第52話「毎日」
フェンの予言は、正しかった。
殿下は——ほぼ毎日、来るようになった。
毎日ではなかった。王城の仕事がある日は来なかった。でもそれ以外は、だいたい昼過ぎに門をくぐってきた。ある日は林檎を持って。ある日は何も持たずに。ある日は短い手紙だけ先に寄越して。
気づけば、それが当たり前になっていた。
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ナーシャが「殿下、また来ましたね」と嬉しそうに言った。
「そうですね」
「毎日のように来ますよね、最近」
「そうですね」
「……エリーゼ様、それって、もしかして」
「仕事を続けてください」
「はーい」
殿下が縁側でその会話を聞いていた。何も言わなかったが、表情が少し柔らかかった。
◆
ある日、殿下が「何か手伝えることはありますか」と言った。
「……毎回、そう言いますね」
「役に立ちたいので」
「立っています」
「何もしていないのに?」
「いるだけで、十分です」
殿下がしばらく黙った。それから「……そうですか」と静かに言った。少し、照れているように見えた。
◆
でも結局、殿下は薬草の仕分けを手伝った。もう慣れたもので、手つきが最初より確かになっていた。
「上手くなりましたね」
「何度もやっているので」
「カモミールとレモンバームの区別、もうできますか」
「……香りで判断しています」
「正しいです」
殿下が少し誇らしそうな顔をした。私はそれを見て、また笑った。
◆
夕方、作業が終わって縁側でお茶を飲んでいると、フェンが言った。
「……寒くなってきたな」
「そうですね。もう冬支度をしないと」
「薬草の保存方法が変わるか」
「変わります。乾燥しやすくなるので、密封をしっかりしないといけません」
殿下が「冬の薬草は種類が少なくなりますか」と聞いた。
「少なくなります。でも、冬にしか採れないものもあるので」
「どんなものですか」
私が話し始めると、殿下がいつものように静かに聞いていた。
◆
「……エリーゼさん」
「はい」
「あなたの話を聞くのが好きです」
私は少し、間を置いた。
「薬草の話が、ですか」
「薬草の話も。でも——あなたが何かに夢中になっているときの声が、好きです」
フェンが「うるさい」と言った。
殿下が「失礼しました」と言った。
私は何も言えなかった。耳が少し、熱かった。
◆
帰り際、殿下が「明日も来ていいですか」と言った。
「……昨日も今日も来ましたよ」
「明日は来ない方がいいですか」
私は少し考えた。
「……来てください」
「はい」
殿下が小さく笑って、帰っていった。
フェンが「素直だな、お前も」と言った。
「そうですか」
「そうだ。いいことだ」
冬の気配が、庭の空気の中にそっと混じり始めていた。
(第53話へ続く)




