第58話「父王の答え」
殿下から「父王に話してきます」と短い手紙が来たのは、あの日から三日後だった。
私は返事を書いた。「わかりました。気をつけて」
それから二日間、手紙は来なかった。
◆
フェンが「心配しているか」と聞いた。
「……少し」
「顔に出ている」
「そうですか」
「心配しなくていい。あいつは曲がらない人間だ」
私はその言葉を、静かに胸にしまった。
フェンがそう言うなら——そうだろう、と思えた。
◆
五日後の昼過ぎに、殿下が来た。
顔色は普通だった。疲れているようにも見えたが、目は落ち着いていた。
「……お待たせしました」
「いいえ」
「父王と、話してきました」
私はお茶を出して、向かい合って座った。
◆
「父王の答えは」
「……条件付きで、認める、とのことでした」
「条件」
「はい」殿下がひとつ、息をついた。「聖獣の伴侶であることは評価している。ただ、一度正式に王城に招いて、改めて会いたい、と」
「……また謁見ですか」
「今度は少し、違います。前回は非公式でした。今度は——王家として、正式に迎える形になります」
◆
私はしばらく、その言葉を受け取った。
王家として、正式に。
「……緊張しますね」
「そうですね。俺も緊張しました、父王と話すとき」
「殿下が緊張したのですか」
「します。父親ですから」
それが少し、意外だった。殿下が父王に向かって緊張する姿を——想像していなかった。
「……うまくいきましたか」
「まあ、うまくいった方だと思います。兄も席にいましたが」
「アルヴィン殿下も」
「兄は——お前のことを認めていると、以前言いましたよね」と殿下が言った。「今日も、後押しをしてくれました」
◆
私は少し、驚いた。
「……アルヴィン殿下が」
「はい。意外でしたか」
「少し」
「兄は、人を見る目があります。それだけです」
殿下が静かに続けた。
「……あなたが怖がったり、揺れたりしなかったことを、兄はずっと見ていたのだと思います」
◆
フェンが縁側で「当然だ」と言った。
「フェン、聞いていましたか」
「全部」
「感想は」
「……悪くない展開だ」
殿下が「フェンリルにそう言ってもらえると、心強いです」と言った。
フェンが「褒めたわけではない」と言った。でもその声は、いつもより穏やかだった。
◆
殿下が帰り際、門のところで振り返った。
「……エリーゼさん」
「はい」
「正式な謁見が終わったら、もう少しちゃんとした話ができます」
「ちゃんとした話、とは」
殿下が少し間を置いた。
「……先のこと、を」
私は頷いた。
「待っています」
冬の風が、静かに二人の間を通り過ぎた。
(第59話へ続く)




