第12話:鋼の死神と、不吉な予感
硝煙が漂う通路には、かつて「帝国の栄光」を誇った騎士たちの残骸が転がっていた。
銀狼族の戦士たちが勝利の遠吠えを上げる中、ハヤトだけは銃を置かず、スコープ越しに「出口」を凝視し続けていた。
(……おかしい。掃討が順調すぎる)
これほどの大部隊だ。殿に強力な戦力を配置していないはずがない。
その時、ハヤトの肌がピリリと粟立った。前世、命を奪い合う直前に何度も味わった、あの「第六感」が警報を鳴らしている。
「フェン、来るぞ! 伏せろ!」
叫びと同時に、里の入り口を塞いでいた巨大な瓦礫が、まるで紙細工のように内側から吹き飛んだ。
煙の中から現れたのは、これまでの帝国兵とは一線を画す「異質」な男だった。
重厚な鎧ではなく、機動性を重視した薄い革と魔導金属のラメラ・アーマー。背中には十字の紋章。
そして、その手には抜身の白銀の剣が握られていた。
「……あーあ。全滅か。期待外れだな、正規軍の連中も」
男の声は軽薄で、死体の山を前にしているとは思えないほど平坦だった。
その男が、ふと顔を上げ、一キロ以上離れたハヤトの潜伏ポイントへ、正確に視線を向けた。
「……ッ!?」
ハヤトは息を呑んだ。
物理的な視力ではない。殺気の「指向性」を読み取られた。
男はニヤリと笑うと、剣を横一文字に振った。
「――『加速』」
次の瞬間、男の姿が視界から消えた。
いや、速すぎて捉えられない。
「音」より先に、男はハヤトが構築した第一防衛ラインの塹壕を、ただの「跳躍」で飛び越えた。
「バラン、迎撃しろ!」
ハヤトの指示で、左右の土塁から数匹の銀狼が飛びかかる。だが、男は空中で不自然に体を捻ると、目にも留まらぬ速さで剣を閃かせた。
銀狼の強靭な皮膚が、バターのように容易く両断される。
「なんだ、この動きは……!? 予備動作がない……!」
ハヤトは震える手で狙撃銃の照準を合わせた。
だが、スコープの中の男は、まるで「ハヤトが引き金を引くタイミング」を知っているかのように、不規則なジグザグ走行で弾道を逸らしていく。
(……この動き、見覚えがある。近代格闘術(CQC)の足捌きだ。それに、あの遮蔽物を利用したライン取り……)
ハヤトの脳裏に、不吉な推測が過る。
この世界の住人には不可能な、徹底的に「効率化」された殺人術。
男は里の入り口で立ち止まると、足元に落ちていた「ハヤトの不発弾」を拾い上げた。
彼はそれを興味深そうに眺め、そして、確信に満ちた声を上げた。
「……やっぱりな。『黒色火薬』の匂い。おい、そこに隠れてるやつ。お前……『向こう側』から来たんだろ?」
ハヤトの指が、トリガーの上で凍りついた。
男の言葉は、この世界の公用語ではない。
――前世の、それも極めて現代的なスラングを交えた英語だった。
「返事がないってことは、図星か。隠れてコソコソ地雷なんて埋めやがって。……『軍隊』ごっこは楽しいか?」
男が剣を天に掲げると、その身から膨大な魔力が溢れ出した。
それは魔法というより、純粋な「暴力の波動」だった。
(転生者……。それも、俺と同じ『戦争のプロ』か?)
「俺は聖騎士のレオ。ま、こっちじゃ『勇者』なんて呼ばれてる。お前、自分のことを唯一の天才だとでも思ってたんだろ? 残念だったな」
レオが地面を蹴る。
ハヤトは、反射的に狙撃銃を捨て、腰の黒曜石のナイフを引き抜いた。
銃では間に合わない。この男、距離を詰める速度が常軌を逸している。
「フェン、ピピ、離れていろ! こいつは……今までの敵とは違う!」
「ハハッ! そうだ、それでいい! 久しぶりに楽しめそうだぜ、同郷のよ!!」
白銀の剣と、泥塗れの黒曜石が激突する。
火花が散る中、ハヤトは男の瞳の中に、自分と同じ「狂気」と「空虚」を見た。
地底の迷宮で、二人の「異端の魂」が交錯する。
運命の歯車が、最悪の音を立てて回り始めた。
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