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七階のエレベーター  作者: リンコ


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第20章 動き続ける箱

年が明けた。


一月四日。朝比奈悟と恭介の逮捕、優斗の遺体発見、エレベーターの隠し回路の解明——一連の事件は全国紙の一面を飾り、テレビのワイドショーは連日この話題で持ちきりだった。「七階のエレベーター」という都市伝説が現実の連続犯罪だったこと、十一年前の教え子を殺害した教師が十年間罪を隠蔽し続けていたこと——人々は恐怖と怒りと、そしてほんの少しの安堵を込めてその報道を見つめていた。


しかし、高柳宗二郎の逮捕だけは見送られた。証拠不十分——検察がそう判断したのだった。建前はそうだったが、本当の理由はもっと深いところにあった。戦前から大阪に根を張る一族の政治的影響力は、朝比奈一人を逮捕したくらいで断ち切れるものではなかった。府議会にも、市議会にも、教育委員会にも、警察にも——いまだに高柳家の息がかかった人間は腐るほどいる。


だが、それも時間の問題だと神崎は言った。


「芋づる式や。朝比奈父子の裁判が始まれば、公判で必ず高柳の名前が出る。宗一郎が書かせた校長の日記も証拠として提出される。そうなれば——いかに高柳でも、もう逃げられん。焦げ付くで、じわじわとな」


橘美晴は一月六日に正式退院し、三年ぶりに自宅へ戻った。橘美紗子は玄関先で娘を抱きしめ、それからすぐに、壁一面に貼っていた三年分の写真と調査資料を一枚残らず取り外した。誰よりも早く、自分の手で。


「もう、これで役目は終わりやから」


段ボール箱に詰められた資料の山を見ながら、美紗子が言った。彼女の三年間の執念が、現実のものとして結実した——娘は生きて帰ってきた。それだけで、十分だった。


美晴はまだ一日の大半を布団の中で過ごしていたが、時折起き上がっては窓の外を見るようになった。三年ぶりに見る外の世界——隣の家の屋根、電線に止まるスズメ、通り過ぎる近所の人の姿。その一つ一つを、彼女はまるで初めて見るかのようにじっと見つめていた。


五十嵐真由は一月十日に退院した。頭の傷はまだ完全には癒えておらず、医者からは「当分は無理をするな」と釘を刺されていた。だが、彼女は病室のベッドの上でもう次の記事の構想を練っていた。


見舞いに行った俺に、彼女は真っ直ぐな目で言った。


「高橋さん——最初の記事、美晴さんが生きていたこと、優斗くんの遺体が見つかったこと——私の署名で書かせてもらえませんか。これはわがままだってわかってます。でも——三年前、記事を差し止められた時からずっと、自分でこの事件を記事にすることを夢見てきたんです。あの時の後悔を——自分の手で終わらせたい」


「もちろんです。それがいい」


彼女はうなずき、窓の外を見た。一月の陽が、まだ弱々しく病室の床に長い影を落としている。


「記事が載ったら——私、辞表を出します。大阪日報は古川が牛耳ってる限り、まともな新聞には戻らない。フリーでやります。高橋さんみたいに」


「俺は——」少し考えてから答えた。「まだわかりません。でも、書き続けます。それが俺の——たぶん、たった一つの取り柄だから」


綾乃は一月十五日、滋賀の実家から大阪に戻ってきた。閉鎖されていた中央図書館も通常通り再開され、彼女は再びカウンターに立っていた。黒縁の眼鏡、少し伏し目がちな話し方、手元の返却本に夢中になる仕草——すべてが十月に初めて会った時と変わらない。ただ一つだけ違っていたのは、彼女が自分から俺に声をかけてきたことだった。


「——高橋さん。ちょっと、お時間ありますか」


閉館後。十月にも一度そうしたように、俺たちは図書館の奥の休憩室に向き合って座った。狭い部屋。壁一面の本棚。古い紙とインクの匂い。あの日はここで、情報が漏れていることを彼女に打ち明けた。怖い——と、初めて誰かの前で認めた場所だった。


「これから、どうするんですか」


俺はコーヒーを一口含んでから答えた。


「高柳家のことを追います。宗二郎の逮捕まで——まだ終わっていません。それから、この事件を本にまとめたいとも思っています。優斗のことを、環のことを、美晴のことを、真由さんのことを——きちんと文字にして残すために」


「私にできること、ありますか」


「綾乃さんは、ここにいてください。あなたがこのカウンターに立っているだけで——きっと、誰かが救われる。環さんも、いつか外に出られるようになったら——図書館に来るかもしれない」


綾乃は小さくうなずき、それから初めて、はっきりと顔を上げて笑った。


「——わかりました。私、ここにいます。優斗がいたことも、ちゃんと覚えています。これからも——ずっと」


一月二十日。夜。


自宅のアパートで、俺は机に向かっていた。ノートパソコンの画面には書きかけの原稿——この二ヶ月の調査をまとめた記事の草稿が広がっている。まだ完成にはほど遠い。書くべきことは多すぎるし、書いていいことと書いてはいけないことの境界もまだはっきりしない。だが、最初の一行は書けた。


『大阪市阿倍野区の古いマンションで、一人の少女が消えた。監視カメラがそのすべてを記録していた——』


机の上には、環が十年間自分の記憶だけで描き続けてきた優斗の鉛筆画と、中島がデジタルで復元した集合写真の中の優斗の顔。二枚の優斗が、蛍光灯の下で静かに並んでいる。どちらも同じ少年で、どちらも確かに——ここにいた。


スマホを取り出して時計を確認しようとした時——着信が鳴った。画面に表示されたのは、市外局番から始まる、見たことのない番号だった。非通知ではない——相手は、自分が誰かを隠す必要すら感じていないのだ。


「——もしもし」


「高橋修司さんですね」


年配の男性の声だった。穏やかで落ち着いた口調。どこかで聞いたような——いや、実際に聞いたことはない。だが、このタイプの声は知っている。権力を持つ者が、相手の出方を探る時に使う、あの独特の含みを持った丁寧な話し方だ。


「どちらさまですか」


「あなたが今、追っていらっしゃるものに——深く関わっている者です」


背筋を冷たいものが走った。自然と、手が机の上の万年筆を握り直す。


「高柳家の方ですか」


電話の向こうで、かすかな笑い声——空気だけの、声にならない笑いが聞こえた。肯定も否定もしない。ただ、情報を与えるかどうかをそれ自体を楽しんでいるような、そんな曖昧さだった。


「あなたはやり遂げました。朝比奈を追い詰め、優斗を見つけ、三十四人の共犯者たちの沈黙を破り——美晴を救い出した。立派です。心から敬意を表します」


「——何が目的です」


「ただの忠告です」声は変わらず穏やかだった。「あなたが戦った相手は——朝比奈悟という、取るに足らない一教師に過ぎませんでした。もちろん彼は罪を犯した。罰せられるべきでしょう。しかし——彼を動かしていた『システム』は、まだ終わっていません。高柳が潰れても、別の高柳が生まれる。この街では、昔からずっと——そうやって回ってきたんです。サンライトハイツのエレベーターは——今日も動いている。静かに、七階へと」


通話が切れた。ツー、ツー、という無機質な電子音だけが受話器に残る。


俺はしばらくそのまま動けずにいたが、やがてゆっくりとスマホを置き、窓の外を見た。一月の夜空に、星がたった一つだけ、かすかに輝いている。


手帳を開いた。震える指で、それでも万年筆をしっかりと握り、新しいページに言葉を刻む。


『——まだ終わっていない。朝比奈はほんの入り口だった。彼を動かしていた「システム」は今も生きている。サンライトハイツのエレベーターは今日も動き続けている——誰かが乗り、誰かが七階を押す限り。しかし、次に誰かが消える前に——今度こそ、止めてみせる。優斗に誓った。三十四人の子供たちに誓った。そして——自分自身に誓う。』


万年筆を置き、二枚の優斗の写真を見つめる。環が記憶だけで描いた優斗と、デジタルが十年の時を超えて蘇らせた優斗。どちらも同じ顔で、同じ目で——確かに、ここを見つめている。


「約束する。もう誰にも——お前の存在を消させない」


窓の外で、街には今日も無数の明かりが灯っている。その中の一つ——遠くに見えるサンライトハイツの七階の窓だけが、かすかに、一瞬だけ点滅した。気のせいかもしれない。だが、もしそうでないのなら——。


「次は、俺の番だ」


手帳を閉じ、立ち上がる。一月の冷たい夜風がカーテンの隙間から流れ込み、机の上の原稿の端をかすかに揺らした。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


この作品はいかがでしたでしょうか?


少しでも楽しんでいただけたなら、とても嬉しいです。


ご感想やご意見など、ぜひコメントでお聞かせください。


皆さまからの応援や感想が、これからの創作の大きな励みになります。


これからも、もっとたくさんの物語をお届けできるよう頑張ります。


今後とも、どうぞよろしくお願いいたします!

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