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第58話「父王の答え」

 殿下から「父王に話してきます」と短い手紙が来たのは、あの日から三日後だった。


 私は返事を書いた。「わかりました。気をつけて」


 それから二日間、手紙は来なかった。



 フェンが「心配しているか」と聞いた。


「……少し」


「顔に出ている」


「そうですか」


「心配しなくていい。あいつは曲がらない人間だ」


 私はその言葉を、静かに胸にしまった。


 フェンがそう言うなら——そうだろう、と思えた。



 五日後の昼過ぎに、殿下が来た。


 顔色は普通だった。疲れているようにも見えたが、目は落ち着いていた。


「……お待たせしました」


「いいえ」


「父王と、話してきました」


 私はお茶を出して、向かい合って座った。



「父王の答えは」


「……条件付きで、認める、とのことでした」


「条件」


「はい」殿下がひとつ、息をついた。「聖獣の伴侶であることは評価している。ただ、一度正式に王城に招いて、改めて会いたい、と」


「……また謁見ですか」


「今度は少し、違います。前回は非公式でした。今度は——王家として、正式に迎える形になります」



 私はしばらく、その言葉を受け取った。


 王家として、正式に。


「……緊張しますね」


「そうですね。俺も緊張しました、父王と話すとき」


「殿下が緊張したのですか」


「します。父親ですから」


 それが少し、意外だった。殿下が父王に向かって緊張する姿を——想像していなかった。


「……うまくいきましたか」


「まあ、うまくいった方だと思います。兄も席にいましたが」


「アルヴィン殿下も」


「兄は——お前のことを認めていると、以前言いましたよね」と殿下が言った。「今日も、後押しをしてくれました」



 私は少し、驚いた。


「……アルヴィン殿下が」


「はい。意外でしたか」


「少し」


「兄は、人を見る目があります。それだけです」


 殿下が静かに続けた。


「……あなたが怖がったり、揺れたりしなかったことを、兄はずっと見ていたのだと思います」



 フェンが縁側で「当然だ」と言った。


「フェン、聞いていましたか」


「全部」


「感想は」


「……悪くない展開だ」


 殿下が「フェンリルにそう言ってもらえると、心強いです」と言った。


 フェンが「褒めたわけではない」と言った。でもその声は、いつもより穏やかだった。



 殿下が帰り際、門のところで振り返った。


「……エリーゼさん」


「はい」


「正式な謁見が終わったら、もう少しちゃんとした話ができます」


「ちゃんとした話、とは」


 殿下が少し間を置いた。


「……先のこと、を」


 私は頷いた。


「待っています」


 冬の風が、静かに二人の間を通り過ぎた。


(第59話へ続く)


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