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銀狼(シルバーファング) 〜牙なき仔狼の異世界戦記〜  作者: beens
第1章:牙なき潜伏者

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第31話:焦土の侵攻(バーン・アンド・クリア)

「――熱い。森が、私たちの子供たちが焼かれている……!」

ドリアードの長が悲痛な叫びを上げ、胸を押さえて崩れ落ちた。

第三階層「碧落の回廊」の入り口付近。そこでは、これまでの「騎士道」や「魔法戦」の常識を覆す、無機質な破壊が始まっていた。

帝国軍第4工兵師団。

彼らが持ち込んだのは、転生者の知恵を形にした魔導重機「エクスキャベイター」だった。巨大な回転鋸が巨木を紙のように切り刻み、その後方からは、重装甲を施した「火炎放射歩兵」たちが、一切の情操を排して緑の海を火の海へと変えていく。

「……焦土作戦か。レオらしいな」

ハヤトは、ドリアードの聖域にある監視モニター(ピピと地脈の接続による投影)を見つめ、苦く吐き捨てた。

潜伏する狙撃手も、姿を消す精霊も、森そのものを焼き払われれば隠れる場所を失う。レオは、ハヤトが最も得意とする「ゲリラ戦」の盤面そのものを物理的に消去しに来たのだ。

「リッカ、第2・第4防衛セクターの『消火スプリンクラー』の出力を最大に。ピピ、地脈から水分を吸い上げろ。ドリアードたちを死なせるな!」

「わかってる! でも、あいつらの火炎、ただの火じゃないよ! 魔力を燃料にした高熱放射だ。普通の水じゃ消えきらない!」

リッカが悲鳴を上げながら、魔導回路を操作する。モニター越しに見える帝国軍は、一糸乱れぬ隊列で「焼却エリア」を広げていた。

「バラン、ザルガス。……『ベトナム』の戦い方を教えてやる。ジャングルで火器を持つ敵を相手にする時に、最も有効な手段だ」

ハヤトは「零式・深淵」の銃身を撫で、通信機(ピピの分体)に命じた。

「正面からぶつかるな。奴らの移動経路にある『通気孔』をすべて開放。ドリアードから提供された『麻痺成分入りの胞子』と『可燃性ガス』を逆流させろ」

「……ガス? 爆発させるのか?」

「いや、酸欠と中毒だ。……火を吹けば吹くほど、奴らは自分たちの吐き出した熱と毒に包まれることになる」

 帝国軍の工兵たちが、順調に森を焼き払いながら進軍していたその時。

突如、辺りを立ち込める霧が「色」を変えた。ドリアードたちが命を懸けて放った、高濃度の神経毒を含む胞子。それが、ハヤトが操作する迷宮の「空調システム」によって、帝国軍の密集地帯へとピンポイントで流し込まれたのだ。

「……っ、息が……! 防護魔法が効かないぞ!?」

「これは魔法じゃない、ただの『毒』だ! フィルターを通せ!」

帝国兵が混乱に陥り、火炎放射の手が止まった一瞬。

焼けた木々の燃え殻の中から、泥まみれのリザードマンと銀狼族が「悪魔」のように飛び出した。

彼らの小銃には、リッカが急造した「サプレッサー(消音器)」が装着されている。

――プスッ、プスッ!!

銃声すら抑制された、一方的な狙撃。

視界を胞子に遮られ、毒で意識が朦朧とする帝国兵たちは、どこから弾丸が飛んできているのかさえ分からぬまま、一人、また一人と倒れていく。

「森を焼いた罰だ。……地獄へ行け」

ザルガスの大斧が、動力パイプを断ち切られた重機を真っ二つに叩き割る。

燃料の魔力が暴走し、帝国軍の陣地内で激しい誘爆が発生した。

 一時間後。

森を焼き尽くそうとした帝国工兵師団は、その三分の一を失い、命からがら第一階層へと敗走していった。

静寂が戻った森。だが、入り口付近の巨木たちは炭化し、痛々しい姿を晒している。ドリアードの長は、助かった木々に触れながら、静かに涙を流していた。

「……勝った。でも、犠牲は大きかったね」

リッカが、モニターに映る真っ黒な焦土を見て呟く。

「いや、これは勝利じゃない。……『テスト』だ」

ハヤトは冷徹な目で、撤退していく帝国軍の最後尾を見つめていた。

そこには、一機の偵察用ドローンが悠々と旋回していた。

「レオは、俺がどうやってこの森を守るかを見極めた。……奴は今頃、この胞子とガスのデータを持ち帰り、『ガスマスク』と『広域消滅兵器』の開発を命じているはずだ」

ハヤトは銃を肩に担ぎ、ドリアードの長へ向き直った。

「長よ。これ以上、森を盾にはできない。次は、奴らは迷宮そのものを破壊しに来る。……俺たちは、さらに深く、奴らの想像が届かない『奈落』へ潜る必要がある」

ハヤトの視線は、第三階層の奥、さらに暗い深淵へと続く階段に向けられていた。

「近代化」する帝国と、「要塞化」する迷宮。

その技術の追いかけっこは、もはや後戻りできない領域へと突入していた。

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