Baby Dreykov
Music: Schattenschlag - Perverted Dreams (Dawn of Ashes Remix)
(1955年冬、サハリン島北端の地下坑道、夜間強制労働時間)
鉛色の防爆灯が低い坑天井にぶら下がり、霞がかった薄暗い光が二人の影を長く引き伸ばす。岩壁からは絶えず冷気が滲み出し、鉱粉と食事に混ぜられた薄いニンニク精の異臭が坑道中に漂っていた。夜間になるとニンニク精の薬効は少し弱まるものの、瞬間移動や超速再生といった異能は依然として強く封じられ、二人に残るのは常人を上回る筋力だけ。半人の高さもある鉱石のかごを担いで往復運ぶのが精一杯だ。ニコライ2世とベリヤの身にまとう粗末な囚人服は氷水と鉱粉でびしょ濡れになり肌に張り付き、鉄鎖が氷の砕石の上を引きずられ、カラカラと絶え間なく音を立てていた。
二人は鉱石かごを木製棚に下ろし、息をつく隙を得た。ベリヤは頭を垂れ、手首に年季の入った鎖の摩擦跡を指で擦りながら、胸に溜まった鬱憤を吐き出すように口を開いた。
「昼間、俺だけ地下実験室に連れ出されて採血された。一気に三本もの試験管に血を抜かれ、ただの定期検診だと思っていたが、ガラスの隔壁越しに見てはいけないものを目にしてしまった」
ニコライは凝り固まった肩を揉む。吸血鬼特有の蒼白い顔が鉱灯の光で一層冷たく浮かび、瞳の奥に沈んだ赤い微光がくすんでいる。
「この地下の実験室には汚い裏工作が山積みされている。俺も皇后、子供たちも何度も採血に連れて行かれた。一体何を見た?」
ベリヤは喉に何か詰まったように息苦しそうに語った。
「恒温培養カプセルが一基あり、生まれたばかりの男の子が薄い産着一枚だけに包まれて横たわっていた。そばの看守同士の雑談が聞こえてきた——何百ロットにも及ぶクローン計画のサンプルは全て失敗に終わり、俺の遺伝子を元に作られたこの子だけが唯一の成功例だと」
ニコライの眉が一気に寄り、半歩近づいて声を潜めた。
「お前の体内には寒源花のエントロピー素、Morana汚染を受けた血族の血脈が宿っている。理屈の上ではクローンも吸血鬼になるはずなのに、なぜ普通の人間なのだ?」
「ここが滑稽なところだ」
ベリヤは苦しく歪んだ笑みを浮かべ、目尻がたちまち赤く染まる。
「研究者たちの計算によると、細胞分裂の際にすべての変異毒素が完全に剥離されたらしい。この子には血族の特徴が一切なく、純粋な普通の人間だ。名前はドレコフと付けられ、生後満月になったらモスクワへ送り、偽りの身分を一から用意して世間には俺が大人しく極東で労役に服していると広め、俺の身辺を探す者がいなくなるようにするという」
坑道内には遠くの看守の足音と、氷の水滴が滴るカタカタという音だけが響いていた。ベリヤが無理に張っていた強がりが一気に崩れ、肩が激しく震えだす。熱い涙が氷の鉱石に滴り落ち、数秒で小さな氷粒に凍りついた。彼は背を向け、歯を強く食いしばるも抑えきれない嗚咽が漏れ出す。かつて内務部では一存で事を決め、誰もが恐れた男が、今では理不尽な仕打ちを受けた老人と何ら変わらない姿になっていた。
ニコライはゆっくり近づき、老いた手を彼の肩に置く。同じ苦しみを背負った者同士の優しい口調で語りかけた。
「お前の心中は分かる。俺たち二人は無理やり血脈を歪められ、この荒れた孤島に閉じ込められ、子孫を残すという僅かな望みさえ踏みつぶされたのだ」
彼は一瞬言葉を切り、坑道の真っ暗な奥底に視線をやり、柔らかく諭すように続けた。
「正直に言えば、あの子は苦しみから逃れられたとも言える。ニンニク精に苦しむこともなく、太陽を恐れる必要もない。俺たちのように毎日採血され実験材料にされることもない。ある意味、俺たちの苦難を背負わずに済むのだ」
ベリヤは乱暴に頬の涙を拭い、まだしゃくり上げながら話す。
「理屈は分かっている。だがあの子は俺の細胞から生まれた身内だ!生まれながら俺の隠蔽道具として利用され、一生俺の影に囚われ、陰謀や生化学実験に囲まれて生きる。この氷の牢獄に閉じ込められているのと何の違いがある?」
ニコライは震える彼の背中をそっと叩く。冷たい風が二人の傷だらけの顔をなびかせた。
「牢獄はこの凍土の坑道だけではない。モスクワの権力の渦中もまた檻だ。俺たちは自分の命さえ思うままにできないのに、千里離れた一度も会ったことのない幼子を守る力など持っていない。思う存分泣け、深く考え込んで自分を苦しめるな」




