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第9話「ざまぁの完成」

新聞には、ガーランド侯爵家の名前が載っていた。


「婚姻関係の不正疑惑」という見出しだった。


要約すると——ウィレム様が離縁状を渡す前に、すでに愛人を屋敷に囲っていたという証言が複数の使用人から出ている、という内容だった。さらに、愛人の女性が侯爵家の財産を無断で使用していた疑いがあるとも書かれていた。


「……ミレーヌという女、かなりやっていたようだな」


父が険しい顔で言った。


「ウィレムも知らなかったのか、あるいは黙認していたのか。いずれにせよ、貴族社会では致命的だ」


私は静かに新聞を読んだ。


胸が痛いかと問われれば——痛くはなかった。

ただ、少しだけ、疲れた気持ちになった。


七年間、あの家のために尽くした。

その結果がこれだった。


「……大変でしたね」


父がぽかんとして、私を見た。


「怒らないのか」


「もう怒る相手でもないので」



その日の昼、母の知人がヴァルハイン家を訪ねてきた。


社交界で顔のきくシャルロット夫人という方で、かつてガーランド侯爵夫人だった私とは何度か顔を合わせたことがある。どちらかといえば、ウィレム様側の人脈に近い方だった。


「エリーゼ様、突然の訪問をお許しください」


シャルロット夫人は、開口一番そう言った。


「いえ、どうぞ」


「……先日の、ガーランド家の件。社交界でもかなりの騒ぎになっています。皆、エリーゼ様に対して大変なことをしたと言っています」


「そうですか」


「ウィレム様は今、かなり孤立されていて……先日の夜会にも姿を見せられなかったと聞きました」


私は少し考えてから、静かに答えた。


「お気の毒ですが、私には関係のないことです」


夫人が目を丸くした。


「怒っておられないのですか」


「七年間、誠実に務めました。今はそれで十分です」


夫人がしばらく黙って、それからふっと息をついた。


「……あなたは変わりませんね、エリーゼ様」


「そうでしょうか」


「社交界にいた頃から、誰に何を言われても、いつもそういう顔をしていた」


私は少し考えた。


確かに、あの頃も感情を出さなかった。出せなかった、という方が正しいかもしれないが。


「今は少し、違います」


「違う?」


私はちらりと縁側を見た。

フェンが日向でだらりと横になって、耳だけこちらに向けていた。


「今は、自分で選んで、こういう顔をしています」


夫人がしばらく私を見て、それから微笑んだ。


「……それはよかった」



夕方、カイル殿下が来た。今日で四回目だった。


「また来ました」


「存じています」


殿下が少し苦笑した。


「ガーランド家の件、聞きましたか」


「新聞で」


「王城でも話題です。侯爵家への投資を引き上げる動きが出ています。このままでは、爵位の維持も難しくなるかもしれない」


私は静かに聞いていた。


悪意を持ってそうなったわけではないと、頭ではわかっていた。ウィレム様が自分でまいた種が、自分に返ってきただけだ。


「……エリーゼさんは」


殿下が、少しだけ言葉を選ぶように間を置いた。


「それを聞いて、どう思いますか」


「終わったことだと思っています」


「また、その言葉ですね」


「癖なので」


殿下がくっと息をついた。笑いをこらえているみたいだった。


フェンが私と殿下の間にまた座って、「終わったことなら次を考えろ」と言った。


「次、とは」


「お前のやりたいことだ」


私は少し考えた。


薬草の調合。誰かが困っているとき、助けられること。自分の力で、誰かの役に立てること——


「やりたいことが、あるかもしれません」


殿下が静かに聞いていた。


「……聞かせてもらえますか」


夕暮れの中で、私は初めて、自分の言葉で話し始めた。


誰かのためではなく、自分のために。


(第10話へ続く)

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