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診る側

 翌朝、私は薬師としての顔でフェンの前に座った。


「フェン。診させてください」


「俺を患者扱いするのか」


「します」と私は言った。「私は薬師です。目の前に具合の悪いものがいれば、診ます。聖獣でも、相棒でも、関係ありません」


 フェンがふん、と鼻を鳴らした。


「……好きにしろ」



 毛並みをかき分けて、身体に触れた。


 以前より確かに痩せていた。肋骨の感触が、前よりはっきりとわかった。


 目を見た。鼻を見た。歯茎の色を見た。脈に触れた。


 薬師として学んだことを、一つずつ丁寧に確かめた。


 でも——わからなかった。



「……どこが悪いのか、わかりません」と私は正直に言った。


「だろうな」


「病ではない、ということですか」


「病ではない」とフェンは言った。「これは、ただの——終わりに向かう流れだ」


 終わりに向かう流れ。


 その言葉を、薬師の私は知っていた。


 老いだ。


 どんな薬でも、止められないもの。



 私はしばらく、フェンの毛並みに手を置いたまま動けなかった。


 患者を二年間、診てきた。


 治る人を、治してきた。治らない人も——看取ってきた。


 老いだけは、誰にも治せない。それはわかっていた。わかっていたはずだった。


 でも、いざ自分の相棒がそうだとわかると——薬師の知識が何の役にも立たなかった。



「……エリーゼ」とフェンが言った。


「はい」


「お前はいい薬師だ」


「フェンを治せないのに」


「治すことだけが薬師ではない」とフェンは言った。「お前は最期まで寄り添う薬師だ。俺は何人もの人間を見てきたが——お前のような者は少ない」



 私は唇を噛んだ。


 泣くまいと思った。フェンの前で、泣くまいと。


 でも、フェンが私の手に鼻先を押し当てた。


「泣いていい」とフェンは言った。「お前はもう、泣ける人間だ。昔のお前なら泣けなかった。だが、今は——泣ける」


「……フェン」


「それは、お前が立ち直った証だ。泣くのを我慢するな」



 私はフェンの首に顔を埋めた。


 温かかった。


 まだ、温かかった。


 涙が白い毛並みに染みていった。


 フェンは何も言わなかった。ただじっとして、私が泣くのを許してくれていた。



 しばらくして、私は顔を上げた。


「……フェン。一つ、約束してください」


「なんだ」


「まだすぐには、いなくならないでください。少しでも長く——一緒にいてください」


 フェンが目を細めた。


「努力は、する」


「努力、ですか」


「こればかりは約束はできない」とフェンは言った。「だが、努力はする。お前のために」



 それから、フェンはいつもの調子で付け加えた。


「それに——お前の婚礼を見届けるまでは、死なん」


 私ははっとした。


「婚礼」


「婚約したのだろう。なら、次は婚礼だ」とフェンは言った。「相棒として、それを見届けるのが筋というものだ」



 私は涙の残る顔で、少し笑った。


「……では、婚礼まで生きてください」


「善処する」


「善処、ですか」


「善処だ」とフェンは言った。「だが、悪くない目標だ。生きる理由ができた」


 冬の朝の光が、縁側に差し込んでいた。


 フェンの白い毛並みが、その光の中でまた金色に染まっていた。


 まだ、しばらく。


 まだ、もう少し。


 私はその金色を、目に焼き付けるように見ていた。


(第97話へ続く)

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