第18話:多脚の処刑人(実戦テスト)
廃都のさらに深部、巨大なドーム状の「自動選別場」跡地。そこは、かつてドワーフたちが採掘した鉱石を集積し、巨大な機械腕が忙しなく動いていた場所だ。今はただ、沈黙と赤錆が支配する鉄の荒野となっていた。
ハヤトは、瓦礫の山の上に腹這いになり、完成したばかりの「零式・深淵」の照準器を覗き込んでいた。その横では、リッカが興奮と緊張を混ぜ合わせたような顔で、特製の双眼鏡(魔導レンズ)を構えている。
「ハヤト、本当にやるんだね? あの『多脚重戦機』を相手にさ」
リッカの視線の先、広場の中央を徘徊しているのは、先日のガーディアンとは比較にならない「化け物」だった。
六本の強靭な鋼鉄の脚を持ち、上半身には二門の魔導キャノンと、周囲を常時スキャンする複数のレンズを備えている。ドワーフの技術の粋を集めた、文字通りの自律型重戦車だ。
「ああ。レオを倒すためには、固定された装甲板ではなく、動く『重装甲』を撃ち抜くデータが必要だ。……フェン、配置につけ。合図と共に陽動を開始しろ」
ハヤトの指示に、フェンが音もなく影へと溶け込んだ。ピピはハヤトの左腕に巻き付き、銃身の微細な振動を抑えるスタビライザーとして機能している。
「……ミッション開始」
ハヤトが静かに引き金を引いた。
――カァァァンッ!!
音速の弾丸が空気を引き裂き、タランチュラの最上部にあるメイン・センサーを直撃した。火花が散り、鋼鉄の獣が悲鳴のような電子音を上げる。
『敵性個体、検知。掃討モードヘ移行』
タランチュラの反応は速かった。即座に被弾した方向へ二門のキャノンを向け、無差別に魔導弾を叩き込んでくる。ドォォォン! とハヤトの背後の岩壁が吹き飛ぶが、彼は微塵も動じない。
「フェン、今だ!」
広場の反対側から、フェンが弾丸のごとき速さで飛び出した。タランチュラの足元を掠め、わざと音を立てて注意を引く。重戦車の砲塔が、フェンの残像を追って旋回を始めた。
「リッカ、装甲の薄い『関節の継ぎ目』を狙う。弾着の衝撃を見ろ」
ハヤトは再びボルトを引き、次弾を送り込む。
ガチリ。
一連の動作に淀みはない。彼は、タランチュラがフェンを狙って砲身を向け、車体がわずかに浮き上がった瞬間を狙い澄ました。
一撃。
右前肢の付け根、装甲の合わせ目に鉛の塊が吸い込まれる。
二撃。
同じ箇所を、寸分違わぬ精度で叩く。
「……抜いたぞ」
鈍い金属音と共に、タランチュラの巨体がガクンと傾いた。最高硬度の魔導鋼であっても、一箇所に音速の衝撃を重ねられれば、歪み、破綻する。
「すごい……! あの巨体が止まった!? でも、まだキャノンが生きてるよ!」
リッカが叫ぶ。タランチュラは片足を失いながらも、狂ったように周囲を焼き払い始めた。
ハヤトは落ち着いて、最後の弾薬を装填した。これはピピが体内で生成した腐食性の酸を極小の瓶に詰め、弾頭に埋め込んだ「特製徹甲弾」だ。
「ピピ、出力を最大に。銃身を冷やせ」
『プピッ!!』
ピピが急激に温度を下げ、熱を持った銃身の歪みを補正する。
ハヤトは深く息を吐き、タランチュラの中心核――動力炉の冷却ファンが露出した瞬間を見逃さなかった。
――カァァァンッ!!
放たれた最後の一発は、回転するファンを粉砕し、その奥にある魔導回路へと飛び込んだ。
直後、タランチュラの内部から小規模な爆発が連鎖し、六本の脚が力なく折れ曲がる。
静寂が戻る。
立ち上る黒煙と、焦げたオイルの匂い。
リッカは双眼鏡を落とし、呆然とその光景を見ていた。
「……あんた、本当に何者なんだい? ドワーフの最高傑作が、たった数発の鉄粒に負けるなんて……」
「これが『近代戦』だ、リッカ。個人の武勇も、重厚な装甲も、適切な位置に適切な破壊を届ければ無意味になる」
ハヤトは銃を肩に担ぎ、タランチュラの残骸へと歩き出した。その瞳は、すでにこの戦利品から得られる「新しい素材」と「レオへの対策」に向けられている。
「フェン、よくやった。……さあ、リッカ。こいつの残骸から使えるパーツを全部剥ぎ取るぞ。次は、レオを確実に葬るための『対人用自動火器』の製作だ」
牙なき元帥は、戦場での手応えを噛み締めながら、さらに深い闇へと足を進めた。
地底の廃都に、かつてない技術の変革が、確実な足音と共に刻まれていく。
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