第46話「王の関心」
翌朝、殿下は約束通りに来た。
手土産に、焼きたての小さなパイを持ってきた。林檎入りだった。
「昨日の市場で買った林檎を使ったと聞いて、城の厨房に頼みました」
「……わざわざ」
「あなたが林檎を好きだと思ったので」
私は少しだけ、口元が緩むのを感じた。
◆
縁側でお茶とパイを食べながら、しばらく静かに過ごした。
フェンが少し離れたところで丸くなっていた。昨日の雨でも降ったせいか、今日は空がよく晴れていた。
殿下がぽつりと言った。
「……父上が、あなたのことを聞いてきました」
「国王陛下が、ですか」
「はい」
私はしばらく、その言葉を受け取った。
「どのような」
「俺がよく研究所へ行っているという話が届いたようです。聖獣の伴侶とはどういう人物か、と」
◆
「……怖いですか」
殿下が静かに聞いた。
「少し。ただ——」
「ただ?」
「アルヴィン殿下に会ったときも、怖いと思いましたが、逃げたいとは思いませんでした。今も同じです」
殿下がしばらく、私を見た。
「父上は、アルヴィン兄上より手ごわいかもしれません」
「そうですか」
「でも——俺がそばにいます」
「知っています」
「今回は特に、そばにいます」
私はその言葉の重さを、静かに受け取った。
◆
「……殿下、少し聞いてもいいですか」
「はい」
「国王陛下が関心を持つということは——殿下と私のことが、公式に問われるということですか」
殿下がしばらく、庭を見た。
「そうなるかもしれません」
「殿下は、それについてどう思っていますか」
殿下がこちらを向いた。
「……俺は、あなたと正式に向き合いたいと思っています。ただ——その前に、ちゃんとあなたに伝えるべきことがあると思っている」
「伝えるべきこと、とは」
「まだ、言葉が整っていません。少し、時間をください」
◆
私はしばらく、その顔を見た。
いつも静かで、言葉を選ぶ人だった。急がない人だった。でも今日は——何か、決めようとしている目をしていた。
「……わかりました。待っています」
「ありがとうございます」
「ただ、あまり待たせないでください」
殿下が少し目を丸くした。それから、静かに笑った。
「……はい。急ぎます」
◆
帰り際、殿下が門のところで振り返った。
「エリーゼさん」
「はい」
「俺は——あなたのことを、ずっと考えています」
それだけ言って、歩いていった。
フェンが私の隣に来て、ため息をついた。
「……やっと動く気になったか」
「フェンには、わかっていたのですか」
「ずっと前から」
「私には、まだわかりません」
「わかっている。ただ、認めていないだけだ」
私は何も言えなかった。
秋の空が、高く澄んでいた。
(第47話へ続く)




