第48話「国王陛下」
王城からの正式な招待状が届いたのは、殿下が「言葉を整えています」と言った翌々日のことだった。
差出人は——国王陛下だった。
「聖獣の伴侶として、また薬師として働く者に、一度お目にかかりたい」
端的な文面だった。断れる種類の文面ではなかった。
◆
「フェン」
「読んだ」
「……行くべきですか」
「行く。俺も行く」
フェンが当然のように言った。私は少し安心した。
殿下に手紙を書いた。国王陛下からお招きがありました、と。
返事はすぐに来た。
「俺も同席します。一人で行かせません」
◆
三日後、私とフェンと殿下の三人で、王城の奥の広間に通された。
国王陛下は、想像より穏やかな顔をしていた。五十を過ぎた頃か——白髪交じりの髪に、静かな目をしていた。
「来てくれたか」
「お招きにあずかり、光栄です」
「堅苦しくしなくていい。少し話がしたかっただけだ」
陛下の視線がフェンに向いた。フェンが何も言わずに、静かに座っていた。
「……フェンリルが人に仕えるのは稀なことだ。お前が選んだということだな」
「そうです」とフェンが答えた。
◆
陛下が私を見た。
「薬師として、民から評判を聞いている。なろうとしてなった道ではないと聞くが」
「はい。元々は別の家の者でした」
「そうか。今は」
「今は——自分で選んでいます」
陛下が少し、目を細めた。
「カイルとはどういう間柄だ」
私は一瞬、言葉を探した。殿下が横から静かに言った。
「父上。それは俺から話す機会をいただけますか」
◆
陛下がカイル殿下を見た。それから、小さく笑った。
「そうか。ならば待とう」
「……ありがとうございます」
「ただ——」陛下が私に向き直った。「お前のことは、悪くないと思っている。それだけ言いたかった」
私は深く頭を下げた。
「……ありがとうございます」
「顔を上げろ。俺はそういう挨拶が得意ではない」
陛下が少し苦い顔をした。カイル殿下と、少し似た顔だと思った。
◆
帰り道、三人で並んで歩いた。
フェンが「悪い人間ではない」と言った。
「陛下がですか」
「ああ」
「フェンが言うと、信頼できますね」
「当然だ」
殿下が静かに「ありがとうございます」とフェンに言った。フェンが「俺に礼を言うな」と言った。
◆
城門を出たところで、殿下が立ち止まった。
「……エリーゼさん」
「はい」
「今日は、怖くなかったですか」
「少し緊張しましたが」
「そうですか」
「殿下が隣にいたので——それが一番、心強かったです」
殿下がしばらく、黙った。
それから、静かに言った。
「……もうすぐ、言葉が整います」
私はその言葉を、胸の中に大切にしまった。
もうすぐ——その言葉が、今日一番温かかった。
(第49話へ続く)




