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第44話「秋の市場」

 夏が終わる頃、殿下から手紙が来た。


 「約束していた季節の市が今週末に立ちます。よければ」


 私はすぐに返事を書いた。「はい、ぜひ」


 フェンが「また市場か」と言った。


「嫌ですか」


「嫌ではない」


「では、行きましょう」


「……当然だ」



 秋の市場は、夏の市場とは雰囲気が違った。


 林檎や梨、干し葡萄、根菜。色が深くなって、甘い匂いと土の匂いが混ざり合っている。人々の着るものも少し厚くなって、どこかゆったりとした空気があった。


 殿下が隣を歩きながら、静かに言った。


「秋の市場は好きですか」


「はい。色がきれいで。それに——薬草も秋に採れるものがあるので」


「また露店に目が行きますか」


「……行きそうです」


 殿下が小さく笑った。



 しばらく歩くと、栗を売る露店があった。


 殿下が足を止めた。


「……好きですか、栗は」


「好きです」


「ではこれを」


 殿下が迷わずに一袋買った。店主が「大きな白い犬が来た!」と驚いた。フェンが「犬ではない」と言った。店主が固まった。


「フェン、怖がっています」


「本当のことを言った」


「……まあ、正確ですが」



 栗を食べながら歩いた。


 焼いてあって、ほくほくと甘かった。


「……おいしいですね」


「そうですね」


「殿下は甘いものが好きですか」


「あなたが好きそうなものを選ぶのが好きです」


 私はしばらく、その言葉を受け取った。


「……それは、私の好みを覚えているということですか」


「はい」


「どんな?」


「甘すぎないもの。香りがあるもの。見た目より素朴なもの」


 私は少し驚いた。


「……正確ですね」


「よく見ているので」



 市場の奥に、乾燥した薬草を並べた露店があった。前回来たときとは別の店だった。


 棚を見ていると、見たことのない乾燥草が一束あった。


「……これは何ですか」


「山のヤドリギですよ」と店主が言った。「北の方では咳止めに使うんですが、こちらではあまり見ないでしょう」


「はい。使い方を教えていただけますか」


 しばらく店主と話し込んでいると、殿下が横からそっと聞いていた。


 帰り道、殿下が言った。


「……あなたが知らないものに出会ったとき、目が変わりますね」


「そうですか」


「子どものような顔になります」


「それは、どういう意味ですか」


「……いい意味です」



 帰り道、三人で並んで歩いた。


 フェンが私の左、殿下が右。


 市場で買った林檎が一袋、殿下の手の中にあった。頼んでいないのに、気づいたら買ってくれていた。


「……殿下、いつ買ったのですか」


「あなたが薬草の話をしている間に」


「気づきませんでした」


「気づかなくていいです」


 秋の夕暮れが、街をやわらかく染めていた。


 こういう時間が、また来る。また来られる。


 それが——今の私には、一番の贈り物だと思った。


(第45話へ続く)

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