第25話:諸兵科連合(コンバインド・アームズ)
第二階層の最深部。「女王の玉座」と呼ばれるその大空洞は、粘り気のある白い糸が張り巡らされ、無数の卵が脈打つ異様な光景だった。
その中央に鎮座するのは、この階層の主、「クィーン・インセクト」。
巨大なカマキリのような鎌を持ち、蜂の腹部と、蜘蛛の無数の目を備えた、全長十メートルを超える悪夢の結晶。その周囲を、親衛隊である精鋭のセンチピードたちが取り囲んでいる。
「……各員、最終確認だ。これは狩りではない。『制圧作戦』だ」
ハヤトの声が、通信用のピピの分体を通じて、配置についた者たちの耳に響く。
前方には、リザードマンの戦士たちが巨大な盾を重ね、鉄の壁を築いている。その後方、岩棚の狙撃ポイントには、バラン率いる銀狼族の遊撃隊が銃口を向けて待機していた。
「ザルガス、前衛を頼む。……作戦開始!」
ハヤトの号令と共に、ザルガス率いるリザードマンが咆哮を上げ、地面を叩いた。
「応よ! この鱗、容易くは通さんぞ!」
激昂した女王が、目にも止まらぬ速さで鎌を振り下ろす。
ギィィィンッ! と、火花が散り、衝撃が空洞を揺らす。かつてなら一撃で数人の戦士を肉塊に変えていたであろうその一撃を、リッカが魔導強化したリザードマンの重装盾が、真っ向から受け止めた。
「今だ! 火網展開!」
ハヤトの指示が飛ぶ。
岩棚から、銀狼族たちが一斉に引き金を引いた。
――カカカカァンッ!!
音速の弾丸が女王の側頭部に集中し、その複眼の一つを粉砕する。女王は悲鳴を上げ、傷口から緑色の体液を噴き出した。
「バラン、狙撃を止めるな! 装甲の薄い関節部を狙え! ザルガス、二歩前進、敵の逃げ道を塞げ!」
ハヤトは戦場のすべてを俯瞰していた。
かつての戦場で培った「諸兵科連合」の戦術。防御、機動、火力をバラバラに運用するのではなく、一つの有機体として機能させる。
女王は苛立ち、口から強烈な酸の霧を吹き吐いた。
「リッカ、散水装置起動!」
「任せときな!」
リッカが設置していた即席の噴霧器が、中和剤を含んだ水を撒き散らし、酸の霧を無力化する。
現代知識による「化学的カウンター」。女王という生物の優位性が、ハヤトの策によって一つずつ剥ぎ取られていく。
「……仕上げだ。ピピ、徹甲粘液弾を装填しろ」
ハヤトは自ら「零式・深淵」を構えた。ピピが銃身を黄金色に輝かせ、弾丸に極限の貫通力を付与する。
ザルガスが女王の鎌を盾で強引に固定し、動きを止めた。その刹那。
「チェックメイト」
――カァァァンッ!!
放たれた一撃は、女王の眉間にある魔力の結晶体を正確に貫き、後頭部まで突き抜けた。
巨大な肉塊が、震えながら地面に崩れ落ちる。
静寂が戻った。
銀狼族とリザードマンが、互いの顔を見合わせる。
かつては敵対し、あるいは関わり合うことのなかった種族が、今、一つの「戦果」を共有していた。
「……信じられん。我らの犠牲を一人も出さず、この主を討ち取るとは」
ザルガスが血を拭いながら、驚嘆の声を漏らす。
「これが俺の戦いだ。……そして、これから俺たちが帝国に仕掛ける『戦争』だ」
ハヤトは銃を背負い、沈黙した女王の死骸を見下ろした。
バラバラだった亜人たちは、今、ハヤトという一本の糸で編み上げられ、帝国の喉元を狙う「軍隊」へと変貌を遂げた。
「休息は最小限にしろ。……次の階層へ進み、ここを俺たちの『第一砦』として要塞化する」
深淵の底に、新たな支配者の産声が響き渡った。
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