第74話「知っていました」
翌日、殿下が来た。
縁側でお茶を出しながら、昨日のことを話した。
「伯爵家の侍女が来まして、奥様を診ました」
「ローゼンベルク家の」
「ご存知でしたか」
「……聞いていました」と殿下が言った。少し、間があった。「実は——来るかもしれないとは、思っていました」
◆
「どういうことですか」
「伯爵夫人は、俺の母方の遠縁にあたります。王城内で、俺の選択についていろいろ言われている中で——あなたがどんな人かを、自分の目で確かめたかったのだと思います」
私はしばらく、その言葉を受け取った。
「……試されていたのですか」
「試す、というより——見極めようとしたのだと思います。敵意ではなく」
◆
「殿下は、教えてくださらなかったのですね」
「あなたが自分で対応できると思っていましたし——事前に言うと、身構えさせてしまうと思いまして」
私は少し、考えた。
「……正直に言うと、身構えましたよ」
「そうですね、すみませんでした」
「でも——普通に診ました」
「そうでしょうね」と殿下が静かに言った。「それが、あなたです」
◆
フェンが「あいつはどう言っていたか」と聞いた。
「よい選択をされましたね、殿下も、と言っていました」
殿下が少し目を細めた。
「……そうですか」
「嬉しそうですね」
「嬉しいです。あの方は、厳しい目を持つ方なので」
◆
「これからも、そういうことがありますか」
「あると思います」と殿下が言った。「あなたを見極めようとする人が——宮廷には、何人かいます。ただ」
「ただ?」
「あなたはいつも通りにしていればいいです。それが一番、強いので」
フェンが縁側から「同じことを言っている」と言った。
「昨日もそう言われました」
「正しいことは、何度言っても正しい」
◆
昼過ぎに、殿下が少し真剣な顔になった。
「……一つ、話があります」
「なんですか」
「来月、王城で小さな茶会があります。父王と、いくつかの家門の方が集まる席です。——俺と一緒に、来ていただけますか」
私はしばらく、黙った。
「王城に、ですか」
「はい。正式な場ではないですが——顔を見せることに、意味があると思っています」
◆
「……怖いですか」とフェンが聞いた。
「少し」
「少しでいい」
「行けますか」と殿下が静かに聞いた。
私はしばらく、庭を見た。
ラベンダーが、夏の風に揺れていた。
「……行きます」
「ありがとうございます」
「いつも通りに、していればいいのですよね」
殿下が、静かに微笑んだ。
「そうです。いつも通りに」
(第75話へ続く)




