表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
67/182

第67話「フェンとカイル」

 その日、殿下が来たのは昼過ぎだった。


 私が薬草の蒸留作業で台所に入っていたとき、フェンと殿下が縁側に二人きりになった。


 私は気づいていなかった。



 作業を終えて縁側に出ると、殿下が少し、妙な顔をしていた。


「……どうかしましたか」


「いえ」


「フェンに何か言われましたか」


 殿下が少し間を置いた。


「……少し、話をしました」


「どんな話ですか」


 フェンが「俺とあいつの話だ」と言った。



 気になって、夜になってからフェンに聞いた。


「……殿下に、何を話したのですか」


「いろいろだ」


「いろいろ」


「お前のことと、俺のこと」


 フェンがしばらく黙った。それから言った。


「俺が以前の伴侶のとき、何百年も生きてきたこと。人間がいかに短命か。それでも俺が人の傍にいる理由」



「……それを、殿下に」


「あいつには知っておいてほしかった」


「なぜですか」


「お前を大切にしたいなら——お前がどこから来たかを、ちゃんと見ていてほしいから」


 私は少し、胸が詰まった。


「フェン……」


「うるさい。感謝するな」



 翌日、殿下に聞いた。


「フェンに何を言われたか、教えてもらえますか」


 殿下がしばらく考えた。


「……エリーゼさんは、一度壊れかけた人間だと言われました」


「壊れかけた」


「言葉がきつくて、すみません。でもフェンはそう言いました。だから俺が、二度と同じことをしないように、と」



「……それで、殿下はどう答えたのですか」


「しないと言いました。ただ、言葉だけでは足りないとも思ったので——」


 殿下が少し、迷うような顔をした。


「フェンに、もし俺がそういうことをしたら噛んでくれと頼みました」


「……噛む」


「はい。フェンに了承してもらいました」



 私はしばらく、その会話を想像した。


 殿下が真剣な顔でフェンに「噛んでください」と言い、フェンが「わかった」と答えている——そんな場面が浮かんで、何とも言えない気持ちになった。


「……笑いましたか」とフェンが言った。


「笑いました」


「笑うな。真剣に言った」


「わかっています」



 でも——それが、嬉しかった。


 殿下がフェンに頼んだということが。フェンが了承したということが。


 二人が、そういうふうに向き合っているということが。


「……ありがとうございます、殿下」


「フェンに感謝してください」


「フェンにも、ありがとうございます」


「うるさい」


 でも今夜のフェンの「うるさい」は、少しだけ声が明るかった。


(第68話へ続く)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ