第59話「正式な謁見」
正式な謁見の日は、冬の終わりに近い頃に定められた。
殿下から「当日は俺が迎えに行きます」と手紙が来た。「服装は、あなたらしくあれば十分です」とも書いてあった。
あなたらしく。
私はしばらく、その言葉を考えた。
◆
「フェン、何を着ていけばいいと思いますか」
「俺に聞くな」
「参考意見として」
フェンが少し黙った。
「……清潔で、動きやすくて、お前が落ち着けるもの」
「それは普段着ですね」
「それでいい」
私はその言葉を、素直に受け取ることにした。
◆
当日、殿下は朝に迎えに来た。
濃紺の正式な外套を着ていた。普段より少し改まっていたが、顔はいつも通りだった。
「……緊張していますか」
「少し」と私は正直に答えた。
「俺もです」
「殿下も」
「はい。でも——あなたが隣にいるので、大丈夫だと思っています」
フェンが「出発するぞ」と言った。
◆
王城の謁見の間は、前回より広かった。
国王陛下が上座に座っていた。アルヴィン殿下も傍らに控えていた。前回と同じ穏やかな目が、こちらを向いた。
「来てくれたか」
「お招きにあずかり、光栄です」
「堅苦しくしなくていい——と前も言ったな」
「覚えています」
陛下が少し、口元を緩めた。
◆
「カイルから、話は聞いた」陛下が静かに言った。「お前は、王家の手順を受け入れてくれると」
「はい」
「怖くないのか」
私は少し考えた。
「……怖い、とは少し違います。不慣れではあります。ただ——殿下がいてくれるので、一人ではないと思っています」
陛下がカイル殿下を見た。殿下が静かに頷いた。
◆
「聖獣はどうだ」
陛下がフェンに目を向けた。フェンが凛と座ったまま、答えた。
「この者は、俺が選んだ。俺の目に狂いはない」
陛下がしばらく、フェンを見た。それから深く頷いた。
「……フェンリルがそう言うなら、俺が余計なことを言う必要はないな」
◆
帰り道、三人で並んで歩いた。
殿下が「よかったです」と静かに言った。
「何がですか」
「あなたが——いつも通りだったので」
「いつも通りにしかできません」
「それで十分です。父王も、そう見ていたと思います」
アルヴィン殿下が帰り際に「またいつか研究所に伺いたい」と言っていた。それも——少し嬉しかった。
◆
夕暮れの城下町を歩きながら、フェンが言った。
「……これで、公式になったな」
「そうですね」
「感想は」
私はしばらく考えた。
「……不思議な気持ちです。でも——悪くないです」
殿下が静かに「俺も、同じです」と言った。
春が、もうすぐそこまで来ていた。
(第60話へ続く)




