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銀狼(シルバーファング) 〜牙なき仔狼の異世界戦記〜  作者: beens
第1章:牙なき潜伏者

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第20話:狭路の咆哮(コリドー・エンカウンター)

 廃都の祭壇を後にし、地上への連絡通路を急ぐハヤトたちの足取りは速かった。だが、背後から追いすがってくる「違和感」が、ハヤトのうなじを冷たく撫でる。

「……リッカ、止まれ」

ハヤトが低く命じた直後、フェンが前方に向かって牙を剥き、低く唸った。

通路の角、古びた魔導ランタンの微かな光の中に、それは「置いて」あった。

「……魔導方位盤マナ・コンパスか。それも、特定の魔力波長に反応する『指向性信管』付きだ」

リッカが息を呑む。

「あれ、レオが残したやつだ……! 私たちの魔力を追跡して、場所を知らせるようになってる!」

「――正解だ。だが、気づくのが少し遅かったな」

頭上から、冷酷な声が降り注ぐ。

直後、天井の通気口から、黒い装束に身を包んだ四人の男たちが音もなく舞い降りた。帝国軍特殊暗殺部隊。レオが自分の「戦術」を叩き込み、手足として動かしている精鋭たちだ。

彼らは着地と同時に、ハヤトたちを囲むように展開した。その動きには、この世界の騎士のような無駄な虚飾がない。徹底的に「効率」を追求した、現代の特殊部隊に近い包囲陣形。

「……ハヤト、どうする!? 前後を塞がれた!」

「慌てるな。……ピピ、防弾粘液バリスティック・ゲル展開! フェン、右側の奴を牽制しろ!」

ハヤトは背中の「零式・深淵」を滑らせるように構え、ボルトを引いた。

ガチリ。

冷たい金属音が狭い通路に反響する。

「やれ!」

暗殺者の一人が、袖口から魔導仕掛けの小型クロスボウを連射する。音もなく放たれた矢がハヤトの胸を狙うが、ハヤトの腕に巻き付いたピピが瞬時に硬化し、火花を散らしてそれを弾き飛ばした。

「――俺のターンだ」

ハヤトは照準を覗き込むことなく、至近距離の敵に向けて引き金を絞った。

――カァァァンッ!!

至近距離で放たれた音速の弾丸は、暗殺者が展開した魔導障壁を、紙のように易々と食い破った。弾丸はそのまま男の肩を粉砕し、背後の石壁に大きなクレーターを穿つ。

「ぐあああッ! なんだ、この破壊力は……!?」

「一人。……次だ」

ハヤトは流れるような動作でボルトを引き、熱を帯びた薬莢を排出した。

暗殺者たちは動揺した。彼らが知る「飛び道具」の常識を、この少年の持つ鉄の筒が根底から覆していた。

「ひるむな! 囲んで仕留めろ! 奴は一人だ!」

残る三人が同時に踏み込む。一人は短剣を逆手に持ち、ハヤトの首筋を狙う。

だが、そこにはフェンがいた。

「ガルゥゥッ!」

フェンは影から躍り出ると、暗殺者の腕に噛みつき、その機動力を奪う。

「リッカ、伏せていろ!」

ハヤトは銃身を振り、残る二人の射線上にピピを「壁」として投げ出した。

ピピが空中で巨大な膜のように広がり、敵の視界を遮る。その一瞬。ハヤトは膝をつき、ローアングルから最後の一人の脚部を狙い撃ちにした。

――カァァァンッ!!

通路に悲鳴が響き渡る。

ハヤトは立ち上がり、ボルトを引いて最後の一発を装填した。

「レオに伝えろ。……『牙無し』が、新しい牙を手に入れたとな」

生き残った暗殺者のリーダーが、恐怖に顔を歪ませながら煙幕を焚き、闇の中へと逃げ延びていく。ハヤトはそれを追わなかった。今は一刻も早く里に戻り、防衛を固める必要がある。

「……ハヤト、あんた……本当に一人で三人を……」

リッカが震える声で呟く。

「一人じゃない。……ピピの防御と、フェンの連携、そしてあんたが作ったこの『牙』があったからだ」

ハヤトは銃身を軽く叩き、再び歩き出した。

硝煙の匂いと血の香りが漂う通路の先、地上の光が微かに見え始める。

だが、ハヤトの心は晴れなかった。

今のはただの「先遣隊」に過ぎない。

里に戻れば、そこには更なる「地獄」が待っているはずだ。

「行くぞ。……里を、戦場フィールドに変える準備を始める」

牙なき少年が、死線を越えて「最強の武器」と共に帰還する。

銀狼族の里、第二の決戦。その火蓋が、今まさに切って落とされようとしていた。

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