表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
72/182

第72話「弟子の目」

 梅雨の晴れ間に、ナーシャが薬草の水やりをしながら言った。


「先生、最近——少し、顔が変わりましたね」


「そうですか」


「なんか……柔らかくなった気がします」


 私は水を受け取りながら、少し考えた。


「柔らかく」


「うん。以前も怖くなかったけど——なんか、最近はもっと、ふわっとしてます」


 フェンが縁側から「ふわっと」と繰り返した。



 ナーシャは観察眼がある。


 薬草の状態を見て、何が足りないかを判断する力が、最近ついてきた。人を見る目も、同じように育っているらしかった。


「殿下が来るようになってから、ですか」とナーシャが続けた。


「……そうかもしれません」


「やっぱり」


「やっぱり?」


「先生が誰かに大切にされると、ほっとするんです、私」



 私はしばらく、その言葉を受け取った。


 ナーシャは最初、おどおどした子だった。今は堂々と意見を言う。それが——嬉しかった。


「ナーシャも、変わりましたね」


「私も?」


「最初の頃は、私の顔色ばかり見ていました」


 ナーシャが少し照れた顔をした。


「……先生が怖くなかったから、慣れたんです。怖い先生だったら、今も顔色見てたと思います」



 昼過ぎに殿下が来た。


 ナーシャが「いらっしゃいませ」と言って、すぐに台所に消えた。


 殿下が「いつも感じのいい子ですね」と言った。


「よく気がつきます。弟子として自慢です」


「エリーゼさんに似てきましたか」


「……どういう意味ですか」


「気がつきやすい、という意味です」



 三人でお茶を飲んでいると、ナーシャが殿下に聞いた。


「殿下は——先生のどんなところが好きですか」


「ナーシャ」


「いいじゃないですか。私も聞きたいので」


 殿下がしばらく考えた。


「……静かなところ、でしょうか」


「静か?」


「騒がしくない。でも——そこにいるとわかる。そういう人が、俺は好きです」



 ナーシャが「へえ」と言った。


「殿下も、そういう感じありますよね。静かで、でもいる感じ」


「似た者を好きになるのかもしれません」


「それ、すごく良いと思います」


 フェンが「おしゃべりだ」と言った。


「フェンは静かな人が好きなんですよね」とナーシャが言った。


「……うるさい」


「それって褒めてるってことですよね」


 フェンが何も言わなかった。



 夕方、ナーシャが帰り際に私に小さく言った。


「……先生、本当によかったです。幸せそうで」


「ナーシャ」


「私、先生が幸せになるとこ、ずっと見ていたいです。ずっと弟子でいます」


 私は少し、目が滲んだ。


「……ありがとう」


「泣かないでくださいよ、もう」


 でもナーシャも、少し目が赤かった。


(第73話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ