第44話「秋の市場」
夏が終わる頃、殿下から手紙が来た。
「約束していた季節の市が今週末に立ちます。よければ」
私はすぐに返事を書いた。「はい、ぜひ」
フェンが「また市場か」と言った。
「嫌ですか」
「嫌ではない」
「では、行きましょう」
「……当然だ」
◆
秋の市場は、夏の市場とは雰囲気が違った。
林檎や梨、干し葡萄、根菜。色が深くなって、甘い匂いと土の匂いが混ざり合っている。人々の着るものも少し厚くなって、どこかゆったりとした空気があった。
殿下が隣を歩きながら、静かに言った。
「秋の市場は好きですか」
「はい。色がきれいで。それに——薬草も秋に採れるものがあるので」
「また露店に目が行きますか」
「……行きそうです」
殿下が小さく笑った。
◆
しばらく歩くと、栗を売る露店があった。
殿下が足を止めた。
「……好きですか、栗は」
「好きです」
「ではこれを」
殿下が迷わずに一袋買った。店主が「大きな白い犬が来た!」と驚いた。フェンが「犬ではない」と言った。店主が固まった。
「フェン、怖がっています」
「本当のことを言った」
「……まあ、正確ですが」
◆
栗を食べながら歩いた。
焼いてあって、ほくほくと甘かった。
「……おいしいですね」
「そうですね」
「殿下は甘いものが好きですか」
「あなたが好きそうなものを選ぶのが好きです」
私はしばらく、その言葉を受け取った。
「……それは、私の好みを覚えているということですか」
「はい」
「どんな?」
「甘すぎないもの。香りがあるもの。見た目より素朴なもの」
私は少し驚いた。
「……正確ですね」
「よく見ているので」
◆
市場の奥に、乾燥した薬草を並べた露店があった。前回来たときとは別の店だった。
棚を見ていると、見たことのない乾燥草が一束あった。
「……これは何ですか」
「山のヤドリギですよ」と店主が言った。「北の方では咳止めに使うんですが、こちらではあまり見ないでしょう」
「はい。使い方を教えていただけますか」
しばらく店主と話し込んでいると、殿下が横からそっと聞いていた。
帰り道、殿下が言った。
「……あなたが知らないものに出会ったとき、目が変わりますね」
「そうですか」
「子どものような顔になります」
「それは、どういう意味ですか」
「……いい意味です」
◆
帰り道、三人で並んで歩いた。
フェンが私の左、殿下が右。
市場で買った林檎が一袋、殿下の手の中にあった。頼んでいないのに、気づいたら買ってくれていた。
「……殿下、いつ買ったのですか」
「あなたが薬草の話をしている間に」
「気づきませんでした」
「気づかなくていいです」
秋の夕暮れが、街をやわらかく染めていた。
こういう時間が、また来る。また来られる。
それが——今の私には、一番の贈り物だと思った。
(第45話へ続く)




