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銀狼(シルバーファング) 〜牙なき仔狼の異世界戦記〜  作者: beens
第1章:牙なき潜伏者

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第22話:焦土の決断(ザ・グレート・エクソダス)

 里を包む火は消えかかっていたが、残されたのは無残に破壊された住居と、硝煙に混じる獣の毛が焼けたような嫌な匂いだった。

広場の中央、かつては部族の誇り高き象徴だった巨大な岩の壇に、ハヤトは登った。その手には、まだ熱を帯びた「零式・深淵」が握られている。その背後には、廃都から連れてきたドワーフの少女リッカ、そしてハヤトの唯一の理解者であるフェンとピピが控えていた。

「……皆、聞け」

ハヤトの声は低かったが、静まり返った広場の隅々までよく通った。銀狼族の戦士たち、傷ついた老人、そして怯える子供たちが、その小さな「牙無し」を見上げた。彼らの目にあるのは、先ほどの空からの死神への恐怖と、それを一掃したハヤトへの、畏怖に近い疑念だ。

「さっきの空飛ぶ機械は、単なる魔法じゃない。あれは、俺と同じ『あっち側』の世界の知識を、帝国が兵器に変えたものだ」

ハヤトは、廃都の最深部で見た真実を、飾らぬ言葉で突きつけた。帝国にはレオのような戦士だけでなく、内政や兵器開発に特化した「転生者」が複数存在し、彼らの手によってこの世界の戦争の形が、根本から作り変えられようとしていること。

「帝国はこれから、俺たちが誇りとしてきた『個の武勇』を、一方的な距離と物量で踏み潰しにくる。次にくるのは、さっきの円盤が百機、千機という規模だ。……そうなれば、この里は一時間も持たずに灰になる」

「ハヤト、お前……俺たちに、この地を捨てろと言うのか?」

最前列で肩に深い火傷を負ったバランが、震える声で問いかけた。ここは彼らの先祖が何千年も守り続けてきた聖域だ。誇り高き銀狼族にとって、背を向けて逃げることは死よりも屈辱的なはずだった。

「そうだ。捨てろ。誇りなんてものは、生きていて初めて価値が出る」

ハヤトはバランの目を真っ直ぐに見据え、壇を力強く踏みしめた。

「『逃げる』のではない。これは『転進』だ。……奴らの圧倒的な制空権と物量が届かない唯一の場所。迷宮ダンジョンの深層、地底の最深部へと潜る」

族長ガザックが、一歩前に出た。失った右腕の包帯に血が滲んでいる。

「……そこは、誰も辿り着いたことのない死の淵だぞ。魔物も、地底の呪いも、帝国より恐ろしいかもしれん」

「俺が案内する。……あそこは単なる穴じゃない。帝国という巨大な重機を、一台ずつバラバラにして葬るための『巨大なキルハウス』だ」

ハヤトの瞳には、冷徹な軍師の輝きが宿っていた。

迷宮を下れば下るほど、帝国の「数」という利点は失われ、通路の狭さが味方をする。空からの爆撃も届かない。そこなら、ハヤトの戦術と、リッカの技術、そして銀狼族の強靭な肉体を融合させた「新しい暴力」を完成させる時間が稼げる。

「ガザック。あんたが守りたいのは、この『場所』か? それとも、ここにいる『家族』か?」

重い沈黙が広場を支配した。

パチパチと燃える木の爆ぜる音だけが響く中、ガザックはゆっくりと天を仰ぎ、それから地面を強く踏み抜いた。

「……全軍に告ぐ!」

ガザックの咆哮が、里の岩壁に反響した。

「これより、我ら銀狼族は、ハヤトにその命運を預ける! 必要な物資をまとめろ! 立てない者は背負え! 我らは死ぬためにここにいるのではない。……帝国を、地獄の底から喰らうために生き延びるのだ!」

地を揺らすような遠吠えが上がった。それは敗北の嘆きではなく、猛獣が新しい牙を得たことに対する狂気混じりの宣誓だった。

リッカは呆然とその光景を見ていた。

「……あんた、本当に一族を丸ごと動かしちゃったね。これじゃあ、ただの引っ越しじゃない。……軍隊の『大遠征』だよ」

「ああ。ここからはもう、子供の遊びじゃない」

ハヤトは銃のボルトを閉じ、冷たく笑った。

「ピピ、リッカ。兵站ロジスティクスの準備だ。フェン、偵察範囲を広げろ。……俺たちが深淵に消えるまで、帝国の犬どもには一歩も近寄らせるな」

夜が明ける頃、銀狼族の里からは人影が消えた。

残されたのは、ハヤトが仕掛けた大量の遅延式地雷と、帝国への宣戦布告代わりの「空の薬莢」だけだった。

銀狼族の「大遠征エクソダス」。

牙なき元帥に率いられた武装移民団は、光の届かぬ深淵の底、未踏の第二階層へとその足を踏み入れた。

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