い込みです!」
ピピの警告。ハヤトは装甲車の展望ハッチから、そびえ立つ中央塔を見上げた。
あそこにはレオがいる。自分と同じ地獄を渡り、同じ知識を持ちながら、決定的に相容れない「正解」を掲げる好敵手が。
「構わん、突っ込む。レオは俺たちを一点に集め、この帝都ごと焼き払うつもりだ。……だが、奴が引き金を引く前に、その指を根元から叩き切る」
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