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第74話「知っていました」

 翌日、殿下が来た。


 縁側でお茶を出しながら、昨日のことを話した。


「伯爵家の侍女が来まして、奥様を診ました」


「ローゼンベルク家の」


「ご存知でしたか」


「……聞いていました」と殿下が言った。少し、間があった。「実は——来るかもしれないとは、思っていました」



「どういうことですか」


「伯爵夫人は、俺の母方の遠縁にあたります。王城内で、俺の選択についていろいろ言われている中で——あなたがどんな人かを、自分の目で確かめたかったのだと思います」


 私はしばらく、その言葉を受け取った。


「……試されていたのですか」


「試す、というより——見極めようとしたのだと思います。敵意ではなく」



「殿下は、教えてくださらなかったのですね」


「あなたが自分で対応できると思っていましたし——事前に言うと、身構えさせてしまうと思いまして」


 私は少し、考えた。


「……正直に言うと、身構えましたよ」


「そうですね、すみませんでした」


「でも——普通に診ました」


「そうでしょうね」と殿下が静かに言った。「それが、あなたです」



 フェンが「あいつはどう言っていたか」と聞いた。


「よい選択をされましたね、殿下も、と言っていました」


 殿下が少し目を細めた。


「……そうですか」


「嬉しそうですね」


「嬉しいです。あの方は、厳しい目を持つ方なので」



「これからも、そういうことがありますか」


「あると思います」と殿下が言った。「あなたを見極めようとする人が——宮廷には、何人かいます。ただ」


「ただ?」


「あなたはいつも通りにしていればいいです。それが一番、強いので」


 フェンが縁側から「同じことを言っている」と言った。


「昨日もそう言われました」


「正しいことは、何度言っても正しい」



 昼過ぎに、殿下が少し真剣な顔になった。


「……一つ、話があります」


「なんですか」


「来月、王城で小さな茶会があります。父王と、いくつかの家門の方が集まる席です。——俺と一緒に、来ていただけますか」


 私はしばらく、黙った。


「王城に、ですか」


「はい。正式な場ではないですが——顔を見せることに、意味があると思っています」



「……怖いですか」とフェンが聞いた。


「少し」


「少しでいい」


「行けますか」と殿下が静かに聞いた。


 私はしばらく、庭を見た。


 ラベンダーが、夏の風に揺れていた。


「……行きます」


「ありがとうございます」


「いつも通りに、していればいいのですよね」


 殿下が、静かに微笑んだ。


「そうです。いつも通りに」


(第75話へ続く)

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