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第62話「殿下の奮闘」

「何か手伝えることはありますか」


 殿下が来るたびに言う言葉だった。今日はナーシャが風邪で休みだったので、私は少し考えた。


「……では、軟膏の仕込みを手伝ってもらえますか」


「やります」


「本当に大丈夫ですか。少し細かい作業ですが」


「やります」


 殿下が袖をまくった。その真剣な顔が——少し、可笑しかった。



 材料を並べた。蜜蝋、植物油、乾燥させたカレンデュラ。


「まずカレンデュラを油に漬けてから、蜜蝋を溶かして混ぜます。火加減が大事なので」


「わかりました」


「ゆっくり混ぜてください。急ぐと分離します」


「……分離、しないように」


 殿下が非常に慎重に、へらを動かし始めた。



 五分ほど経って、殿下が静かに言った。


「……これは、むずかしいですね」


「慣れると感覚でわかります」


「あなたはいつも、こういうことを一人でやっていたのですか」


「ナーシャが来てからは二人ですが、以前は一人でした」


「……尊敬します」


 私は少し笑った。


「殿下も、王城でなさっていることの方がずっと難しいと思います」


「種類が違います。これは——手が直接、誰かの役に立っている感じがします」



 フェンが台所の入口から顔を出した。


「何をしている」


「軟膏を作っています」


「あいつが」


「手伝ってもらっています」


 フェンがしばらく、殿下の手元を見た。


「……丁寧だな」


「ありがとうございます」と殿下が言った。手を止めずに。


「褒めたわけではない」とフェンが言った。でも離れなかった。



 仕上がった軟膏を小瓶に詰めると、殿下が「できました」と言った。少し誇らしそうだった。


「上手にできました」


「本当ですか」


「本当です。これは明日の患者に使います」


 殿下がその小瓶を、しばらく見ていた。


「……俺が作ったものが、誰かの役に立つのですか」


「そうです」


「……それは、少し——いいですね」



 後片付けをしながら、殿下が言った。


「薬師の仕事は、続けてほしいです」


「続けるつもりです」


「俺の傍にいることになっても」


「はい。それは——変えたくないです」


 殿下が頷いた。


「俺もそう思います。あなたの仕事は、あなたのものです」



 夕方、殿下が帰ったあと、フェンが言った。


「……あいつは、お前を縛ろうとしない」


「そうですね」


「前の男とは違う」


 私はその言葉を、静かに受け取った。


「……はい。全然違います」


「だから——俺も、認めた」


 フェンが、それだけ言って縁側に戻った。


 春の夕暮れが、小瓶の並んだ棚をやわらかく照らしていた。


(第63話へ続く)


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