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第39話「ナーシャの初仕事」

 弟子になって二週間が経った頃、ナーシャが初めて一人で患者に向き合う日が来た。


 といっても、私はすぐ隣にいた。ただ、声を出さずに見ていることにした。



 その日やってきたのは、三十代の女性だった。


 「頭が痛くて、もう三日続いています。熱はないのですが」と言った。


 ナーシャが少し緊張した様子で、でも真っ直ぐ向き合った。


「三日間、ずっとですか? それとも、時間帯によって違いますか」


「……朝と夕方がひどいです」


「目が痛いとか、光がまぶしいとか、そういうことはありますか」


「目……そういえば、少し」


「最近、細かい作業を長くされていましたか」


 女性が少し驚いた顔をした。


「ええ、刺繍の仕事を請け負って、ここ一週間ほど毎日何時間も」


 ナーシャがちらりと私を見た。私は何も言わずに、小さく頷いた。



 ナーシャは棚の前で少し考えてから、カモミールとラベンダーを取り出した。それに、目の疲れに効くユーフラシアを少量加えた。


「目と肩の疲れからきている頭痛だと思います。これをお湯に浸して、温かいうちに飲んでみてください。それと——できれば、今日は刺繍をお休みしてください」


「そんなに簡単に治りますか」


「すぐには難しいかもしれません。でも、原因を取り除かないと薬だけでは繰り返します」


 女性がしばらく黙った。それから「わかりました」と言った。



 女性が帰ったあと、私はナーシャに言った。


「よくできました」


 ナーシャの顔が、ぱっと明るくなった。それからすぐに「本当ですか、大丈夫でしたか」と心配そうになった。


「薬草の選択も、問診の仕方も、正確でした。一つだけ聞いていいですか」


「はい」


「なぜ目の疲れだと思いましたか」


「朝と夕方に痛いと聞いて——起きたばかりと、一日使い終わった時間だと思ったので。熱もないなら、体の外側の疲れかと」


 私は少しの間、その答えを受け取った。


「……正しい考え方です」



 フェンが縁側からナーシャを見た。


「……筋がいい」


 ナーシャが目を丸くした。


「フェンリル様、今、褒めてくださいましたか」


「事実を言った」


「同じことだと思います!」


「違う」


「でも嬉しいです!」


 フェンが鼻息をついた。でも——追い払わなかった。



 夕方、殿下から手紙が来た。


 「今日はどうでしたか」


 私は少し考えてから返した。


 「弟子が初めて患者を診ました。とても上手にやりました」


 すぐに返事が来た。


 「それはあなたが教えたからです」


 私はしばらく、その言葉を見つめた。


 そうかもしれない。でも——ナーシャがナーシャだったから、だとも思う。


 弟子を持つということは、こういうことなのかもしれない。


 誰かの最初の一歩に、立ち会えること。


 それが——思っていたより、ずっと嬉しかった。


(第40話へ続く)

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