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報告

 研究所に戻ると、ナーシャが飛び出してきた。


「先生! どうでした!?」


「ただいま戻りました」


「それより! 王妃様! どうでした!」


「……合格、だそうです」


 ナーシャが両手を上げて飛び跳ねた。


「やった! 知ってました! 先生なら絶対そうだって!」


「絶対、とは言い切れませんでしたが」


「言い切れました! 私の中では!」



 その夜、カイルが来た。


 いつもより少し早い時間だった。


「……母に、会ったそうですね」


「会いました」


「何か、言われましたか」


 カイルの声にわずかに緊張があった。あの落ち着いた人にしては珍しいことだった。


 私は少し意地悪な気持ちになった。あまりない感情だった。


「……いろいろと」


「いろいろ」


「ええ。いろいろと」



 カイルが珍しく言葉に詰まった。


「……母は、厳しい人なので。もし、何か失礼なことを言われたなら」


「カイル」


「はい」


「合格、だそうです」


 カイルが止まった。


 それから、ふっと肩の力を抜いた。


「……そうですか」


「心配していたのですか」


「していました」と彼は正直に言った。「母はあなたを気に入るだろうと思っていました。でも——万が一傷つけられたら、と」



 私はお茶を出しながら言った。


「傷つきませんでした。むしろ——少し、嬉しかったです」


「嬉しい?」


「王妃様がおっしゃいました。あなたが私の話をするときだけ、口数が増えると」


 カイルが湯呑みを持つ手を止めた。


 ほんの少し耳のあたりが赤くなった気がした。冬の夜の灯りのせいかもしれなかった。


「……母は、余計なことを」


「余計でしたか」


「……いえ」と彼は小さく言った。「事実なので」



 フェンが縁側で「赤くなっているぞ」と言った。


「フェン」とカイルが低く言った。


「事実だ」


「……あなたまで、母と同じことを」


 私は思わず笑ってしまった。


 カイルがこんな風に言葉に詰まるのを見るのは初めてだった。



 お茶を飲みながら、カイルがぽつりと言った。


「……子供の頃は、王城が息苦しい場所でした」


「カイルが」


「兄がいて、父がいて、宮廷があって。常に誰かに見られていました。何を言っても立場の話になる。何をしても政の話になる」


 彼が湯呑みの中を見た。


「だから、口数が減ったのだと思います。言葉がいつも自分のものでなかったので」



 私はその言葉を静かに聞いていた。


 言葉が自分のものでなかった。


 それは——少し、私の七年間に似ていた。


「……わかる気がします」と私は言った。


「あなたも?」


「あの家では、私の言葉はいつも家門のものでした。私が何を言うかではなく、私が言ったことが家門にどう響くか。それだけが問われました」



 カイルが私を見た。


「……だから、かもしれません」と彼は言った。


「何が」


「あなたと話すときだけ、言葉が自分のものになる。立場でも、政でもなく——ただ俺の言葉として話せる」


 冬の夜の静けさの中で、その言葉はまっすぐに落ちた。


「だから、母の言う通り——口数が増えるのだと思います」



 私はしばらく何も言えなかった。


 言葉が自分のものになる。


 それは——私も同じだった。


 この人と話すとき、私は誰のためでもなく、自分の言葉で話している。


「……カイル」


「はい」


「私も、そうです」


「そう、とは」


「あなたと話すときだけ——私の言葉が、私のものになります」



 カイルがゆっくりと微笑んだ。


 言葉を探す顔ではなかった。もう探す必要のない顔だった。


「……それは」


「はい」


「とても、いいことですね」


「ええ」と私は答えた。「とても、いいことです」


 フェンが縁側で長い息を吐いた。


「……二人とも、まどろっこしい」


「フェン!」


「だが、悪くない」


 冬の夜が静かに更けていった。


(第95話へ続く)

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