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第46話「王の関心」

 翌朝、殿下は約束通りに来た。


 手土産に、焼きたての小さなパイを持ってきた。林檎入りだった。


「昨日の市場で買った林檎を使ったと聞いて、城の厨房に頼みました」


「……わざわざ」


「あなたが林檎を好きだと思ったので」


 私は少しだけ、口元が緩むのを感じた。



 縁側でお茶とパイを食べながら、しばらく静かに過ごした。


 フェンが少し離れたところで丸くなっていた。昨日の雨でも降ったせいか、今日は空がよく晴れていた。


 殿下がぽつりと言った。


「……父上が、あなたのことを聞いてきました」


「国王陛下が、ですか」


「はい」


 私はしばらく、その言葉を受け取った。


「どのような」


「俺がよく研究所へ行っているという話が届いたようです。聖獣の伴侶とはどういう人物か、と」



「……怖いですか」


 殿下が静かに聞いた。


「少し。ただ——」


「ただ?」


「アルヴィン殿下に会ったときも、怖いと思いましたが、逃げたいとは思いませんでした。今も同じです」


 殿下がしばらく、私を見た。


「父上は、アルヴィン兄上より手ごわいかもしれません」


「そうですか」


「でも——俺がそばにいます」


「知っています」


「今回は特に、そばにいます」


 私はその言葉の重さを、静かに受け取った。



「……殿下、少し聞いてもいいですか」


「はい」


「国王陛下が関心を持つということは——殿下と私のことが、公式に問われるということですか」


 殿下がしばらく、庭を見た。


「そうなるかもしれません」


「殿下は、それについてどう思っていますか」


 殿下がこちらを向いた。


「……俺は、あなたと正式に向き合いたいと思っています。ただ——その前に、ちゃんとあなたに伝えるべきことがあると思っている」


「伝えるべきこと、とは」


「まだ、言葉が整っていません。少し、時間をください」



 私はしばらく、その顔を見た。


 いつも静かで、言葉を選ぶ人だった。急がない人だった。でも今日は——何か、決めようとしている目をしていた。


「……わかりました。待っています」


「ありがとうございます」


「ただ、あまり待たせないでください」


 殿下が少し目を丸くした。それから、静かに笑った。


「……はい。急ぎます」



 帰り際、殿下が門のところで振り返った。


「エリーゼさん」


「はい」


「俺は——あなたのことを、ずっと考えています」


 それだけ言って、歩いていった。


 フェンが私の隣に来て、ため息をついた。


「……やっと動く気になったか」


「フェンには、わかっていたのですか」


「ずっと前から」


「私には、まだわかりません」


「わかっている。ただ、認めていないだけだ」


 私は何も言えなかった。


 秋の空が、高く澄んでいた。


(第47話へ続く)

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