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七階のエレベーター  作者: リンコ


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7/20

第7章 火のない煙

七階のボタンを押した少女は、消えた。

監視カメラにも記録は残っている。

エレベーターも正常に動いていた。

それなのに――彼女だけがいなくなった。

どうか最後の真相までお付き合いください。

十一月十七日。午前二時十七分。


携帯電話の着信音で目が覚めた。画面に表示された名前は『神崎』。時計を見て、嫌な予感が背筋を走った。この時間にかかってくる電話に、いい知らせは一度もなかった。


「——もしもし」


「起きとったか」神崎の声は低く、しかし奇妙に落ち着いていた。現役刑事の癖だ——緊迫した状況でこそ、声は静かになる。「お前が調べとる五年二組の元生徒やけどな」


「なんです」


「黒崎環。今夜、彼女のアパートが燃えた」


俺は布団を蹴り上げて跳び起きた。受話器を耳に押し当てたまま、片手でジーンズをはく。


「場所は」


「西成区の花園町。築三十年の二階建てアパートの二階、端部屋。出火時刻は午前一時四十分ごろ。消防が駆けつけた時には既に部屋全体に火が回っとった。環は隣の住人が煙の匂いに気づいて運び出した。一酸化炭素中毒で意識不明——今、大阪市民病院の集中治療室や」


俺は靴を履き、コートを掴み、ドアを開けた。外は十一月の深夜で、吐く息が白く煙る。


「放火か」


「断定はまだできん。だが——異常燃焼の痕跡があるらしい。出火元を特定するのに手間取る火事やなかったと、現場の消防が言うとった。灯油かガソリンの匂いが残っとった可能性が高い」


心臓が拳ほどの大きさになって喉を突き上げてくる。環は引きこもりで、十年近く自室からほとんど出ていない。調理も掃除も母親任せ。そんな彼女の部屋から、火の不始末で火事が起きるはずがない。


ガソリンの匂い——それは意図的な放火の証拠だ。


「病院に向かう」


「気ぃつけろ。お前の周りにも火の粉が飛んどるかもしれん」


タクシーを拾い、十五分で大阪市民病院に着いた。夜間受付を抜け、三階の集中治療室へ向かう。白い廊下の先で、消防の調査員と警察官二人が立ち話をしているのが見えた。神崎はもう引退しているから現場にはいなかったが、警察内部の情報ラインは今も生きている——そんな男だった。


環の母親が、廊下のベンチに座っていた。五十代後半だろうか。手にハンカチを握りしめ、床の一点を見つめている。俺が近づくと、彼女はゆっくりと顔を上げた。目は赤く充血していたが、涙はもう涸れているようだった。


「……あなたは」


「高橋と申します。環さんの——同級生の件で、お話を伺いたくて」


「同級生」彼女はその言葉を反芻するように呟いた。「あの子に同級生なんて——もう十年以上、誰も訪ねてきませんでした」


「環さんが最近、何か変わった様子はありませんでしたか。メールやネットの書き込み、誰かと連絡を——」


「あの子は、誰とも連絡なんて取ってませんでした」母親は搾り出すような声で言った。「十年間、あの部屋からほとんど出ずに——ただずっと、パソコンに向かって。何を書いているのか、何を調べているのか、私にも話さなくて。たまに、画面の中の誰かと文字だけで話しているようでしたけど——」


母親はハンカチをぎゅっと握りしめ、声を震わせた。


「あの子が学校に行かなくなった理由も——何があったのかも、最後まで教えてくれませんでした」


「環さんのパソコンは」


母親の目が、初めて俺の顔に焦点を結んだ。


「——まだ、部屋に。焼け残ったかどうか——でも消防の人が、まだ中には入るなと」


翌朝、消防の現場検証が終了するのを待って、俺は環のアパートに足を運んだ。


外壁は黒く煤け、窓ガラスは熱で割れて砕け散っている。二階の端部屋——環の部屋は、一目でそれとわかるほど焼け方が激しかった。室内はさらに悲惨だった。壁紙は熱で縮れて剥がれ落ち、天井の一部は抜けて上の階の床板が覗いている。床には消火活動で撒かれた水がまだ溜まり、炭化した家具の残骸がそこかしこに散らばっていた。


部屋の隅に置かれたスチール製の机だけが、奇跡的に原型をとどめていた。表面は黒く焦げ、塗装は熱で気泡だらけになっていたが、中の引き出しは分厚い鉄板が熱を遮断したらしい。消防の許可を得て一番下の引き出しを開けると——ノートパソコンが一台、水濡れも焦げもせずに残されていた。環が最後にしまった場所だ。彼女は、このパソコンを何よりも大事にしていたのだろう。


電源は入らなかったが、ハードディスクは無事だ——そう判断して、パソコンごと持ち帰った。


自宅に戻り、パソコンを分解し、ハードディスクを取り出して外付けケースに接続する。ドライブが回転する微かな音を聞きながら、何が出てくるのか——いや、誰からの何が残されているのか——呼吸が浅くなるのを感じた。


数分後、画面に環のファイルが表示される。ほとんどが深夜アニメのスクリーンショットやオンラインゲームのキャプチャだったが、デスクトップの隅に『送信トレイ』と名付けられたフォルダがあった。中に保存されていたのは、一通のテキストファイルだけ。


ファイル名は『ta_ka_ha_shi.txt』。


ダブルクリック。


『高橋さんへ。


私、黒崎環です。突然ごめんなさい。あなたが五年二組のことを調べていると、ネットの書き込みで知りました。


先生はまだ終わってない。美晴も紗英も、先生のせいで消えたんだと思う。証拠はないけど、そう思う。全部七階に繋がってる。あのマンションの七階。エレベーター。十年前とおんなじ。


私はずっと部屋にこもって、誰とも話さずに生きてきた。それが一番安全だから。でも、あなたが調べてるのを知って——これを送ろうと思った。


でも、怖い。まだ怖い。だからこれは送らない。


ごめん』


送信予定時刻は昨日の午後十一時四十八分。彼女の部屋から火が出る、約二時間前だった。


俺はしばらく画面を見つめたまま動けなかった。指先だけが、キーボードの上でかすかに震えている。


(先生はまだ終わってない)


環は十年間部屋にこもりながら、誰よりも事実に近い場所で全てを見ていた。そして、ようやく声を上げようとした夜——彼女の部屋は燃やされた。


偶然のはずがない。


手帳に万年筆を走らせる。『黒崎環——十一月十七日未明、自宅アパート放火。一酸化炭素中毒で重体。未送信メッセージ発見。「先生はまだ終わってない。全部七階に繋がってる」』


最後の一文字を書き終えた瞬間、スマホが鳴った。


「——高橋です」


「俺や、神崎や」


「環のパソコンから未送信メッセージを——」


「わかっとる。今それどころやない」


神崎の声が、さっきよりずっと硬い。


「黒崎環が、さっき意識を取り戻した」


一呼吸置いて、彼は続けた。


「それでな——彼女の証言や。火が出る直前、部屋の外で足音が聞こえたそうや。誰かが、鍵のかかったドアの前で立ち止まった。その数秒後——部屋の外から火の手が上がった」


血の気が足の先から音を立てて引いていく。俺は無意識に手帳の表紙を開き、父の名前に指で触れていた。


「環は生きとる。証言もできる。せやけど——」神崎は声を潜めた。「これはもう、お前一人でやれる規模の話やない。いいか、絶対に無理すな」


電話を切る。窓の外、十一月の夜空には星ひとつない。


三十年間記者をやってきた勘が、耳元で警鐘を鳴らしている。口封じ——それはもう始まっている。橘美晴は消えた。野口紗英も消えた。黒崎環は放火で殺されかけた。次は、三十四人のうちの誰か——綾乃かもしれない。


手帳を開き、朝比奈悟の名刺を取り出す。教育課長。十年分の嘘の上で、ぬくぬくと生き延びてきた男。


(次は、こっちから行く番だ)



最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

実はこの作品は、AI創作プラットフォーム「MoeGen」を活用して制作しています。

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そんな発想から生まれた作品でした。

小説、漫画、物語づくりに興味がある方は、ぜひ一度体験してみてください。

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それでは、また次の作品でお会いしましょう。

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