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第52話「毎日」

 フェンの予言は、正しかった。


 殿下は——ほぼ毎日、来るようになった。


 毎日ではなかった。王城の仕事がある日は来なかった。でもそれ以外は、だいたい昼過ぎに門をくぐってきた。ある日は林檎を持って。ある日は何も持たずに。ある日は短い手紙だけ先に寄越して。


 気づけば、それが当たり前になっていた。



 ナーシャが「殿下、また来ましたね」と嬉しそうに言った。


「そうですね」


「毎日のように来ますよね、最近」


「そうですね」


「……エリーゼ様、それって、もしかして」


「仕事を続けてください」


「はーい」


 殿下が縁側でその会話を聞いていた。何も言わなかったが、表情が少し柔らかかった。



 ある日、殿下が「何か手伝えることはありますか」と言った。


「……毎回、そう言いますね」


「役に立ちたいので」


「立っています」


「何もしていないのに?」


「いるだけで、十分です」


 殿下がしばらく黙った。それから「……そうですか」と静かに言った。少し、照れているように見えた。



 でも結局、殿下は薬草の仕分けを手伝った。もう慣れたもので、手つきが最初より確かになっていた。


「上手くなりましたね」


「何度もやっているので」


「カモミールとレモンバームの区別、もうできますか」


「……香りで判断しています」


「正しいです」


 殿下が少し誇らしそうな顔をした。私はそれを見て、また笑った。



 夕方、作業が終わって縁側でお茶を飲んでいると、フェンが言った。


「……寒くなってきたな」


「そうですね。もう冬支度をしないと」


「薬草の保存方法が変わるか」


「変わります。乾燥しやすくなるので、密封をしっかりしないといけません」


 殿下が「冬の薬草は種類が少なくなりますか」と聞いた。


「少なくなります。でも、冬にしか採れないものもあるので」


「どんなものですか」


 私が話し始めると、殿下がいつものように静かに聞いていた。



「……エリーゼさん」


「はい」


「あなたの話を聞くのが好きです」


 私は少し、間を置いた。


「薬草の話が、ですか」


「薬草の話も。でも——あなたが何かに夢中になっているときの声が、好きです」


 フェンが「うるさい」と言った。


 殿下が「失礼しました」と言った。


 私は何も言えなかった。耳が少し、熱かった。



 帰り際、殿下が「明日も来ていいですか」と言った。


「……昨日も今日も来ましたよ」


「明日は来ない方がいいですか」


 私は少し考えた。


「……来てください」


「はい」


 殿下が小さく笑って、帰っていった。


 フェンが「素直だな、お前も」と言った。


「そうですか」


「そうだ。いいことだ」


 冬の気配が、庭の空気の中にそっと混じり始めていた。


(第53話へ続く)

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