第13話:元帥(マーシャル)vs勇者(ヒーロー)
白銀の剣が閃光となって迫る。
ハヤトは、ナイフを構えた右腕を上げて受け流した。
キィィィン! と甲高い金属音が、洞窟の壁を震わせる。ハヤトの黒曜石のナイフが、レオの白銀の剣に食い込み、わずかな火花を散らした。
(……一撃の重みが違う。身体強化魔法か? いや、それだけじゃない。この男、自分の肉体を限界まで「理解」している)
レオの動きは、前世のハヤトが幾度となく訓練してきた「最強の敵」そのものだった。
最小限の動きで最大効率の打撃を繰り出し、常に相手の死角を突く。
そして、その一つ一つの動作に、戦場で培われた「殺意」が宿っていた。
「ヘッ! なかなかやるじゃねえか、牙無し! 俺の剣を受け止めたのは、この世界でテメェが初めてだぜ!」
レオの顔には、殺意と同時に、子供のような純粋な「高揚」が浮かんでいた。
遊びだとでも思っているのか? この男は。
再びレオの剣が繰り出される。
ハヤトは、一歩後退し、腰のナイフを逆手で構えた。
だが、その速度はハヤトの反射速度を上回る。
「……ピピ、アシスト!」
『プププッ!』
ハヤトの肩に乗っていたピピが、弾けるようにレオの顔面に飛びかかった。
「うおっ!?」
レオは、ピピの体を剣で叩き払う。ピピは液状化することでダメージを受けず、そのままレオの足元に広がる。
(……これで、足止めの一手は稼いだ!)
その瞬間、ハヤトが地面に仕掛けていた「ブービートラップ」が作動した。
竹槍のように鋭く削られた木片が、地面から無数に突き上がる。
「チッ! 古典的な罠だな!」
レオは顔色一つ変えず、突き上がった木片を、まるで舞うかのように軽々と避けきった。
だが、ハヤトの狙いは「致命傷」ではない。
(……パターン予測の崩壊と、足場の制限。これでお前は『俺のフィールド』に引きずり込まれた)
ハヤトが指笛を鳴らす。
背後から、フェンが弾丸のように飛び出した。
フェンは、ハヤトが指示した通り、レオの「唯一の死角」――背後から、低く鋭い体当たりを仕掛ける。
「おいおい、犬まで飼ってるのか!? 趣味が悪いぜ!」
レオはフェンを蹴り飛ばそうと、その巨体で後ろに振り向く。
――その一瞬、レオの体が「ハヤトの狙撃位置」と一直線になった。
「今だッ、フェン!」
フェンが、自分の口に咥えていた「ピピ特製・閃光手榴弾(魔石爆弾)」を、レオの足元に叩きつけた。
――ドォォォォォォンッ!!
洞窟全体が閃光と爆音に包まれる。
レオの視界が完全に奪われた。聴覚も麻痺している。
(……盲目。聴覚麻痺。足場不安定。これが俺たちの『三位一体』だ!)
ハヤトは、煙の中を飛び出した。
狙うは、首筋。
レオが閃光で怯んだ隙に、首元のわずかな隙間へ黒曜石のナイフを突き立てる。
キィィィィィンッ!
乾いた音が響く。
ナイフの刃先が、レオの首元の「見えない障壁」に阻まれた。
魔法障壁。だが、ハヤトのナイフは、その障壁に「ひび」を入れていた。
「ハァッ……ハァッ……クソ、危ねえ危ねえ! まさか、俺の『瞬時展開障壁』をここまで削りやがるとはな!」
閃光が収まり、レオの赤い瞳が再びハヤトを捉える。
致命傷は与えられなかった。だが、その顔には明確な「焦り」が浮かんでいた。
(……読みが甘かった。だが、十分なダメージは与えた。少なくとも、奴は「油断」という最大の武器を失った)
「やるじゃねえか。さすがは俺と同じ、『向こう側』の人間だ。だが……それで俺を殺せると思ったか?」
レオが剣を構え直す。その殺意は、先ほどよりも明確に「本気」のものになっていた。
「いや。……だが、殺す必要も、まだない」
ハヤトは冷静に答える。
フェンが飛びかかった時の足音、ピピの体内で生成される化学物質の匂い、そして閃光と爆音による混乱。
これらは全て、ハヤトが「戦場を支配するため」の布石だった。
(……この男の目的は偵察。そして、俺の能力の把握だ。ここで無理に深追いして、消耗する意味はない)
ハヤトはフェンとピピを回収し、煙幕で視界を遮ったまま、後方へと撤退を開始した。
「おい! 逃げるのか!?」
レオの叫びが響く。だが、ハヤトはもう振り向かなかった。
(……レオ。貴様が俺を殺しにくるなら、こちらもそれ相応の「対転生者兵器」を用意してやる)
地底の闇に、二つの「異物」の戦術が、確かに火花を散らした。
世界を巻き込む、本格的な「戦争」の火蓋が切って落とされた瞬間だった。
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