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第48話「国王陛下」

 王城からの正式な招待状が届いたのは、殿下が「言葉を整えています」と言った翌々日のことだった。


 差出人は——国王陛下だった。


 「聖獣の伴侶として、また薬師として働く者に、一度お目にかかりたい」


 端的な文面だった。断れる種類の文面ではなかった。



「フェン」


「読んだ」


「……行くべきですか」


「行く。俺も行く」


 フェンが当然のように言った。私は少し安心した。


 殿下に手紙を書いた。国王陛下からお招きがありました、と。


 返事はすぐに来た。


 「俺も同席します。一人で行かせません」



 三日後、私とフェンと殿下の三人で、王城の奥の広間に通された。


 国王陛下は、想像より穏やかな顔をしていた。五十を過ぎた頃か——白髪交じりの髪に、静かな目をしていた。


「来てくれたか」


「お招きにあずかり、光栄です」


「堅苦しくしなくていい。少し話がしたかっただけだ」


 陛下の視線がフェンに向いた。フェンが何も言わずに、静かに座っていた。


「……フェンリルが人に仕えるのは稀なことだ。お前が選んだということだな」


「そうです」とフェンが答えた。



 陛下が私を見た。


「薬師として、民から評判を聞いている。なろうとしてなった道ではないと聞くが」


「はい。元々は別の家の者でした」


「そうか。今は」


「今は——自分で選んでいます」


 陛下が少し、目を細めた。


「カイルとはどういう間柄だ」


 私は一瞬、言葉を探した。殿下が横から静かに言った。


「父上。それは俺から話す機会をいただけますか」



 陛下がカイル殿下を見た。それから、小さく笑った。


「そうか。ならば待とう」


「……ありがとうございます」


「ただ——」陛下が私に向き直った。「お前のことは、悪くないと思っている。それだけ言いたかった」


 私は深く頭を下げた。


「……ありがとうございます」


「顔を上げろ。俺はそういう挨拶が得意ではない」


 陛下が少し苦い顔をした。カイル殿下と、少し似た顔だと思った。



 帰り道、三人で並んで歩いた。


 フェンが「悪い人間ではない」と言った。


「陛下がですか」


「ああ」


「フェンが言うと、信頼できますね」


「当然だ」


 殿下が静かに「ありがとうございます」とフェンに言った。フェンが「俺に礼を言うな」と言った。



 城門を出たところで、殿下が立ち止まった。


「……エリーゼさん」


「はい」


「今日は、怖くなかったですか」


「少し緊張しましたが」


「そうですか」


「殿下が隣にいたので——それが一番、心強かったです」


 殿下がしばらく、黙った。


 それから、静かに言った。


「……もうすぐ、言葉が整います」


 私はその言葉を、胸の中に大切にしまった。


 もうすぐ——その言葉が、今日一番温かかった。


(第49話へ続く)


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