報告
研究所に戻ると、ナーシャが飛び出してきた。
「先生! どうでした!?」
「ただいま戻りました」
「それより! 王妃様! どうでした!」
「……合格、だそうです」
ナーシャが両手を上げて飛び跳ねた。
「やった! 知ってました! 先生なら絶対そうだって!」
「絶対、とは言い切れませんでしたが」
「言い切れました! 私の中では!」
◆
その夜、カイルが来た。
いつもより少し早い時間だった。
「……母に、会ったそうですね」
「会いました」
「何か、言われましたか」
カイルの声にわずかに緊張があった。あの落ち着いた人にしては珍しいことだった。
私は少し意地悪な気持ちになった。あまりない感情だった。
「……いろいろと」
「いろいろ」
「ええ。いろいろと」
◆
カイルが珍しく言葉に詰まった。
「……母は、厳しい人なので。もし、何か失礼なことを言われたなら」
「カイル」
「はい」
「合格、だそうです」
カイルが止まった。
それから、ふっと肩の力を抜いた。
「……そうですか」
「心配していたのですか」
「していました」と彼は正直に言った。「母はあなたを気に入るだろうと思っていました。でも——万が一傷つけられたら、と」
◆
私はお茶を出しながら言った。
「傷つきませんでした。むしろ——少し、嬉しかったです」
「嬉しい?」
「王妃様がおっしゃいました。あなたが私の話をするときだけ、口数が増えると」
カイルが湯呑みを持つ手を止めた。
ほんの少し耳のあたりが赤くなった気がした。冬の夜の灯りのせいかもしれなかった。
「……母は、余計なことを」
「余計でしたか」
「……いえ」と彼は小さく言った。「事実なので」
◆
フェンが縁側で「赤くなっているぞ」と言った。
「フェン」とカイルが低く言った。
「事実だ」
「……あなたまで、母と同じことを」
私は思わず笑ってしまった。
カイルがこんな風に言葉に詰まるのを見るのは初めてだった。
◆
お茶を飲みながら、カイルがぽつりと言った。
「……子供の頃は、王城が息苦しい場所でした」
「カイルが」
「兄がいて、父がいて、宮廷があって。常に誰かに見られていました。何を言っても立場の話になる。何をしても政の話になる」
彼が湯呑みの中を見た。
「だから、口数が減ったのだと思います。言葉がいつも自分のものでなかったので」
◆
私はその言葉を静かに聞いていた。
言葉が自分のものでなかった。
それは——少し、私の七年間に似ていた。
「……わかる気がします」と私は言った。
「あなたも?」
「あの家では、私の言葉はいつも家門のものでした。私が何を言うかではなく、私が言ったことが家門にどう響くか。それだけが問われました」
◆
カイルが私を見た。
「……だから、かもしれません」と彼は言った。
「何が」
「あなたと話すときだけ、言葉が自分のものになる。立場でも、政でもなく——ただ俺の言葉として話せる」
冬の夜の静けさの中で、その言葉はまっすぐに落ちた。
「だから、母の言う通り——口数が増えるのだと思います」
◆
私はしばらく何も言えなかった。
言葉が自分のものになる。
それは——私も同じだった。
この人と話すとき、私は誰のためでもなく、自分の言葉で話している。
「……カイル」
「はい」
「私も、そうです」
「そう、とは」
「あなたと話すときだけ——私の言葉が、私のものになります」
◆
カイルがゆっくりと微笑んだ。
言葉を探す顔ではなかった。もう探す必要のない顔だった。
「……それは」
「はい」
「とても、いいことですね」
「ええ」と私は答えた。「とても、いいことです」
フェンが縁側で長い息を吐いた。
「……二人とも、まどろっこしい」
「フェン!」
「だが、悪くない」
冬の夜が静かに更けていった。
(第95話へ続く)




