第39話「ナーシャの初仕事」
弟子になって二週間が経った頃、ナーシャが初めて一人で患者に向き合う日が来た。
といっても、私はすぐ隣にいた。ただ、声を出さずに見ていることにした。
◆
その日やってきたのは、三十代の女性だった。
「頭が痛くて、もう三日続いています。熱はないのですが」と言った。
ナーシャが少し緊張した様子で、でも真っ直ぐ向き合った。
「三日間、ずっとですか? それとも、時間帯によって違いますか」
「……朝と夕方がひどいです」
「目が痛いとか、光がまぶしいとか、そういうことはありますか」
「目……そういえば、少し」
「最近、細かい作業を長くされていましたか」
女性が少し驚いた顔をした。
「ええ、刺繍の仕事を請け負って、ここ一週間ほど毎日何時間も」
ナーシャがちらりと私を見た。私は何も言わずに、小さく頷いた。
◆
ナーシャは棚の前で少し考えてから、カモミールとラベンダーを取り出した。それに、目の疲れに効くユーフラシアを少量加えた。
「目と肩の疲れからきている頭痛だと思います。これをお湯に浸して、温かいうちに飲んでみてください。それと——できれば、今日は刺繍をお休みしてください」
「そんなに簡単に治りますか」
「すぐには難しいかもしれません。でも、原因を取り除かないと薬だけでは繰り返します」
女性がしばらく黙った。それから「わかりました」と言った。
◆
女性が帰ったあと、私はナーシャに言った。
「よくできました」
ナーシャの顔が、ぱっと明るくなった。それからすぐに「本当ですか、大丈夫でしたか」と心配そうになった。
「薬草の選択も、問診の仕方も、正確でした。一つだけ聞いていいですか」
「はい」
「なぜ目の疲れだと思いましたか」
「朝と夕方に痛いと聞いて——起きたばかりと、一日使い終わった時間だと思ったので。熱もないなら、体の外側の疲れかと」
私は少しの間、その答えを受け取った。
「……正しい考え方です」
◆
フェンが縁側からナーシャを見た。
「……筋がいい」
ナーシャが目を丸くした。
「フェンリル様、今、褒めてくださいましたか」
「事実を言った」
「同じことだと思います!」
「違う」
「でも嬉しいです!」
フェンが鼻息をついた。でも——追い払わなかった。
◆
夕方、殿下から手紙が来た。
「今日はどうでしたか」
私は少し考えてから返した。
「弟子が初めて患者を診ました。とても上手にやりました」
すぐに返事が来た。
「それはあなたが教えたからです」
私はしばらく、その言葉を見つめた。
そうかもしれない。でも——ナーシャがナーシャだったから、だとも思う。
弟子を持つということは、こういうことなのかもしれない。
誰かの最初の一歩に、立ち会えること。
それが——思っていたより、ずっと嬉しかった。
(第40話へ続く)




