第21話:空からの死神(アンチ・エア・スナイプ)
廃都の出口を抜け、銀狼族の里へと続く断崖に辿り着いたハヤトが見たものは、凱旋を祝う光景ではなかった。
里を包んでいるのは、噴き上がる黒煙と、銀狼たちの怒号。そして空を埋め尽くす、不気味な「羽音」だった。
「……ハヤト、あれを見て!」
リッカが指差す先、里の上空を旋回しているのは、鳥でも魔獣でもなかった。
黒い石鏡のような円盤に、四つの翼を模した魔導金属の回転翼。中央には赤く不気味に発光する「魔導の眼」が据えられている。
それは、帝国の新たな転生者――『魔導兵器工』が作り出した、自律型爆撃魔導具「ガーゴイル・アイ」の群れだった。
円盤が急降下するたびに、その底部から魔力を凝縮した爆縮弾が投下される。
ドォォォォンッ!!
広場に巨大な火柱が立ち、避難が遅れた銀狼たちが爆風に吹き飛ばされる。
「なんなの、あの魔法……。詠唱も魔導師もいないのに、勝手に動いてる……!」
「……自律型の遊弋弾だ。レオの戦術とは違う、これは『物量による飽和攻撃』だ」
ハヤトの瞳に冷徹な殺意が宿る。
かつて彼がいた世界で、戦場を地獄に変えた「ドローン兵器」の概念が、魔法という皮を被ってこの世界に顕現していた。
「リッカ、観測を頼む。風速、高度、敵の機動パターンを読み上げろ。……フェン、里の戦士たちを誘導して、これ以上の密集を避けさせろ。ターゲットが分散すれば、奴らの爆撃効率は下がる」
ハヤトは背中から「零式・深淵」を引き抜き、ボルトを引いた。
チャキン、という硬質な音が、混乱の中でハヤトの精神を研ぎ澄ませる。
ピピはハヤトの左腕から銃身を包み込むように広がり、地熱による陽炎の揺らぎを視覚的に補正していく。
「一機、来るよ! 左、45度、高度300!」
リッカの叫びと同時に、一機の「ガーゴイル・アイ」が、逃げ惑う子狼たちを目指して急降下を開始した。
「……捉えた」
ハヤトは銃床を肩に食い込ませ、未来位置を計算する。
相手は高速で動く三次元標的だ。単に狙うだけでは当たらない。風の抵抗、弾丸の初速、そして標的の予想進路。
(吸って、吐いて。……心音を殺せ)
――カァァァンッ!!
銃口から放たれた音速の弾丸は、夕闇の空に一条の火線を刻んだ。
次の瞬間、急降下していた円盤の中央――赤いレンズが木っ端微塵に砕け散る。
制御を失った爆撃魔導具は、空中で激しく火花を散らしながら、崖壁に激突して爆発した。
「……一機。次だ」
ハヤトは即座に次弾を装填する。
だが、残る十数機の円盤が、ハヤトの放った「銃声」を新たな敵対反応として検知した。
赤いレンズが一斉にハヤトのいる崖の上を向き、編隊を組み替えて突っ込んでくる。
「ハヤト、こっちに来る! 全部来るよ!」
「……それでいい。広場の連中への攻撃が止まるなら、安い買い物だ」
ハヤトは岩陰に身を滑り込ませ、死角から次々と弾丸を放つ。
――カァァァンッ!!
――カァァァンッ!!
リッカが作り上げた「零式」の圧倒的な精度と、ハヤトの「対空射撃術」。
空中で火球が次々と咲き乱れる。暗殺者や騎士とは違う、冷徹な「機械」同士の潰し合い。
だが、敵の数は多い。二機の円盤がハヤトの頭上を越え、背後から旋回して爆縮弾を投下しようとした。
「させないよッ!!」
リッカが、廃都で回収した魔導パーツを組み合わせた「即席のジャミング・ランチャー」を突き出した。
そこから放たれた強力な魔力の奔流が、円盤の制御回路を一時的に麻痺させる。
フラついた円盤の腹部を、ハヤトの狙撃が冷酷に撃ち抜いた。
最後の数機が里の奥へと逃げ去っていくのを確認し、ハヤトは銃身の熱を逃がすようにボルトを開放した。
硝煙の匂いと、焼け焦げた魔導回路の異臭が辺りに漂う。
里の広場では、ガザックが肩を揺らしながら立ち尽くしていた。
彼らが誇りとしてきた爪も、牙も、空を飛ぶ鉄の眼には届かなかった。ハヤトがいなければ、今頃里は更地になっていただろう。
ハヤトはゆっくりと崖を下り、惨状の広がる広場へと足を踏み入れた。
生存者たちの目に宿っているのは、勝利の喜びではない。
「自分たちは、もはやこの世界の戦いについていけない」という、底冷えするような恐怖だった。
「……ガザック。話がある」
ハヤトは、血に汚れたライフルを地面に突き立て、族長を見据えた。
「帝国は、本気で俺たちを消しに来ている。……そして、この里の防御力はゼロだ」
ハヤトの声は、かつてないほど重く、そして「元帥」としての決断に満ちていた。
それは、住み慣れた故郷を捨てるという、残酷な宣告の始まりだった。
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