第34話:鋼の咆哮(サンダー・ラン)
迷宮「ユグドラシル」の下層の第一階層。かつて帝国軍の先遣隊が全滅したその場所に、今度は「死の静寂」ではなく、「機械の唸り」が満ちていた。
「ハヤト様、地上部隊より緊急入電。……いえ、これは『警告』です」
ピピの電子的な声が、管理室に緊張を走らせる。
モニターに映し出されたのは、迷宮の「通気孔」が集まる北の断崖。そこには、帝国の新皇帝レオが送り込んだ第二の刺客、空軍元帥『スカイ・ハイ』――前世でドローン兵器の開発に携わっていた男が率いる、空中機動師団が滞空していた。
「……あいつら、通気孔に何か流し込もうとしてるよ!」
リッカがモニターを指差して叫ぶ。
空中に浮かぶ大型の魔導気球から、不気味な緑色のガスが漏れ出し、迷宮の吸気システムへと吸い込まれようとしていた。
「神経ガスか。……レオめ、中の『駒』ごと俺を燻り出すつもりか」
ハヤトは冷徹に状況を判断した。
迷宮の気密性は高いが、完全に遮断すれば中にいる数千の亜人たちが窒息する。
「リッカ、第4階層から一式装甲車を『エレベーター』で第一階層へ。ザルガス、バラン、準備はいいか?」
「ああ。この『鉄の箱』の使い方は叩き込まれた!」
ザルガスの咆哮が通信機越しに響く。
「よし。……全機、出撃。迷宮の『正面玄関』を爆破開放しろ。……今から、一方的な籠城戦を終わらせる」
帝国の地上封鎖部隊は、あざ笑うかのように迷宮の入り口を遠巻きに囲んでいた。
「どうせ出てこれまい」という油断。それが、彼らの命取りとなった。
――ドォォォォンッ!!
迷宮の入り口を塞いでいた巨岩が、内側からの爆破で粉砕された。
立ち込める煙を切り裂き、重量十トンを超える鉄の塊――「鋼鉄狼」が、猛烈なエンジン音と共に飛び出してきた。
「な、なんだあの化け物は!? 魔導ゴーレムか!?」
「構うな、撃て! 魔法を集中させろ!」
帝国兵が放つ爆裂魔法が装甲車に直撃する。だが、ハヤトが設計しリッカが鋳造した「傾斜装甲」は、そのエネルギーを無情にも外側へと受け流した。
「ザルガス、主砲開放! 敵のガス散布車を優先して叩け!」
「承知ッ!!」
装甲車の旋回砲塔から、連装式の魔導機関砲が火を噴いた。
――ドバババババッ!!
高密度の魔力を封じ込めた弾丸が、帝国軍の陣地を紙細工のように引き裂く。重装甲の歩兵も、木製の補給馬車も、近代兵器の圧倒的な火線の前では等しく「肉」と「木片」に成り下がった。
「バラン、遊撃隊を展開! 車両の死角をカバーしろ!」
ハヤトの指示に従い、走行する装甲車のハッチから銀狼族の戦士たちが飛び出す。彼らは車両を「動く遮蔽物」として利用し、逃げ惑う帝国兵を最新の二式小銃で正確に仕留めていった。
「……これが、ハヤトの言う『機甲戦』か……!」
バランは、自分たちが風のように戦場を支配している感覚に、野生の血を沸騰させた。
上空では、空軍元帥の魔導気球が慌てて高度を上げようとしていた。
「バカな……! 地底に潜っていたネズミが、なぜこんな『完成された兵器』を……!?」
「スカイ・ハイ、聞こえるか」
ハヤトは鹵獲した帝国の通信波に割り込み、冷たく告げた。
「お前たちが空を支配している間に、俺たちは『地獄』を工業化した。……これ以上、俺の森に汚物を流すなら、次はお前の帝都の真ん中でこのエンジンを吹かしてやる」
帝国軍の封鎖部隊は壊滅。
ガス散布装置は鉄屑に変わり、空の師団はハヤトの「鋼の牙」に怯え、雲の彼方へと撤退していった。
夕闇の中、迷宮の入り口に佇む三台の「鋼鉄狼」。
その無骨なシルエットは、もはや「隠れ住む亜人」のものではなく、地上を侵略し返す「新国家」の威容そのものだった。
「ハヤト、勝ったね……!」
リッカが装甲車から身を乗り出し、夕日に手をかざす。
「いや、これでレオは本気になる。……奴はプライドを捨てて、持てるすべてを『対装甲兵器』の開発に注ぎ込むだろう」
ハヤトは、遠く帝都の方角を見据えた。
「追いかけっこは終わりだ。……ここからは、どちらが先に『究極の暴力』を完成させるかの競争だ」
地底の王者は、勝利の余韻に浸ることなく、次なる「更なる深淵」への鍵を握り直した。
更新通知を受け取りたい方は、ぜひブックマークをお願いします!
「続きが気になる」「面白い」と思っていただけたら、下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると、執筆の大きな励みになります!




