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第59話「正式な謁見」

 正式な謁見の日は、冬の終わりに近い頃に定められた。


 殿下から「当日は俺が迎えに行きます」と手紙が来た。「服装は、あなたらしくあれば十分です」とも書いてあった。


 あなたらしく。


 私はしばらく、その言葉を考えた。



「フェン、何を着ていけばいいと思いますか」


「俺に聞くな」


「参考意見として」


 フェンが少し黙った。


「……清潔で、動きやすくて、お前が落ち着けるもの」


「それは普段着ですね」


「それでいい」


 私はその言葉を、素直に受け取ることにした。



 当日、殿下は朝に迎えに来た。


 濃紺の正式な外套を着ていた。普段より少し改まっていたが、顔はいつも通りだった。


「……緊張していますか」


「少し」と私は正直に答えた。


「俺もです」


「殿下も」


「はい。でも——あなたが隣にいるので、大丈夫だと思っています」


 フェンが「出発するぞ」と言った。



 王城の謁見の間は、前回より広かった。


 国王陛下が上座に座っていた。アルヴィン殿下も傍らに控えていた。前回と同じ穏やかな目が、こちらを向いた。


「来てくれたか」


「お招きにあずかり、光栄です」


「堅苦しくしなくていい——と前も言ったな」


「覚えています」


 陛下が少し、口元を緩めた。



「カイルから、話は聞いた」陛下が静かに言った。「お前は、王家の手順を受け入れてくれると」


「はい」


「怖くないのか」


 私は少し考えた。


「……怖い、とは少し違います。不慣れではあります。ただ——殿下がいてくれるので、一人ではないと思っています」


 陛下がカイル殿下を見た。殿下が静かに頷いた。



「聖獣はどうだ」


 陛下がフェンに目を向けた。フェンが凛と座ったまま、答えた。


「この者は、俺が選んだ。俺の目に狂いはない」


 陛下がしばらく、フェンを見た。それから深く頷いた。


「……フェンリルがそう言うなら、俺が余計なことを言う必要はないな」



 帰り道、三人で並んで歩いた。


 殿下が「よかったです」と静かに言った。


「何がですか」


「あなたが——いつも通りだったので」


「いつも通りにしかできません」


「それで十分です。父王も、そう見ていたと思います」


 アルヴィン殿下が帰り際に「またいつか研究所に伺いたい」と言っていた。それも——少し嬉しかった。



 夕暮れの城下町を歩きながら、フェンが言った。


「……これで、公式になったな」


「そうですね」


「感想は」


 私はしばらく考えた。


「……不思議な気持ちです。でも——悪くないです」


 殿下が静かに「俺も、同じです」と言った。


 春が、もうすぐそこまで来ていた。


(第60話へ続く)


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