第20話:狭路の咆哮(コリドー・エンカウンター)
廃都の祭壇を後にし、地上への連絡通路を急ぐハヤトたちの足取りは速かった。だが、背後から追いすがってくる「違和感」が、ハヤトの項を冷たく撫でる。
「……リッカ、止まれ」
ハヤトが低く命じた直後、フェンが前方に向かって牙を剥き、低く唸った。
通路の角、古びた魔導ランタンの微かな光の中に、それは「置いて」あった。
「……魔導方位盤か。それも、特定の魔力波長に反応する『指向性信管』付きだ」
リッカが息を呑む。
「あれ、レオが残したやつだ……! 私たちの魔力を追跡して、場所を知らせるようになってる!」
「――正解だ。だが、気づくのが少し遅かったな」
頭上から、冷酷な声が降り注ぐ。
直後、天井の通気口から、黒い装束に身を包んだ四人の男たちが音もなく舞い降りた。帝国軍特殊暗殺部隊。レオが自分の「戦術」を叩き込み、手足として動かしている精鋭たちだ。
彼らは着地と同時に、ハヤトたちを囲むように展開した。その動きには、この世界の騎士のような無駄な虚飾がない。徹底的に「効率」を追求した、現代の特殊部隊に近い包囲陣形。
「……ハヤト、どうする!? 前後を塞がれた!」
「慌てるな。……ピピ、防弾粘液展開! フェン、右側の奴を牽制しろ!」
ハヤトは背中の「零式・深淵」を滑らせるように構え、ボルトを引いた。
ガチリ。
冷たい金属音が狭い通路に反響する。
「やれ!」
暗殺者の一人が、袖口から魔導仕掛けの小型クロスボウを連射する。音もなく放たれた矢がハヤトの胸を狙うが、ハヤトの腕に巻き付いたピピが瞬時に硬化し、火花を散らしてそれを弾き飛ばした。
「――俺のターンだ」
ハヤトは照準を覗き込むことなく、至近距離の敵に向けて引き金を絞った。
――カァァァンッ!!
至近距離で放たれた音速の弾丸は、暗殺者が展開した魔導障壁を、紙のように易々と食い破った。弾丸はそのまま男の肩を粉砕し、背後の石壁に大きなクレーターを穿つ。
「ぐあああッ! なんだ、この破壊力は……!?」
「一人。……次だ」
ハヤトは流れるような動作でボルトを引き、熱を帯びた薬莢を排出した。
暗殺者たちは動揺した。彼らが知る「飛び道具」の常識を、この少年の持つ鉄の筒が根底から覆していた。
「ひるむな! 囲んで仕留めろ! 奴は一人だ!」
残る三人が同時に踏み込む。一人は短剣を逆手に持ち、ハヤトの首筋を狙う。
だが、そこにはフェンがいた。
「ガルゥゥッ!」
フェンは影から躍り出ると、暗殺者の腕に噛みつき、その機動力を奪う。
「リッカ、伏せていろ!」
ハヤトは銃身を振り、残る二人の射線上にピピを「壁」として投げ出した。
ピピが空中で巨大な膜のように広がり、敵の視界を遮る。その一瞬。ハヤトは膝をつき、ローアングルから最後の一人の脚部を狙い撃ちにした。
――カァァァンッ!!
通路に悲鳴が響き渡る。
ハヤトは立ち上がり、ボルトを引いて最後の一発を装填した。
「レオに伝えろ。……『牙無し』が、新しい牙を手に入れたとな」
生き残った暗殺者のリーダーが、恐怖に顔を歪ませながら煙幕を焚き、闇の中へと逃げ延びていく。ハヤトはそれを追わなかった。今は一刻も早く里に戻り、防衛を固める必要がある。
「……ハヤト、あんた……本当に一人で三人を……」
リッカが震える声で呟く。
「一人じゃない。……ピピの防御と、フェンの連携、そしてあんたが作ったこの『牙』があったからだ」
ハヤトは銃身を軽く叩き、再び歩き出した。
硝煙の匂いと血の香りが漂う通路の先、地上の光が微かに見え始める。
だが、ハヤトの心は晴れなかった。
今のはただの「先遣隊」に過ぎない。
里に戻れば、そこには更なる「地獄」が待っているはずだ。
「行くぞ。……里を、戦場に変える準備を始める」
牙なき少年が、死線を越えて「最強の武器」と共に帰還する。
銀狼族の里、第二の決戦。その火蓋が、今まさに切って落とされようとしていた。
更新通知を受け取りたい方は、ぜひブックマークをお願いします!
「続きが気になる」「面白い」と思っていただけたら、下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると、執筆の大きな励みになります!




